第2話 初トレーニングクエスト

「……な、なんだ、これ?」


 優斗はしばし、そのボードを見て固まった。


『EXクエストを達成しました』

『スキルボードが開放いたします』


 ボードには、その文言がはっきりと浮かび上がっている。

 これまでこのような代物を、優斗は見たことがない。


 迷宮都市クロノスはなんでもあると謳われるほど、様々なアイテムが揃っている。

 しかし、これに似たアイテムはない。


 優斗は試しに、そのボードを指の先でそっと触れた。

 すると、


『ステータスを同期しました』

『デイリークエストを更新します』

「――ッ!?」


 画面の表示が変化した。


○優斗(18)

○レベル1

○スキルポイント:0

○スキル

 ――


 まず目に付いたのは、自らのステータスだ。

 表示されているのは神殿で確認出来る、自分のステータスと同じ形式だ。


 神殿の鑑定書と違うのは、『スキルポイント』という項目があるくらいだ。


「……うん。まあ、僕のステータスだね」


 10年間ダンジョンに潜り続けて、いまだにレベル1の冒険者など、優斗以外には存在しない。

 このステータスは他の誰でもない。優斗のものである。


「でも、スキルポイントってなんだろう?」


 優斗は再び、画面に触れる。

 すると、触れながら指を動かすと、画面が動くことがわかった。


「うーん。こうかな? ――おっ!」


 画面を横になぞると、ステータスから別の表記に変化した。


○デイリークエスト

・腕立て伏せ×100(0/100)

・腹筋×100(0/100)

・背筋×120(0/120)

・スクワット×100(0/100)

・ランニング×10km(0/10km)


「……なんだ、これ?」


 デイリークエストとあるが、書かれている内容は完全にトレーニングメニューである。

 この薄い板――スキルボードが、トレーニングをやらせたがっているのはわかる。


「でも……これをやったから、なんなんだ?」


 優斗はこれまで、様々なトレーニングを行って来た。

 もちろん、ここに書かれているメニューをこなしていた時もある。

 だがこれらを行ったからといって、飛躍的に強くなったことがない。


 当然、トレーニングを行えば多少は体が頑丈になる。

 だが、一年間のトレーニングよりも、1回のレベルアップだ。

 ダンジョン攻略に耐えうる冒険者になるためには、レベルアップが必須なのだ。


「……まあ、ダメもとでやってみるか」


 頭の中には、まだ死の感覚が滞留している。

 それを振り払うために、優斗は気軽な気持ちでトレーニングを開始するのだった。




 トレーニングを開始して5分。


「98……99……100!」


 優斗は腕立て伏せ100回を完了した。


「さて……これでどうだ?」


 優斗が額に浮かんだ汗を拭いながら、スキルボードをチェックする。

 すると、


>>腕立て伏せクエストが完了しました。

>>スキルポイントと経験値が付与されます。

>>レベルが上昇しました。


「……えっ!?」


 ボードに浮かび上がった文言を見て、優斗が喫驚した。

 慌ててボードに触れ、画面を動かす。


○優斗(18)

○レベル1→2

○スキルポイント:0→1

○スキル

 ――


「あっ……」


 上がってる。

 優斗のレベルが、上昇していた。


『レベル2』の数値を見た途端に、優斗の目頭が熱くなった。

 ぽろぽろと、熱いものが頬を伝う。


 これまで、どれほど努力してもレベルが上がらなかった。

 血反吐を吐くまでトレーニングしても、だ。


 訓練だけなら、他の冒険者に負けないほど行ってきた。

 にも拘わらず優斗は一切レベルが上がらなかった。


 レベルアップは、そんな優斗が長年待ちに待った瞬間だった。


「う……うう……」


 たとえこれが幻であっても、優斗は落胆しない。

 逆に、これほど素晴らしい夢を見させてくれたことを、神に感謝するだろう。


 ひとしきり涙したあと、優斗は素早く床に仰向けになった。


「よしっ! 次は腹筋100回だ!!」

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