第27話 仲間の支えがあったから

「――シッ!!」


 優斗が振り抜いた刀が、やっとミスリルゴーレムの関節を切り裂いた。

 瞬間、優斗は心の中で快哉を上げた。


 ミスリルゴーレムは非常に硬い。

 同じ金属のミスリルの刀ではかすり傷しか付けられない程に。


 しかし、かすり傷は付けられる。

 優斗はその、かすり傷を積み重ねた。


 かすり傷を【急所突き】で執拗に攻め立てた結果が、間接の破壊に繋がったのだ。


>>シークレットクエスト『無機物系モンスターを切断せよ』をクリアしました。

>>特技【破甲】を修得しました。


「よしっ!!」


 だが、これはまだ序の口である。


 右腕は切り落とせたが、まだ右腕しか切り落とせていないとも言える。

 優斗は無機物系の魔物と戦った経験がないため、どこまで壊せば死ぬかがわからない。


 最悪、すべてを破壊するまで動き続ける可能性もある。

 それを思えば右腕切断は、ほんの入り口に過ぎないのだ。


 小さな変化。

 だが大きな一歩だった。


「うおぉぉぉ!!」


 声を張り上げ、優斗は気持ちを入れ直す。

 ここで慢心しては逆転される。


 集中力を高め、優斗はミスリルゴーレムの攻撃に備える。

 その優斗の目が、先ほど落としたゴーレムの肩口に向かった。


「……ん?」


 その肩に、表面とは違う黒いものを発見した。

 まるで鉛筆の芯のようなそれに気を取られた優斗は、危うくゴーレムの直撃を浴びそうになる。


「――っと、危ない!」


 寸前のところで躱し、バックステップ。

 優斗は僅かに頭を悩ませる。


「……やってみるか?」


 頭に浮かんだ作戦を吟味する。

 たとえ失敗しても、失うものはない。

 それがわかると、優斗は思い切ってミスリルゴーレムに接近した。


「――フッ!」


 ゴーレムからの攻撃を回避。

 大きく相手を回り込む。


 そのゴーレムの肩口に手を当て、優斗は叫んだ。


「――ライトニング!!」


 ――バリバリバリ!!


 優斗の手から、大量の閃光が迸る。


 初手に撃って以来、優斗は魔術を放っていない。

 というのも、ミスリルゴーレムは優斗の魔術を、なんの通用もみせずに防いでしまったからだ。


 多少、バランスは崩れた。

 しかしそれだけだった。


 その原因は、ミスリルの特性である。

 ミスリルは最高峰の素材だ。

 武器と同様に、防具にも用いられる。


 防具に用いた場合は、攻撃を防ぐだけでなく、魔術をも防いでしまう。

 まさに魔法の金属である。


 ――だからこそ、ミスリルゴーレムに魔術が通用しなかったのではないか?

 優斗はそう考えた。


 優斗の魔術は、その高い防御性能によって防がれたのだ。

 では、ミスリルゴーレムの中身はどうか?


 結果は、一目瞭然だった。


 ライトニングを受けたミスリルゴーレムは、プスプスと白い煙を上げて膝を突いた。


 ――チャンス!

 優斗は続けざまに魔術を発動。


「ライトニングッ!!」


 ――バリバリバリ!!


 ミスリルゴーレムから上がる煙がさらに勢いを増した。


 ゴーレムは無機物の魔物だ。だが、ただの鉱石がくっついて動いているわけではない。

 他の魔物と同じように、動く原理が必ずある。


 もしかしたらその切断面の色の違いは、ゴーレムを動かす刻印なのではないか?

 それこそが、ゴーレムの唯一の弱点なのではないかと優斗は考えたのだ。


 その考えは、どうやら正解だったようだ。

 煙を上げたゴーレムは、立ち上がらない。


 だが、まだゴーレムは死んでいない。

 ダンジョンから出る扉が開かないからだ。


 優斗は刀を抜いて、集中する。

 全身から煙を上げるミスリルゴーレムを見ていると、優斗は不思議な錯覚を覚えた。


 まるで、ミスリルゴーレムが容易く切断出来そうに感じる。

 優斗はこれまで散々刀で攻撃してきた。自らの攻撃が、ミスリルゴーレムにほとんど通じないことを体感している。


 にも拘らず、優斗は不思議と〝斬れる〟と確信出来た。


(よくわからないけど、斬れる気がする)


 優斗が観察していると、ゴーレムが動き出した。

 まだライトニングのダメージが残っているのか、ゴーレムの動きは緩慢だ。


 ゴーレムが腕を振り上げる。

 その攻撃に、優斗は合せた。


 精神を集中し、一閃。

 優斗の刀は、あっさりゴーレムの腕を切り落とした。


「うおっ!?」


 あまりに手応えが軽すぎた。

 優斗は危うく刀を地面に叩きつけてしまうところだった。


 ゴトン、という音を立ててゴーレムの腕が床に落下した。


 これほど容易く切断出来たのは、2度放ったライトニングのおかげか、はたまた別の要素があるのか。優斗にはわからない。


 だが、刀を振るう優斗は一つだけ確信出来た。


「これが、最後の一撃だ!」


 ゴーレムの首を、優斗は刀で切り落とした。

 頭とともに、ゴーレムの体が前のめりに倒れ込む。


 ――ズゥゥゥン!


 難攻不落のように感じられたミスリルゴーレムを、優斗はようやく打ち倒した。


 血振りをして、刀を鞘に収める。

 瞬間、


「いやったぁぁぁぁぁぁ!!」


 優斗は叫んだ。

 優斗は相手を倒すつもりでは戦っていた。

 だが、相手はBランクの魔物である。

 現実的な思考はずっと「倒せるはずがない」と考えていた。


 それを、優斗は倒したのだ。

 つい最近まで万年Eランクで、ゴミ漁りと呼ばれていた男がだ。


 これが、嬉しくないはずがない。

 優斗はわなわな震えながら、拳を握りしめる。


「ゆ、ユートさん、やりましたね!!」


 ふらふらとした足取りで、エリスが優斗に駆け寄ってきた。


 顔面蒼白で、唇は真っ青。

 そんなエリスを見て、優斗は己を恥じた。


(僕が一人で戦って勝てたわけじゃないだろ……)


 この大金星は、エリスが居なければ達成出来なかった。

 優斗が前で戦えたのは、エリスが背中を支え続けてくれたからなのだ。


 だから優斗は、エリスを力いっぱい抱きしめた。


「ふぁっ!? ユートふぁん!!」

「ミスリルゴーレムに勝てたのは、エリスのおかげだ! ありがとう!」

「ふわぁぁぁぁ!!」


 抱き上げて、優斗は自分ごと、エリスとともにグルグル回った。

 優斗が無理矢理エリスを回すものだから、エリスは本当に目を回してダウンしてしまったのだった。



>>チェインクエスト『パーティとともにインスタンスダンジョンをクリアせよ』を完了しました。

>>緊急クエスト『少女を救え』を完了しました。

>>シークレットクエスト『遥か格上の魔物を倒せ』を完了しました。

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