第2話私の幼なじみ
私の隣の家に住む、三つ年上の幼なじみ大崎隼颯は現在メディアに取り上げられる程の超カリスマ美容師。
都内の有名美容院で働きながら、最近はモデルや芸能人のヘアメイクもしているらしい。
そんでもってチャラ男!
今の隼颯はいつ見かけてもその周りには着飾った女子が群がっていたり、綺麗なお姉さんと歩いていたりする。
カリスマと言われるようになり始めて、彼はすっかり変わってしまった……。
そんなことを考えつつ、現在オーディションを受けた全員が待つブースに、監督さんや音響監督さん、助監督さんが入ってくる。
「皆さん、お疲れ様でした。本日のオーディションの結果を発表します。今回星の瀬キララ役は審査番号八番、真辺紗友里さんに決定です!」
その声に驚き目を見開く。
「おめでとう!これからよろしく頼むよ」
そう、監督に声をかけられ
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
勢い良く頭を下げると、周りから拍手をもらう。
今回のオーディションで私は初めてメイン級キャラクターを演じることが決まった。
この喜びをどうしよう、そう思いつつ私は色々な説明を受けたあと迎えに来たマネージャーと一緒に帰路についた。
ひとまず決まった事を社長にも報告するため、事務所に寄る事になったからだ。
「紗友里、やっとね!おめでとう。これからスケジュールはしっかり調整するから頑張りなさい」
「はい!ありがとう、マネージャー」
にっこり笑って答えた。
事務所で社長に報告したら、とても喜んでくれて私は久しぶりにウキウキと弾む足取りで家へと帰宅したのだった。
カリスマと言われるまでは、私はよく隼颯の練習台としてカットされたりシャンプーされたりしていたけれど、国際カットコンテストで入賞して注目されて、変わっていった辺りから私は彼と距離を置いた。
私自身も夢に向かって専門学校での授業に忙しくなったりしたからだ。
そんな頃からたまに顔を合わせばお互い言い合いになり、昔のような雰囲気は無くなってしまい私は益々彼との距離を置いたのだった。
そんな少し寂しさを覚えたころ、私にとってのチャンスがやってきた。
そして彼との関係にも変化する出来事が起こり始める。
今回受けてたのは夏からの新アニメの声優オーディション。
話題の美少女アイドルアニメの二期。
今日は、そこに新たに登場するメインキャラクターのオーディションだ。
私はありったけの気持ちを込めて、そのキャラクターを演じた。
ひとつの役に十人の声優が集まり審査される。
メイン級とあって私の周りには新人とベテランの半々の声優さんたちが並んでいた。
毎回結果を待つこの時間はドキドキと胸が苦しくなるほどだ。
なんとしてもこの役が欲しい……。私は元々このアニメが大好きなのだ。
専門学校を卒業して、事務所に所属してからまだまだ、脇の1回登場のみとかの声しか当てれていない。
卒業してもう二年になる。
そろそろ代表作と呼べる作品とキャラクターが持てたら。
そんな希望を持ちつつ、役にしっかり気持ちを込めて精一杯やった。
この二年何度も落ちてきてるオーディション。
それでもたまにそのオーディションから端役を貰えるのだから、貴方は絶対役を貰える。
そう事務所の社長やマネージャーに励まされつつ、日々奮闘してやっと勝ち取ったメイン級キャラの役だった。
そんな弾んだ気持ちを吹っ飛ばすあいつが、何故か帰宅すると我が家に居たのだ。
「ただいま! ねぇ! お母さん聞いて!」
「あら、おかえり紗友里。隼颯くん来てるわよ!」
その一言に、ピシィと私は固まる。ギギギと動きの鈍い機械のように首を動かした先で、なぜか我が家のリビングでくつろぐあいつ。
「なーんで、私の家であんたがくつろいでるのよ!」
「開口一番に文句とか、相変わらず可愛げねーな! 俺はおばさんにカット頼まれたから来たんだっつーの!」
そう言えば、お母さんの髪短くなってた。しかもちゃんとお母さんに似合ってる。
だからなのか、お母さんもご機嫌な様子だ。
「だったら用は済んだんだからもう帰りなさいよ!」
「ふざけんな! おばさんのアップルパイ食べずに帰るわけないだろ!」
確かにさっきからママのお手製アップルパイの香りはしている。
「食べたらとっとと帰れ!」
そう言い捨てると、私は着替えるべく自室へと引っ込んだ。
ここ数年の私たちは、会えばこんな感じ。
会えば口論。昔は、隼颯ももっと優しくて、良いお兄ちゃんのような存在だった。
なのに、カリスマとか持て囃されるようになったら、隼颯は変わった。
いわゆるチャラ男って感じで。街ですれ違えば、毎回隣を歩く女が違う。
モデル体型の美人かと思えば、夜の蝶のような妖艶美人、さらには和装のしっとり美人。
そういった隼颯を見てから私は距離を置いた。
なぜかって?
幼馴染みだけど、私は中学に入る頃から隼颯を異性として見てたから。
そして、連れ歩く女性が美人なのを見る度に思った。
あぁ、私は範疇じゃなんだなって……。
だから、長々と続く私の初恋には終止符を打つべきで。
でも、長いこと想い、隣にいた人は簡単には嫌いになれない…。
自室でルームウェアに着替えながら、ぼそっと独り言が口をついて出る。
「恋心って思うようにいかないから厄介……、いっそ大嫌いになれたらいいのに……」
まさか、この発言を聞かれて隼颯の態度が急変するとは思わなかったのだった。
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