第32話 魔術を使う魔物のいる階へ

 自室に戻った優斗は、スキルボードを確認する。


○レベル21→22

○スキルポイント:5→6


 5階までに出現した魔物の討伐クエストを全てクリアした。

 結果、レベルとスキルポイントが上昇した。


「やっぱり、一気に上昇はしないかあ」


 全部でクエスト5つ分だが、Eランクの魔物討伐で、しかも百体ずつだ。

 これまでポンと大量の経験を貰えていたクエストと比べると、難易度が低いこともあって、レベルもポイントもあまり上昇しなかった。


 しかし、それでも上昇はした。

 優斗は軽く拳を握りしめる。


「明日からはDランク戦だし、少し割り振っておくかな」


 スキルボードをしばし眺める。

 時間をかけて悩んだ末に、優斗はスキルを1つ上昇させた。


>>スキルポイント:6→1

>>剣術Lv4→5


「これだけ剣術スキルが高ければ、そうそう事故は起こらないよね」


 優斗はCランクのインスタンスダンジョンから生還した。

 おまけに、ダンジョンのボスはBランクのミスリルゴーレムだった。


 絶望的に思えたダンジョンをクリアしたことで、優斗はそれ相応の自信が付いてきていた。


 いまのステータスでもDランクの領域ならば十分だと感じていたが、突発的な事故は恐ろしい。

 念のため優斗は、剣術をBランク冒険者の水準まで伸ばしたのだった。


 すると、優斗はスキルボードに奇妙な記号が出現したことに気がついた。


「おおっ!? なんだろうこれ」


・技術

 ├剣術Lv5┬???

 ├魔術Lv2

 └気配察知Lv2


『剣術Lv5』の後ろに、スキルツリーの罫線『┬???』が出現していた。

 他には、特に変化した部分はない。


「うーん。……あっ! もしかして、これがスキル覚醒?」


 優斗は長年の冒険者経験で身につけた知識の中から、この現象に該当する情報を見つけ出した。


 スキル覚醒とは、基本スキルの上位版として認識されている。

 最もわかりやすいものでは、魔術だ。


 たとえばエリスの<ヒール>は、レベルが上がると<ハイヒール>が出現する。

 これが属にスキル覚醒と呼ばれている。


 他にも様々なスキル覚醒が存在するが、基本的にステータス情報は仲の良いパーティ間でしか共有されない。

 スキル覚醒の詳しい情報は、あまり出回っていないのが現状だ。


「これがスキル覚醒……!」


 優斗は、自らに訪れた大いなる変化に打ち震える。

 しかしすぐに我を取り戻し、首を傾げた。


「でもこれ、なんだろう? 普通に覚醒したってわけじゃなさそうだよね。『???』ってついてるし……まだ覚醒前っぽい」


 触れてもスキルボードは無反応だ。

 完全に新しいスキルとして出現したわけではなさそうである。


「『???』が変化して、初めて覚醒完了ってことになるのかな」


 スキルボードに出現した『???』にスキル名が正しく表示されるには、なんらかの条件があるものと推測出来る。

 だが、その条件は不明だ。


「うーん。一番はクエストをクリアすると出現するパターンだよなあ。でも、どのクエストがこの『???』に関係してるのかがさっぱりだ……」


 優斗は首を捻り、クエストを眺めながら考えるが、やはりどれもピンとこない。


「まあ、クエストは全部消化するつもりだし……。いずれわかるか」


 それまで、楽しみにしようと、優斗は心に決める。

 続けて優斗はクエストの消化率の確認を行う。


・魔術を100回使え(56/100)

・攻撃を100回受けるor躱せ(0/100)


「やっぱり、魔術はクリア出来なかったけど、明日にはクリア出来そうだなあ。攻撃を受ける・躱すの方は、やっぱりダメだったか……」


 優斗はエリスに不信感を抱かせぬよう、途中で魔術の使用頻度を落としていた。

 そのため56回の使用に留まってしまったが、この調子で進めれば明日には間違いなくクリア出来る。


 問題は、『攻撃を100回受けるor躱せ』の方である。

 優斗は回避を意識しながら、魔物と戦った。


 だがEランクの魔物は、優斗が一撃で倒せる相手である。

 意識した程度では、カウントされなかったようだ。


 かといって相手に先手を打たせた上で、回避してとどめを刺すのは、端から見たら相当不自然な戦い方であるため、優斗はチャレンジしていない。


 回避はまだ良い。

 魔物の攻撃をわざと食らいに行く方は、一発アウトだ。

 絶対に頭がおかしいと思われるし、優斗はそんな危険な真似はしたくない。


 相手は魔物だ。

 不用意に攻撃を受けるべきではない。


「これは、クリアするのが難しいかもしれないなあ……」


 このクエストもそうだが、『魔術を100回受ける』も優斗はやりたくない。

 やりたくはないが、クリア特典が気になる。


「クリアを目指すにしても、せめて新しい防具を入手してからだなあ……」


 優斗はこれらのクエストを一旦棚上げすることにした。



 翌日、広場で合流したエリスとともに、再びベースダンジョンに向かう。

 今日は6階からスタートする。

 いよいよ、ギルド依頼開始だ。


 6階の魔物はダークビット。ゴブリンと同じ背格好だが、ゴブリンよりは優しい顔をしている。

 だからといって侮れない。


 ダークビットはDランクの魔物で、その個体によってソルジャーやチーフといった役割を持っている。

 中でも優斗が厄介だと思っているのは、マジシャンの存在だ。


 この階から、魔術を使う魔物が現れる。

 まだまだ浅い階層ということもあり、使用してくる魔術の威力はさほどでもない。


 だが優斗は近接職、マジシャンは遠距離職だ。

 接近するまでに、相手が魔術を発動してしまう。


 もしマジシャンに遭遇した場合は、多少のダメージは覚悟せねばなるまい。


「……来た」


 優斗は気配察知で、魔物の接近を感じ取る。

 刀をすらりと抜いて身構えたその時。

 通路の奥の角から、ダークビット2体が現れた。


 片方は剣を装備している、ソルジャーだ。

 もう片方は――。


「くっ、マジシャンだ!」

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