相手の好みに合わそうとして滑り倒すの会②
生徒会の仕事というのも案外大変なもので、その大変な仕事の内の一つが、各部活への部費の配分決め。正当な理由があっても、部費を減らしたら悪者扱いされるからである。
そんな大変な仕事に、馬締会長と片井副部長は取り組み、各部活の視察に回っていた。
まずは文化部系。二人は家庭科部が活動している調理室を訪れた。
「それでは、今年度の部費を決める参考にするため、本日、活動の様子を見学させていただこうと思います。ビデオで記録を撮らせていただきますが、あまり意識せず普段通りやっていただけると幸いです」
「はい! よろしくお願いします! 本日は、お弁当作りの活動を予定しています!」
片井副会長がカメラを片手にそう挨拶すると、部長の女子生徒が恐縮しながら返事をし、家庭科部の調理が始まった。
と、部員達は、見事な手際で調理を進めていった。
「これはちゃんとした部活のようですね会長」
「ああ」
その腕前に納得する副会長と会長。
「できました。では会長、よかったら食べてみてください」
「お? いいんですか? どれどれ……」
手早く弁当を完成させると、部長は味も見てみてくれと会長にすすめる。興味を惹かれ歩を進めていった会長だったが、その弁当の主食がおにぎりであることに気付くと、「うっ!」と足を止めて言った。
「ごめん、俺、人が握ったおにぎり食べられないんだ。なんか気持ち悪くて」
まさかの拒絶に、部員達、「え――――っ!?」と落胆の声を上げる。
「……い、いえいえ、大丈夫ですよ。ちゃんとラップで包んで握っていますので」
「ほほう……どれどれ?」
しかし大人な部長、すぐに気を取り直して衛生を主張する。が、会長、疑わしそうな顔をして、両手の人差し指で空中に四角を描いた。VARだ。
そして会長は、副会長が録画していた映像を見直して、実況しながら検証をし始める。
「さあ、問題のシーン。部長、ラップを用いておにぎりを握っていきます。…………しかし、あ―――っと! 一部包みきれずラップからはみ出している! 手肌が直接ライスボールに触れています! ハンド! ハンド! ハンドだ―――っ!」
それを聞いて、なに言ってんだコイツ、と唖然とする部員達だったが、会長、そんな彼らに、ビシッと人差し指を突きつけて、さらに言った。
「ふっ……この程度で家庭科部を名乗ろうだなどと片腹痛いわ! 今年度の貴様らの部費は、半分に減額だ!」
そして、やりたいだけやって、会長、その場から去っていってしまう。
『ええ――――――っ!?』
と、あまりの横暴ぶりに愕然とする部員達と副部長。
だが当の会長は、してやったり! と内心ほくそ笑んでいた。
決まった。これは面白かった。これで片井さんも俺にメロメロになったに違いない……と、思っていた。
しかし、その会長の奇行を見た片井副会長、思う。
あれ……やっぱり会長って、こんなおかしな所がある人だったんだわ。……となると、まずいわ。こんな彼が思う、『ちょっと変わった面白い子』って、やはり、とんでもなくブッ飛んだ子のことなんだわ! だとすれば、私もやるしかないわよ、撫子!
泥沼のいたちごっこを演じていることに気付かぬまま、二人はそんな調子で次、漫画研究部、漫研の視察に移る。
そこで、生徒会に活動資料として見せるために並べられていた漫画をパラパラと見るや、会長に張り合わねばならぬと思い込んでいる片井副会長、動いた。
「フッ……この程度で漫研を名乗ろうだなんて片腹痛いわね。この程度なら私の方がよほど面白いものを描けるわ。今から私と1ページ漫画対決をしなさい。あなた達が負けたら、今年度の部費は半減よ」
そう告げると、片井、ふいにペンと一枚の原稿用紙を取り、デスクの一つを占有して漫画を描き始めた。
それに、え――――っ!? と驚愕の声を上げる部員達と会長。
片井さん……ウソだろ!? あなた、そんな子だったっけ!? そんなことができる子だったっけ!?
と、面食らうばかりの会長。それは漫研も同じだったのだが、しかし戸惑いながらも、とにかくと彼らは代表して部長の男子がペンを取る。
そして、そうして片井が描き上げた漫画が、こちら。
一人の女子高生が息を切らし、停留しているバスに向かって走っていく。
彼女はバスに向かって手を振り、待って――! と叫ぶが、時間切れ。バスは無情にも、彼女の眼前で扉を閉ざし、発車してしまう。
「そんなぁ――――っ!」
それを見て、がっくりと膝から崩れ落ちる少女。どうやら何か理由があり、よほど急いでいるようだ。
と、そんな彼女の元に、自転車に乗って通りかかったらしい友人の男子が現れ、自分の自転車を差し出して言った。
「急いでんのか!? ならこれ乗ってけ!」
「いいの!? ありがとう!」
天の助け。彼女は急いでその自転車にまたがり走り出した――
ところで、サドルが突然ジェット噴射。
彼女の体は勢い良く飛翔。彼女はそのまま空の彼方へと消え去って、星となった。
その様を見て、男子、ニヤリと笑い、満足気に言った。
「これぞ、長年温めていた奥義・暗器サドルロケットバスター・罠ギミック改」
片井さん、本当にどうした!? 片井さんの頭がやばい!
その漫画を見た会長がそう愕然とする一方で、当の片井、得意満面に言い放った。
「フッ、私の勝ちね! やはりこの部の部費など半分で十分! これが悔しかったら、もっと精進することね!」
と、漫研部長、うなだれ、両手で机を叩いて、叫んだ。
「ちくしょおおおおおお―――――っ!」
え――――っ!? そしてこれ勝ったの!? これで勝ってたの!?
心中で激しく疑問を呈する会長だったが、漫研部長が描いた漫画は、手術中の外科医が助手の看護師に「メス、ハサミ、メス、青龍偃月刀」と言うだけのものであり、まあ正直、どっちにしろよくわからんかった。
だが会長がそんな風に思っているとは露知らず、当の片井は、してやったり! と内心ほくそ笑んでいた。
決まった。これは面白かった。これで会長も私にメロメロになったに違いない……と、思っていた。
しかし、その副会長の奇行を見た会長、思う。
あれ……やっぱり片井さんって、こんなおかしな所がある子だったんだ。……となると、まずいぞ。こんな彼女が思う、『ちょっと変わった面白い人』って、やっぱりとんでもなくブッ飛んだヤツのことなんだ! だとすれば、俺ももっとやるしかないぞ、マコト!
泥沼のいたちごっこを演じていることに気付かぬまま、二人はずっとそんな調子で、部活の視察を続けていった。
時々、ふと我に返り、「俺は、私は、一体何と戦っているのだろう」と自問する瞬間もあったのだが、それは誰にもわからなかった。
その後、二人は先生達にこっぴどく怒られ、部費の予算はまともなものに修正されたという。
二人の話は、またいつかへと続く、かも。
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