第3話 新しいクエストの出現

 ある冒険者パーティが、迷宮都市クロノスの街中を、激走する男を見つけた。


「あいつ、ユートか?」

「おっ、ホントだ」

「なにやってんだ?」


 冒険者たちは、ユートという男をよくよく知っている。

 万年Eランクで、一切成長しない男だ。


 冒険者経歴が長いくせに、荷物持ちとしてしか活動出来ないことから、口さがない者たちは彼をこう呼んでいる。


 ゴミ漁り。あるいは最弱。


 しかしながら、大抵の冒険者らはユートに対して、一定の敬意を払っていた。

 それは、ユートが未だに生き延びているからだ。


 冒険者は短命だ。

 冒険者になってから1年以内に命を落とすものが、かなりの数に上る。


 そんな中、ユートは冒険者として10年も生き残っている

 最弱であるにも拘らず、だ。


 これがどれほど凄いことか、ダンジョンに潜ったことのある冒険者ならば、実感として理解出来るのだ。


「おうゴミ漁り!」

「最弱、今日も元気がいいな」

「あっ、どうもこんにちは」


 ユートがその場で足を動かしながら、冒険者らにぺこりと頭を下げた。


 今年で18歳になる男とは思えぬほど、体が非常に小さい。

 見た目はほとんど子どもである。


 しかし立ち振る舞いは堂々としている。

『ゴミ漁り』や『最弱』と呼ばれたのに、卑屈な雰囲気は微塵もない。


 それは彼がこの口ぶりを、荒くれ者である冒険者ならではの、愛情表現だと知っているからだ。


 実際、冒険者らは過去ユートと共に、何度もダンジョンに潜った経験があった。

 その時の経験から、冒険者らはユートを真に罵倒する気はさらさらない。


 ユートは間違いなく、出来る冒険者だった。


「おう。今度インスタンスダンジョンに潜るとき、荷物持ちとして来ないか?」

「報酬ははずむぜ!」

「ありがとうございます! じゃあ、またその時にまた」

「おおよ」

「んじゃな。頑張れよ最弱」


 ユートを見送った冒険者らは、ふと気がついた。

 彼が走る速度が、妙に速い気がしたのだ。


 妙だな、と冒険者らは首を傾げる。


 ――まっ、気合が入ってるんだろうな。


 何故気合が入っているのかは、わからない。

 だが冒険者らは、そのことをさして深くは考えないのだった。


          ○


 デイリークエストをすべて消化した優斗は、熱心にスキルボードを見つめていた。


○優斗(18)

○レベル2→4

○スキルポイント:1→5

○スキル

 ――


 たった一日で、レベルが3つも上昇した。

 これまでの10年間は一体なんだったのだ? と思わなくもない。

 だが逆に、ここまでの10年があったからこその成長だと思うことにした。


「はあ……幸せ……」


 レベルが上がった自らのステータスを見ているだけで、優斗は幸福だった。

 この世の春が来たような気分である。

 雪解けまでが長かった。


 ここまで、スキルボードについて優斗がわかったことは2つ。

・クエストをクリアすると、経験値とスキルポイントが貰える。

・取得した経験値が一定を超えるとレベルが上がる。


 経験値は、スキルボードに表示されていない。

 そのため『一定を超える』というのは優斗の憶測だ。


 だが、クエスト1つ消化につき、必ず1つレベルが上がったわけではない。

 このことから、クエスト消化によるレベルアップも、通常の狩りと同じだと考えたのだ。


 魔物は1匹倒すとレベルが上がるわけではない。

 倒し続け、倒した経験が蓄積されて、初めてレベルが上昇する。


 だが、優斗はこれまで、何匹魔物を倒してもレベルが上がらなかった。

 魔物を倒してもレベルが上がらない優斗が、唯一レベルを上げる方法が、クエスト攻略だったのだ。


 10年間、魔物を倒してもレベルが上がらなかったのは、このシステムが優斗の成長を阻害していたからではないか?

 そう思ったところで、優斗はボードを怨むつもりはない。


 レベルは上がったのだ。

 感謝こそすれ、怨みはない。


 欲を言えば少しだけ……もう少しだけ早くこのスキルボードが解禁されて欲しかった優斗だった。


「それはそうと、このスキルポイントって、なんなんだろう?」


 ポイントは、クエスト1つ消化につき、1ポイント付与された。

 現在5ポイント溜まっている。


 しかし、このポイントが使えそうなところが見当たらない。


「うーん?」


 あれこれ弄っていると、再びクエスト画面に戻って来た。

 すると、先ほどまではなかった項目が優斗の目に留まった。


○スタンダードクエスト

・木剣素振り×1000(0/1000)NEW


「おー!」


 新しいクエストが出現していた。

 クエストの要求回数が、筋トレの10倍とかなり多い。

 だが素振り千回なら、優斗は何度も行っている。


「よしっ、これでまたレベルアップだ!」


 優斗は壁立てかけていたボロボロの木剣を手にして、馴染みの広場へと向かった。

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