第5話糖度増しの幼なじみは最強!


 初めてのヒロインキャラクターのため、私は何度も台本を読み込み演じるキャラクターを掴むことに必死であっという間に一週間は過ぎていった。


 そう、本日は先週約束した隼颯とのドライブデートの日。


 私はいつもより随分と早起きをして、朝から念入りに準備をしていた。

 そんな私の様子を見ていた妹、紗月が隼颯にそんな私の様子をリークしてることなど気付かずに……。


 「こんなもんかな……」


 姿見に全身を写す。

 今日の私は頑張ってストレートの黒髪をコテで巻いてふんわりさせた。

 ミディアムボブの髪は普段と違ってふわっとして可愛らしい。


 ドットのスカートに白のカットソー、買ったばかりのバックを持って準備完了。


 「よし、出来た! ってなんで私はこんなに気合い入れまくってるんだ!」


 姿見に移る自身の姿に思わずセルフツッコミを繰り広げる私に、妹の紗月はサラッと一言を投げてきた。


 「うん! お姉ちゃんは可愛いからね、これは隼颯兄が喜ぶよ!」


 うんうんとしたり顔で頷くと紗月はさらに、追加爆弾を放ってきた。


 「そんな、待ち合わせの隼颯兄はもう迎えに来たよ?」


 慌てて服を変えようとしたものの、着替える時間もなく登場した隼颯。

 私は気合い入りまくりのスタイルで呆然としてしまった。


 我に返って慌てて我が家の居間に行けば、確かにそこに既に隼颯はいた。


 「おはよう、紗友里。今日が楽しみすぎて早くに迎えに来たんだけど、呆れたか?」


 ちょっと照れたように言われた言葉に、思わずポカーンとアホ顔を晒してしまっていた……。ハッと我に返って、私は返事をする。


 「うん、ありがとう。出掛けよう!私も楽しみにしてたから」


 微笑んでいつになく素直に答えると、隼颯はとても嬉しそうに柔らかく笑って私を引き寄せた。


 「あぁ。準備出来たなら行くか」


 私の手を引きつつ、うちの母や紗月に向かって一言告げた。


 「今夜はディナーまで済ませてから送りますから」


 今日の予定を母に伝える隼颯に


 「あら、泊まってきてもいいのよ?」


 思いっきり予想外の返事をするお母さんに私は目を見開いて、口まで開けてしまった。


 「いえ、お互い翌日も仕事だから」


 隼颯は母のびっくり発言にもあっさり笑って答える。

 え? 母の発言に対する答えをそんなあっさり? 驚きは無いわけ?

 脳内では突っ込むものの、声には出ないほど私は動転してるのに隼颯はどうやら平常運転だ。


 「泊まりの時は、それはそれでまたお話します。今日はとりあえず日帰りデートですから」


 母と隼颯の会話が済むと私はそのまま、気付けば隼颯の車に乗せられドライブデートへと出発していた。


 そうして、乗せられて動き出した車は高速を走る。

 普段は都会から程近い住宅街に住む私達には新鮮に映る、新緑を横目に車は進む。


 そうして、一時間ほどで着いたのは山間部にあるテーマパーク。

 乗り物あり、ハイキングコースあり、バーベキューやキャンプ施設に温泉まである。

 周りは自然に囲まれた、そんな最近話題のテーマパークだ。


 「たまには、こういうのもいいだろ?」


 そうして、まずはフリーパスを購入して乗り物へ。

 ゴーカートに複雑な迷路を堪能したら、あっという間にお昼頃になる。


 お昼は手ぶらでバーベキューを楽しめるという所で、二人で楽しく肉や野菜を焼いて食べる。


 「手ぶらでこんな風に食べられるのっていいね。ここは空気もイイし」


 空気のいい場所でプチバーベキュー。楽しく美味しく食べられて私は、つい笑みを零す。

 そんな楽しんでる私を隼颯は優しく見つめてくれる。

 その表情は、今まで見ていた仲の良かった幼なじみの頃とは違うと感じる。

 そんな変化に、ついつい私は期待しそうになる。


 もしかして? 諦めなきゃと思ってた私の初恋は叶うの? なんて淡い期待をしちゃう。


 でも、待て待てと自分にストップをかける臆病な自分もいて……。


 だって今日もどこに行っても女の人に振り返られて、騒がれた。

 積極的なタイプの女の人は私が隣にいても、声を掛けてきたりもした。


 隼颯はやっぱりイケメンでモテるのだ。


 私に今まで見たことないくらい甘い顔してたって、期待してはいけない。

 そんな期待をして違うとなったときに自分が受けるダメージを想定すると、私にブレーキが掛かる。

 きっと、こんなだからなにも変わらないのかな。

 でも、このデートだってきっと隼颯の気まぐれだよね……


 私は隼颯に気づかれぬように小さくため息を零すと、気持ちを切り替えた。


 「午後はどうするの?」


 食べつつ尋ねれば、隼颯はニッコリとそのイケメンを生かした笑顔を浮かべて答えてくれた。


 「午後はまた移動するよ。行きたいところがあってさ」


 そうして、バーベキューを簡単に片付けると私達は駐車場へと戻り車に乗り込む。そして今更気づく……。


 今日の移動中、終始手を繋いで歩いてる。しかも、指を隙間なく絡めるいわゆる恋人繋ぎってやつで……。それを違和感なく受け入れてた私って一体……。

 気づいた驚きに内心でセルフ突っ込みしている間にも車は目的地に向かって進む。


 次についた先は、アウトレット。

 この系列のアウトレットは私の好きなブランドが多い。


 「さ、チラホラ見るのは目的の店に行ってからな?」


 車から店舗に歩いてくる間、またもしっかり繋がってる手。


 久しぶりに繋いだ隼颯手はいつの間にか大きさも変わってる。

 昔繋いで歩いてた頃は同じくらいだったのにな。

 大きくて節の目立つ手は男らしく、すっかり私の手を覆える大きさになっている。


 そんな大きな手に引かれて来たのは、アウトレット内のジュエリーショップ。


 お値段もお手頃でOLさんが気軽に手を出しやすい価格帯のブランドだ。

 私もネックレスやピアスを持っている。


 ちなみにピアスは二年前、隼颯が誕生日にくれた物でお気に入りで今日も身に付けている。


 「ここでなにを見るの?」


 店舗に入って思わず聞くと、隼颯は微笑んでショーケースの前に私を引っ張る。

 辿り着いたショーケースの中身は指輪だった。


 「紗友里はどんなデザインがいい?」


 ショーケースを前に唐突にされた質問。


 「へ? 指輪? シンプルなのが好き」


 そう答えると、更に質問が重ねられる。


 「色は?ゴールド、ピンクゴールド、プラチナとかあるだろ?」


 ショーケースの実物を見ながら、私は答えた。


 「ピンクゴールドかプラチナが好きかな」


 そうするとショーケースを私囲うように後ろから覗き込みながら、隼颯は店員さんに声を掛ける。


 「すみません。コレとソレのピンクゴールドとプラチナの出してもらえますか?ペアで」


 その声に驚いて振り返ると、柔らかく甘い顔をした隼颯と目が合う。


 「ここにお揃いで印を付けたい。とりあえずお互い周りに相手が居るアピールしときたい。牽制だな」


 照れくさそうに言う隼颯に、私は言われた言葉が呑み込めなくって目が点になる。


 「お揃いで? ペアリング付けるってこと?」


 「うん。嫌か? 俺、独占欲強いから付けて欲しいんだけど。ダメか?」


 ダメかと聞かれて、ダメな訳じゃないが……


 「あのさ、私達の関係ってなんなわけ? ペアリングする仲なの?」


 私はここにきてゴネる。これがスマートじゃないのは分かってる……。

 でも、大人だから察しましょ? とか無理で、私はちゃんと言葉を聞きたい。

 隼颯の気持ちを、きちんと聞きたいんだ。


 私は見上げた先の隼颯をしっかりと見つめる。


 「紗友里、今日はデートだよ。何気に初の二人きりでのデートだよ? この意味分かる?」


 「なんとなくね。でもちゃんと私は隼颯から聞きたいの」


 そう返した私に、隼颯は後ろからギュッとして私の耳元に囁いた。


 「ずっと昔から紗友里が好きだよ。俺の彼女になってよ」


 夢見てた言葉をやっと聞けた。隼颯の気持ちが嬉しくて仕方ない。

 動悸が早くて苦しいくらいで、嬉しさで弾けてしまいそう。


 「紗友里? 返事は?」


 「隼颯、大好き」


 そう背伸びして囁いて、私は隼颯の腕にギュッとしがみついていた。


 お互いに素直になった私達は幼なじみを卒業してこの日、彼氏彼女としてのお付き合いが始まった。


 そんな記念日になったこの日。

 お互いの指に揃いのプラチナリングを付けた。

 幼なじみからの脱却記念日!


 超カリスマ美容師のチャラ男はチャラさを無くして、幼なじみの彼氏になりましたとさ。


 たぶん、両家の親がせっつくので結婚も秒読みかもしれない。

 それも、悪くないかなと思っているのはナイショ!


 カリスマ美容師、新人声優紗友里と結婚?! と報じられるのも後押しとなるのだった。


Fin

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

超カリスマ美容師のチャラ男は幼なじみデス 織原深雪 @miyukiorihara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画