第8話 魔術スクロール
『Lv10達成ボーナス袋』
○インベントリから出しますか?
・YES ・NO
「おお!?」
この画面の機能が『インベントリ』ということ。そして、このインベントリから、『Lv10達成ボーナス袋』とやらが取り出せることがわかった。
だが一体、取り出せばどこに、どうなるかがまだわからない。
「思い切って出してみるか!」
優斗はYESをタッチした。
次の瞬間だった。
「――えっ?」
優斗の目の前に、麻袋が出現した。
突然の出現に、優斗は呆然とした。
だが、落下するとみるや慌てて麻袋をキャッチする。
麻袋は、ずしりと重たかった。
「ええと……何が入ってるんだろう?」
困惑しながらも、優斗は中身を確認する。
麻袋の口を開くと、中にはガルドが沢山詰まっていた。
「――ッ!?」
瞬間的に、優斗は辺りを見回した。
だがここは優斗の部屋だ。当然、優斗しかいない。
それを確認して、ほっと安堵の息を吐く。
いきなりお金が出現するなど、心臓に悪すぎる。
「ボーナスってお金のことだったのか……」
中身を数えてみると、きっちり1万ガルドあった。
だが、優斗は先日ゴブリンを倒して5千ガルドを手に入れた時ほどの嬉しさを感じなかった。
まるで、盗品を手に入れたみたいだった。
「どうしよう……これ」
このお金は普通に使っても大丈夫か? という思いはあった。
しかし、折角レベル10になったボーナスとして貰ったのだから使いたい、という思いもある。
散々悩んだ結果、優斗はこのお金をさっさと使ってしまうことにした。
丁度、魔術スクロール100枚分だ。このスキル攻略のために使ってしまうのが一番である。
魔術スクロールを購入する前に、優斗は新しいインベントリの機能を詳しく確認した。
このインベントリだが、レアスキルである<異空庫>と似たような性質があることがわかった。
<異空庫>は、荷物を別空間に収納出来るスキルだ。
スキルのレベルによって、<異空庫>に入るものの量が変わる。
<異空庫>にアイテムを入れると、手ぶらでダンジョンを探索出来る。
そのため、<異空庫>持ちはそれだけでパーティ要員として歓迎される。
インベントリに収納する場合は、対象のアイテムに触れながら『収納』と念じると、インベントリに取り込まれる。
収納されたアイテムは、インベントリのマスに表示される。
お金は麻袋で纏めると、ガルド何枚分だろうと1マス分だ。
だがバラバラで収納すると、1ガルドにつき1マスになる。
マス目はかなりの数存在するが、ある程度纏めて収納しないと、後々目的のアイテムを探す時に苦労するはずだ。
インベントリの考察を終えたところで、優斗は1万ガルドを持って魔術書店に赴いた。
魔術書店は、非常にこじんまりとしたお店だ。
優斗はこれまで何度か足を運んだことがあるが、一度もスクロールを購入しなかった。
「1回使うだけで100ガルドを捨てるようなものだしね……」
書店に入った優斗は早速、100ガルドで購入出来る魔術書を選んでいく。
ファイアボール・アイスニードル・ロックニードル・エアカッター。
所謂初級魔術と呼ばれるそれを、次から次に手に取る。
「……お客さん、そんなに買うの?」
「はい。全部で100枚あると思います。確認して頂けますか?」
優斗がカウンターに商品を運び込むと――一度にこれだけ購入する人は、あまりいないのか――店主が驚いたように目を見開いた。
「全部で100枚。合計1万ガルドだよ」
店主にお金を支払い、優斗は鞄にスクロールを詰め込んで店を後にした。
(よかった……)
会計をしている際、優斗は内心ビクビクしていた。
というのも、支払ったお金はインベントリから出て来たものだったからだ。
店主がなにも言わなかったので、本物のお金だったようだ。
「次からはお金以外の、普通に使えるアイテムにして欲しいな……」
もう二度と心臓に負担がかかる思いはしたくない。
優斗は、そう節に願うのだった。
部屋に戻った優斗は、クエストを確認する。
>>レベル10→11
>>スキルポイント:0→1
「……きたっ……きたぁぁぁ!!」
己のレベルを見た優斗は、天井に向けて拳を突き上げた。
優斗が歓喜したのは、自らのレベルがDランク冒険者の水準に達したためだ。
冒険者のランクはレベルやスキルだけで決まるわけではない。だが目安は存在する。
E=レベル1~10 D=レベル11~25
C=レベル26~40 B=レベル41~55
A=レベル56~70 S=レベル71~
このようにレベルには、冒険者ランク毎に一定の水準が存在する。
万年Eランクで成長しなかった優斗にとって、レベルがDランクの水準に達したことは、夢のような出来事だった。
「ああ……生きてて良かった……」
ひとしきり歓喜したあと。
優斗はクエスト一覧を確認する。
○チェインクエスト
・武器の新調(0/1)
・魔術スクロールでキルラビット100匹討伐(0/100)NEW
「おっ、やっぱり派生したか」
これまでの経験から、魔術スクロールを購入しただけで終わるクエストではないと考えていた。
予想通り、スクロールを使ったキルラビット討伐が出現した。
今回討伐するのは、前回より少ない100匹だ。
だがゴブリンと違い、キルラビットの討伐である。
ゴブリンとキルラビットの強さは、同じくらいだ。
ゴブリンの方はやや力が強く、キルラビットの方はやや素早さが高いという個性がある。
現在昼を少し過ぎたくらいだ。
これからダンジョンに向かっても、夜までには戻って来られそうだ。
優斗は早速支度をし、足早にダンジョンへと向かったのだった。
新たに取得したスキル敏捷にものをいわせ、優斗は全速力でダンジョンに踏み入った。
キルラビットが出現するのは2階からだ。
1階を最短ルートで攻略する。
優斗は、5階までの道筋を頭に叩き込んでいる。
というのも、優斗が荷物持ちとしてパーティに参加する場合、ルートの確保も仕事の一つとして行っていたためだ。
優斗はレベルの上がらないEランクの冒険者だった。
そのためベースダンジョン6階以降の攻略には誘われたためしがない。
6階行こうは出現する魔物のランクが上昇する。
Eランクの優斗では道中、不慮の事故が発生する確率が高いためだ。
インスタンスダンジョンは、一度魔物を倒せば再出現(リポップ)しない。
立ち位置さえ間違えなければ優斗でも格上のダンジョンに参加出来た。
しかしベースダンジョンは、魔物を倒してもリポップする。
道を切り開いた先で、リポップした魔物にバックアタックされることが度々起こる。
――それが、不慮の事故だ。
これに優斗が巻き込まれれば、一発で死んでしまう。
そのため、このベースダンジョンでは格上の階層には手を出さなかった。
6階以降のルートを記憶していないのは、記憶しても使い道がなかったからだ。
さておき、優斗は最短ルートで2階に到達した。
スクロールをインベントリから取り出し、いつでも使用出来るようにする。
「ええと……スクロールは開いて、魔術名を唱えれば良いんだよね」
一枚100ガルドもする使い捨てのスクロールだ。
一度使えば、スクロールは消滅する。
失敗は許されない。
早速優斗の感覚が、魔物の気配を捕らえた。
――キルラビットだ。
相手はまだ100m以上先にいる。
「気配察知、おそるべし……」
スキルの威力に感動しながら、優斗はゆっくりとキルラビットに近づいていく。
ある程度近づいたところで、キルラビットが優斗に気がついた。
こちらを伺うように、ジワジワと近づく。
一定の距離まで近づいた時。
キルラビットが額のツノを優斗に向けて、一気に突っ込んできた。
すかさず優斗はスクロールを開いた。
「――ファイアボール!!」
魔術名を叫んだ次の瞬間。
優斗の目の前に、真っ赤な炎が出現した。
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