第7話 インベントリと報酬

 翌日、目を覚ました優斗は自らのステータスを見て首を傾げた。


「……あれ、スキルポイントの上がりが悪い?」


 はじめてデイリークエストを消化したときは、1つクリアにつき1ポイント貰えていた。

 だが昨日、クリアしたデイリークエストは、5つ分でポイント2つしか上昇していなかった。


「もしかして、スキルポイントもいレベルと同じで、貰えば貰うほど上がり難くなるのかな? いや、初回クリアにボーナスが加算されてたとか?」


 いずれの可能性も考えられる。

 ひとまず、今後確認するとして、優斗はクエストをチェックする。


○スタンダードクエスト

・魔術スクロールの入手(0/100枚)

・目を瞑ってまっすぐ歩く(0/100m)

・レベルを10まで上げる(8/10)

○チェインクエスト

・武器の新調(0/1)


「おおっ、いっぱいある!」


 新たなクエストの出現に、優斗は目を輝かせる。

 しかし昨日、優斗がデイリークエストを消化する前までは、これらのクエストは出現していなかった。


「もしかして、これまでのクエストクリア数によって、新しいクエストが出現するのかな?」


 優斗がデイリークエストを消化し終えた後に、これらのクエストが出現した可能性は大いに考えられる。


 どのようなクエストでも、消化しないわけにはいかなくなった。


「けど、魔術スクロール100枚はなあ……」


 魔術スクロールは、使い切りタイプの魔道具だ。

 スクロールを開くと、中に封じられた魔術が発動する。


 価格は1つ100ガルドから。

 貧乏な優斗にとっては、かなり高額商品である。

 おまけにたった1度の使用で、優斗の食費2回分が消えるのだ。

 そうそう購入しようとは思えない。


「ギリギリ、頑張れば買えないこともないけど……さすがになあ」


 先日ゴブリンを倒したお金と、現在の優斗の蓄えを用いれば、最も安い魔術スクロールならば100枚購入出来る。

 しかし、購入したからといって、クエストクリアでお金が戻ってくるわけではないのだ。


「うーん。もう少し様子を見るか……。チェインクエストは、剣術スキルの続きかな。剣を購入か……全然足りないよなあ」


 優斗が現在愛用している長剣は、10万ガルドで購入した。

 武器を新調しようとするなら、それだけのお金が必要となる。


 しかし、頑張って10万ガルド貯めて新しい武器を購入しても、現在のものと同等品である。


 優斗が現在使っている長剣に、不満な点は1つもない。

 剣身が歪んでいるわけでもないし、大きく欠けてもいない。

 上のランクに買い換えるならまだしも、わざわざ同ランク品に買い換えるのはお金の無駄である。


「こっちも保留だなあ……」


 レベルを10まで上げるは、クエストをクリアするだけで達成出来そうだ。

 試しに、優斗は朝一番でデイリークエストを消化することにした。


 腹筋・背筋・腕立て・スクワット・ランニングを終えて、優斗はステータス画面をチェックする。


>>レベル8→9

>>スキルポイント:3→4


「くっ! ちょっと足りなかった。……それにしても、スキルポイントの報酬が悪くなったなあ……。やっぱり、ポイントを取得すればするほど、貰いにくくなるタイプなのかあ」


 レベルと同じように、スキルポイント1つ取得するのに必要な〝クエストクリアポイント〟のようなものが存在していると考えられる。


 そのクリアポイントの必要数が、スキルポイントを貰う毎に、徐々に上昇していくのだ。


「よし、じゃあ簡単なものからクリアしよう」


 そう呟き、優斗は『目を瞑ってまっすぐ歩く』にチャレンジすることにした。


 優斗は大通りに出て、目を瞑る。

 目を瞑ると雑踏が、通りを行き交う人が、優斗の方向感覚を狂わせる。


(これ、かなり難しいぞ!)


 冒険者になってから、優斗はそれなりに自分の五感を磨いてきたつもりだった。

 だが雑踏の中では、スキルにならない程度の感覚など、なんの役にも立たなかった。


 それでも優斗は、ゆっくりと歩みを進める。

 次第に、ほんの少しずつではあるが、人の気配が立体的に感じられるようになった。


 ――コツン。

 つま先が、なにかに触れた。


「おい兄ちゃん。どこ見て歩いてんだ!?」

「あっ、す、スミマセン!!」


 瞼を開くと、露店の親父が目をつり上げていた。

 どうやらまっすぐ歩いていたつもりで、曲がっていたようだ。


 優斗は逃げるようにその場を立ち去った。

 少し離れたところで、再び瞼を瞑り、ゆっくり歩く。


 何度か露天商に怒鳴られながらも、優斗はなんとか瞼を瞑ったまま100mを歩ききった。


「さあ、どうだ!?」


 部屋に戻った優斗は、早速スキルボードを取り出し、確認する。

 すると、


○優斗(18)

○レベル9→10

○スキルポイント:4→6

○スキル

・基礎

 ├筋力Lv2

 └敏捷Lv0 NEW

・技術

 ├剣術Lv2

 └気配察知Lv0 NEW


「レベルアップ&新スキルきたぁぁぁ!!」


 優斗はガッツポーズを取った。

 早速気配察知にポイントを割り振る。


>>スキルポイント:6→0

>>敏捷Lv0→Lv2

>>気配察知Lv0→Lv2


 すると、すぐにその違いがありありと感じられた。


「……すごい。世界がハッキリ感じられる」


 これまで感じていた世界とは、比べものにならない。

 一回り……いや、二回りほど、世界の解像度が上がった。


 その気になれば窓の向こうを飛ぶ、小鳥の羽ばたきだって察知出来そうだった。


 また、体を軽く動かしてみると、これまでよりも体の反応速度が明らかに違う。

 筋力だけでは限界があった速度の壁を、余裕を持って超えられる。


「やっぱりスキルって、すごいな……」


 優斗は感動に体を震わせた。

 初めてスキルを振ったときも感じたが、やはりスキルの恩恵は凄まじい。


「そういえば、レベル10のクエストもクリアしてたっけ。あれはなにかあるのかな?」


 確認してみる。

 クエストは一覧から消えていた。

 きちんとクリアされたのだ。


「ということは、貰えたのはレベルとスキルポイントだけ? あれ、でもレベル10になってからクリアしたんだよね。じゃあ、レベル10達成クエストじゃ、レベルが上がらなかった?」


 優斗は首を傾げる。

 あるいは、新しいスキルのうちいずれかが、レベル10達成クエストのものだったか。


「目を瞑って歩くクエストは気配察知っぽいし、敏捷スキル取得クエストだったのかな?」


 そう帰結しようとした時だった。

 優斗が何気なく画面を動かしていると、これまで見たことのない画面が表示された。


「――んっ?」


 表示されたのは、四角いマス目が埋め尽くされた画面だった。

 マス目は画面のかなり下まで続いている。


 横が5マス。

 下は……数えきれないほど続いていた。


「なんだろうこれ? 初めて見るけど……」


 指でなぞってマス目を動かすが、使い方がさっぱりわからない。

 そのマス目の一番上。左端に、麻袋のようなアイコンが表示されている。


「他にヒントはないし、これを触れってことだよねきっと」


 優斗は恐る恐る、そのアイコンに触れる。

 すると、画面に小窓が浮かび上がった。


『Lv10達成ボーナス袋』

○インベントリから出しますか?

 ・YES ・NO

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