第9話 魔術の入手

「――ファイアボール!!」


 魔術名を叫んだ次の瞬間。

 優斗の目の前に、真っ赤な炎が出現した。


 その炎は優斗の意思をくみ取ったかのように、キルラビットに向けて、恐るべき速度で飛翔した。


「――ッ!」


 ファイアボールを食らったキルラビットは、悲鳴を上げることさえ出来ず、一瞬にして消し炭になった。


「……うわぁ」


 いままで冒険者が魔術を放ったところを、優斗は何度も目撃してきている。

 しかし、ここまでオーバーキルする光景は見たことがない。


 それもそのはず。

 魔術を格下の相手に使う魔術師などいないからだ。


 魔術は自らの体内に眠る、魔力を使用して発動する。

 魔術を使いすぎると、魔力欠乏が生じる。魔術が使えなくなるばかりか、足下が覚束なくなることもある。


 ダンジョン内で魔力欠乏が生じれば致命的だ。

 そのため、魔術師はなるべく魔力を使わないように立ち回る。


 不必要な場所で、魔術は決して使わないのだ。


「しかし、まさかキルラビット相手にこれほど威力があるとは思わなかったなあ……」


 さらに魔術スクロールの威力は、スクロールを作った人物のスキルレベルに左右される。

 このスクロールを作った人物は、相当レベルが高いのだ。


 気を取り直し、優斗はクエストの消化を行って行く。

 蹴りが付くのは一瞬だ。

 体力も使わないので、ゴブリン討伐の時より楽だった。


 最後のスクロールを使い終えた優斗は、すぐさまスキルボードを確認する。


「さてさて。今度はなにが出現したかなぁ……おおっ!?」


○優斗(18)

○レベル11→12

○スキルポイント:1→3

○スキル

・基礎

 ├筋力Lv2

 ├魔力Lv0 NEW

 └敏捷Lv2

・技術

 ├剣術Lv2

 ├魔術Lv0 NEW

 └気配察知Lv2


「魔術キタァァァ!!」


 優斗はガッツポーズを高らかに掲げた。

 魔術の使用は、冒険者にとって一種の憧れである。


 凄い剣術も勿論魅力ではあるが魔術ほどの派手さはない。

 そのため、冒険者を目指す者は皆魔術の使用を夢見るものである。

(多くの者は魔術適性なしと診断されて、夢破れるのだが……)


 さておき、優斗は魔力と魔術スキルを手に入れた。

 これに早速スキルポイントを振り分ける。


>>スキルポイント:3→1

>>魔力Lv0→Lv1

>>魔術Lv0→Lv1


「ポイントが少ない……」


 出来るなら、優斗はスキルをガンガン上昇させたかった。

 だがそれは贅沢というものだ。


 最近まで優斗はスキルを一つも入手出来なかったのだ。

 手に入るだけでも、有りがたいというものである。


 さておき、優斗はスキルボードを消して、手を前にかざした。


「…………っ? あれ、魔術ってどうやって使うんだろう?」


 優斗は首を捻る。

 先ほどまでは、魔術スクロールを使っていたので容易に発動出来た。


 しかし、いざ自分で使うとなると、使い方がさっぱりわからない。


「しまった。魔術師について調べておくんだった……」


 魔術の才能ゼロと診断されてから、優斗は魔術に関してすっぱり諦めた。

 そのため、魔術方面の知識はあまり入手していない。


「レベルが上がると自然に唱えられるんだっけ? それとも、師匠に教わるとか? ……まさか、スキルは獲得したけど、才能ナシだから使えないなんてことはないよね……?!」


 想像した未来に優斗は震える。

 もしそうなら、スキルポイントの振り損である。


 しょんぼりと肩を落とした優斗は、気を紛らわせるようにスキルボードを確認する。

 指で画面をなぞり、インベントリに切り替わる。

 すると、インベントリに見覚えのないアイテムが出現していた。


「……おっ? なんだろう、これ」


 指で触れると『呪文書<ライトニング>』と表示された。


「おおおっ! もしかして、クエストクリア報酬!?」


 早速優斗は呪文書を取り出し確認する。

 取り出した呪文書は、魔術スクロールによく似ていた。


「まさか、ただの魔術スクロールだったなんてオチじゃないよね?」


 優斗は恐る恐る、呪文書を開封する。

 すると、呪文書の中には魔方陣が描かれていた。

 魔方陣の中心部には、見覚えのない文字がある。


 優斗の記憶では、一度も見たことがない。

 なのにその文字が、なんて書いてあるのかが自然と理解出来た。


「ライトニング――うわっ!?」


 名前を口にした瞬間、呪文書の魔方陣がまばゆく輝いた。

 あまりのまぶしさに目を閉じる。


 光が消え、優斗は瞼を開く。

 先ほどまで手にしていたはずの呪文書が、忽然と姿を消していた。


「あ、あれ?」


 うっかり手放したのかと見回すが、どこにもない。

 まさか、やはり魔術スクロールと同じで、使い切りタイプだったのか?

 そう思った優斗は、これまでの自分とは違う感覚が、体のどこかに芽生えていることに気がついた。


 もしやと思い、優斗は手を前に出した。


「ライトニング!」


 瞬間。明滅。

 ――タァァァン!!


 空気が割れるような音が響き、ダンジョンの通路に一筋の光が瞬いた。


「お……おおお!!」


 魔術が使えた。

 自分の力で使えた。


 そのことに、優斗は心の底から歓喜した。


 まさか適性なしと言われた魔術が使えるようになるなど、考えもしなかった。

 レベルもそうだ。10年間、ずっと優斗のレベルは上がらなかった。

 スキルもだ。ひとつもスキルが手に入らなかった。


 だが、現在の優斗は、レベルが上がる。スキルが手に入った。

 そして、魔術も使えるようになった。


「……」


 優斗は自らの手を眺めながら、胸を高鳴らせていた。

 10年間、ずっと望み続けた力が、ここにある。


 そう思うと、いても立ってもいられなくなった。

 これまで冷静であろうと務めてきたが、もう我慢の限界だった。


 ――普通の冒険者が出来ることを、存分に試してみたくなった。


「やっほぉぉぉう!!」


 優斗はダンジョンの奥に向かって、駆けだしたのだった。

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