第3話俺の幼なじみ

 俺には可愛い三つ年下の幼なじみが居る。


 彼女の名前は真辺紗友里。

 声優の専門学校を出て二年。

 まだまだひよっこの新人声優。


 紗友里は昔からアニメやマンガが大好きで、そして歌うことが好きな女の子だった。

 高校を卒業後は専門学校に入り技術を学び、専門学校卒業後は事務所に所属し、最近まで脇役で何度か出演してきていた。


 彼女が中学に上がった頃までは、俺にとって可愛い妹みたいなものだった。


 そんな思いが変わったのは紗友里が高校に入る頃。

 俺が美容師の専門に入った頃だ。

 高校の制服を来た紗友里はすっかり女の子から成長して女の人になっていた。


 元から可愛かった紗友里は高校に入るとモテ始めた。

 それが俺は気に食わなくて……。そう思った時には、俺は紗友里が好きなんだと自覚した。


 専門を卒業し、無事に美容師になった俺は少しでも紗友里と接点を持ちたくて練習台になってもらったりしていた。


 しかし、俺が国際ヘアカットコンテストで優勝して話題の美容師となり仕事も忙しくなってきた頃、急に紗友里は俺と距離を取り出した。


 仕事の忙しさにかまけて、気づけば幼なじみの距離すら危うい感じになり俺は危機感を覚えた。


 紗友里を意識し出してからは付き合うのも、結婚するのも彼女がいいと思っている俺は、客から言い寄られることもあるが十八歳から誰とも付き合っていない。


 話題の美容師になってから髪も派手になり、それに服装も合わせたら軽く見られていろんな女に声をかけられたりもした。


 それも俺は軽く流していて、まとわりつかれても相手にしてなかった。

 まさか、その中でもしつこい相手をあしらいつつ歩いていたのを見られて距離を置かれるようになっていたとは夢にも思ってなかった俺は、久しぶりに紗友里としっかり顔を合わせた。


 店の後輩も育ち、指名客だけの接客になり少し時間が取れるようになったからだ。


 しかしここ数年は会えば口論になり、ついついキツく言い返しては毎回反省していた。


 どうにか昔みたいに仲良くしたくて。

 むしろ、そろそろしっかり俺の気持ちを伝えて、紗友里に俺の彼女になって欲しいから、しっかり話したい。


 俺はおばさんお手製のアップルパイを誘い文句に、着替えに行った紗友里を呼びに部屋まで行くと


 「恋心って厄介…」


 そんな紗友里の言葉が聞こえてきて、俺の背中に一気に冷や汗が流れる。

 紗友里、お前には好きな奴が居るのか?


 俺は紗友里の言葉を聞いて、一瞬頭が真っ白になるものの、なんとかしなければとなりふり構っていられない焦燥感に襲われる。


 この後俺は、どんどん紗友里に積極的にアプローチをしていくことになる。


 好きな女に振り向いてもらうため……。

 俺のそれは、傍から見ると滑稽なほど必死だった。


 そのころ、同僚で友人の響也曰く。


 「見た目を裏切る誠実さと必死さで、周りの女子ドン引きよ?」

とのこと。


 自分にとっての唯一に必死になってなにが悪い。

 開き直りと、元から持ち合わせていた行動力はフル活用。

 そこにここまでで培ったコネもフル活用した。


 俺はそれだけ必死だった。

 だって、好きも、大好きも気持ちを表す上で足りない。

 愛してるすら、何度言っても足りないほどに、俺は溺れるように彼女に焦がれている……。


 仕事でどれだけ持て囃されようと、惚れた女の前ではどうしようもないただの一人の男になる。

 むしろ、カッコ悪くても手に入れるためには必死だ。


 紗友里、俺を好きになってくれ……


 そんな想いで、俺は長年の幼なじみの彼女に自覚してから七年の片思いの末になりふり構わず必死にアプローチすることになった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る