コードブルー
2‐A所属の女子、瀬古アイコ。彼女は現在、彼氏募集中の女子達と彼女募集中の男子達が一つ屋根の下で暮らし、番組が用意した障害を乗り越え真の愛を見付けられるかという趣旨の番組に出演していた。
彼女のお目当てはノボルという読者モデルのイケメン君。しかし、アイコはユミというライバルに押され、ノボルはユミとカップル成立秒読み段階まで来てしまっていた。
こうなると、もう望みは番組側が用意した障害に二人がつまづくことのみ。なのでアイコはこっそりその障害に一枚噛むことにした。
アイコには変身メイクという特技があった。そして彼女はその超絶技巧を用いライバルのユミになりすますと、「これでがっつりとユミの好感度を下げてやるぜ!」と勢い勇んで一枚噛みに向かった。
今回、番組側が用意していた障害は、ノボルへの銀行強盗ドッキリであった。人の本性は窮地で露わになる。強盗に巻き込まれたノボルが情けない姿を見せれば、女子の好感度ダウンという、ざっくりした趣旨である。
そして、ノボルが銀行に入りドッキリロケがスタート。目出し帽を被った男達にモデルガンを突き付けられると、ノボルはまんまとスタッフの思惑通り泣きながら命乞いをするという情けない姿を露呈し、良い所なく銀行奥の部屋に押し込まれ、部屋の柱にチェーンと南京錠で縛り付けられてしまった。
さらに、犯人役はカバンから時限爆弾風の小道具を取り出すと、「悪いが目撃者は生かしちゃおけねぇ」とタイマーを5分にセットして床に置き、身を翻した。そして、
「冥土の土産に教えてやろう。生き延びたきゃ青のコードを切りな。切れるもんならな」
と言い残すと、部屋を後にした。
「いやだ――! 誰か――! 誰か――!」
残されたノボルが泣き叫ぶ声が、虚しく部屋にこだまする。
しかしその時、ふいに部屋の扉が開いた。登場したのは、ユミになりすましたアイコ。こっそりスタッフの後をつけ、ロケ現場に潜入していたのだ。
「ユミ――――ッ!」
救世主の出現に歓喜し、愛しい人の名を叫ぶノボル。
「助けに来たわよノボル。……でもこのチェーンは外せないわね。そうだ、警察に電話――」
「間に合わない! ユミ、青のコードを切ってくれ!」
「……わかった。じゃ、はさみを持ってくるわね!」
「急いでくれ!」
そして出て行ったユミ(に化けたアイコ)。だったがしかし1分後、ユミはなにやらお坊さんを連れて戻ってきた。
さらに、驚きのあまり絶句するノボルの前で、ユミ、お坊さんのツルツルの頭にノリを塗ると、そこに弁当の仕切りに使う緑の草のようなもの(葉蘭)を貼り付けて、頭に草を生やした。
それを終えると、ユミと坊さん、無表情で並んで立ち、微動だにしない。
「……ユミ? はさみは?」
その色んな意味で頭のおかしい光景を前に呆然としながらもそう問うノボル。
しかしユミと坊さん、無表情で並んで立ち、微動だにしない。何も言わない。
「ユミ―――! はさみ――――!」
と、その意味不明さに激怒したノボル、激高してそう怒鳴るが、特に意味のない意味不明な行動の後は、無表情で並んで立ち、微動だにしないユミと頭に草の生えた坊さん。
「ユミ―――! はさみ――――!」
二人は答えない。
「ユミ―――! はさみ――――!」
二人は答えない。
そうこうしている内に、
「あ―――っ! 1分切った―――!」
タイマーが1分を切り、焦るノボル。
と、坊さん、そこでふいに懐から木魚を取り出すと、座り込んでそれを叩きながら、お経を上げ始めた。
「ふざけんな! このために来たのかあんた!」
激怒するノボルに対し、ユミもまたポケットからなにやら取り出すと、それを差し出して言った。
「ノボル、柿よ」
「……はぁ? 柿!? ここでなんで!? いらねーよそんなもん!」
「あはははは! この状況で柿がいらないとは! あんた石田三成かっ!」
「なんの話だよ!」
そして柿柿言いながら笑い転げ出すユミ。もはや取り付く島もない。ノボルは全てを諦めた。
そんな地獄絵図の中、タイマーのカウントはゼロに達する。ノボルは自らの死を覚悟した。
「カ――――ット!!」
ところで、隠し撮りをしていたスタッフの撮影終了の声が飛ぶ。
が、ノボルはショックで意識を失っており、その声を聞いておらず、コードブルー。ドクターヘリで運ばれていった。
処置を受けると、ノボルは「青のコードをっ!」と叫びながら目を覚ましたいう。
その後、アイコ渾身のネガティブキャンペーンが功を奏し、ノボルとユミは破局。アイコはめでたくノボルと結ばれたという……。
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