恋する少女
雨世界
1 ある日、少女は恋をした。
恋する少女
プロローグ
ある日、少女は恋をした。
本編
ずっと好きでした。私と付き合ってください。
ある日、一人の少年に、高校一年生の姫川めろんは恋をした。
めろんが恋をしたのは、めろんと同じ高校に通っている、めろんと同い年の男子高校生だった。
その男子高校生とめろんは偶然街で出会った。
久しぶりに長かった髪をばっさりと切って短い髪型にした私服姿のめろんは、その同じく私服姿の男子高校生が自分と同じ高校の生徒だと最初まったく気がつかなかったのだけど、どうやら男子高校生のほうはめろんが自分と同じ高校の生徒であると初めから気がついていたようだった。(美人のめろんは二個上の姉のすいかと一緒に、美人姉妹として結構、学校の中では有名人だった)
めろんは最初、その男子高校生のことをなんとも思っていなかったのだけど、(手をつないで走っているとき、背は低いのに結構手が大きいなと思ったくらいだった)でもめろんが一つ、その男子高校生のことで最初kらずっと気になっていたことがあった。
それは、その男子高校生が背中に大きな『ギターのケース』を背負っていたことだった。
「君、音楽やってるの? バンドやってるの?」
ようやく一息ついた、めろんは言った。
「え? ……あ、うん。ちょっとだけみんなでさ。バンド組んでるんだ。……まあ、みんな趣味でだけど」背中のギターケースを見てから、その男子高校生は言った。
それから男子高校生は照れ笑いをして、手に持っていた缶コーヒーを一口飲んだ。
二人は今、二人が出会った場所である小さなライブ会場の近くにある結構街で有名な自然公園の中にある休憩所のベンチの上に少し距離をおいて一緒に座っていた。そこにある自動販売機で二人はジュースを買い(めろんはオレンジジュース。男子高校生は缶コーヒーだった)それを飲みながら、夕暮れの公園の風景を休憩しながらぼんやりと眺めるようにして、少しだけ話をしていた。(もちろん、助けてくれてありがとう、とめろんは最初に男子高校生にお礼を言った)
めろんと男子高校生が出会ったのは、街の繁華街にある小さなライブ会場の横にある暗い路地裏だった。
そこで一緒にライブ会場にきていた友達の女の子を先に逃がしたあとに、一人逃げ遅れためろんがライブにきていたお客だと思われる、ガラの悪い数人の男の人に捕まっているときに、「あの、すみません。そこでなにやっているんですか?」と声をかけて、その男子高校生がめろんのことをガラの悪い男たちの手から助け出してくれたのだった。(男子高校生以外にもめろんたちのやり取りを目撃した人は結構いたけど、みんな無視をして、どこかに足早に歩いて消えて行ってしまった)
「へー。かっこいいじゃん。じゃあさ、今度なにか音楽聞かせてよ。一番得意なやつ」にっこりと笑ってめろんは言った。
「そうやって誰かに聞かせるほどの腕は僕にはないよ。自信もないし。それに、僕、……もう音楽止めるんだ」にっこりと笑って、夕日を見ながら、男子高校生は言った。
「……え? 音楽やめちゃうの?」めろんは言う。
「うん。音楽はもうやめる。やめて、これからは真面目に勉強することにしたんだ。バイトしながら、真面目に勉強して、大学受験を受けて、大学に合格できたら、きちんと単位をとって、空いている時間は今以上にバイトをして、きちんと就職活動して、大学を卒業して、就職をして、それから真面目に仕事をする」めろんを見て、男子高校生はちょっとだけ悲しそうな顔で、そう言った。
「そうなんだ。……うん。偉いね」夕日を見ながら、めろんは言う。
男子高校生はめろんのことを見て、小さく笑った。
それから二人は少し無言になった。
「……じゃあ、そろそろ僕、いくよ」男子高校生はそう言って座っていた休憩所のベンチから立ち上がると、空っぽになった缶コーヒーの缶を自動販売機の横に会いるゴミ箱の中に捨てた。
「うん。わかった」
めろんも同じようにベンチから立ち上がると、もうずっと前に空っぽになったオレンジジュースの缶を、ゴミ箱に捨てた。
「またね。今日は、助けてくれて、本当にどうもありがとう」にっこりと笑って、めろんは最後に、もう一度男子高校生にお礼を言った。
「僕は君の手を引いて、ただ全力で走っただけだけどね」照れ笑いをしながら、大きなギターケースを背負った男子高校生はめろんにそう言った。
「陸上部短距離のエースの私にちゃんとついてこられるだけ、たいしたもんだよ。いいフォームしていたよ。それに、ちょっとかっこよかった」めろんは言う。(美人のめろんにそう言われて、男子高校生は顔を赤くして照れ笑いをした)
「じゃあ。また」
そう言って、めろんに軽く手を振ってから、パーカーのポケットに両手を入れて、男子高校生は夕焼けに染まる赤色の公園の中をめろんに背を向けて歩き始めた。
「うん。また」
めろんはそんな男子高校生に手を振ってそう言った。
男子高校生はそれからめろんのほうをずっと一度も振り向かないで、そのまま歩いて、本当にどこかに行ってしまおうとした。
「……あのさ!! ちょっといいかな!!」
そんな男子高校生の背中を見ていためろんは、思わず大きな声でそう言った。
「……? なに?」男子高校生は振り向いて、ずっと男子高校生の後ろ姿をベンチの前に立って見送っていためろんのところまで、戻ってくるとそう言った。
「あのさ、名前。君の名前。教えてよ」にっこりと笑ってめろんは言った。
めろんは一番最初に自分の名前を男子高校生にお礼を言うときに名乗ったのだけど、なぜか男子高校生は自分の名前をめろんに教えてくれなかった。
もしかしたら二人の出会いは偶然だから、たとえ同じ高校に通っていたとしても、二人の関係は今日限りだって、その男子高校生は思っていたのかもしれない。名前を教えることで、つながりを作っちゃいけないと思っていたのかもしれない。
「……悠太。山中悠太だけど……」その男子高校生は、そう言って、めろんに自分の名前を名乗った。
……悠太。山中悠太か。山中悠太。うん。なかなかかっこいい名前じゃないか。すごくいい名前。最初からそう言って教えてくれればいいのに。少し頼りない外見とは大違いだね。悠太。とめろんは心の中でそう言った。
「悠太。悠太って呼んでいい?」めろんは言う
「別にいいけど」悠太は言う。
「あのさ、悠太」
「なに?」悠太は言う。
「音楽止めるなよ、悠太!!」にっこりと白い歯を出して、思いっきり手加減なしで、素敵な笑顔で笑ってから、めろんは大きな声で悠太にそう言った。
悠太は、そんなめろんの思いのこもった言葉をまじかで聞いて、……その目を、大きく見開いた。
「それでさ。今度絶対、悠太の歌。私に聞かせてね!」悠太の顔を正面から見て、めろんは言った。
最初の大声で、近くにいた公園の中を散歩をしている人やランニングをしている人などが数人物珍しい顔をして二人のことを見ていたようだけど、めろんは全然、そんなことは気にならなかった。
悠太は無言だった。……ただ、じっとめろんのことを正面から、その綺麗な目で、ただ見ているだけだった。
「もう、どうした悠太! 返事は!!」めろんは叫ぶ。
すると、観念したように悠太はにっこりと笑った。
「わかった。約束するよ。ここで君に約束する。僕は、絶対に『音楽をやめない』。この先、どんなに辛くても、どんなに忙しくても、『僕は一生、絶対に大好きな音楽を手放さない』」
悠太ははっきりとした声で、めろんにそう返事をした。
悠太はなんだかすごくすっきりとした顔をしていた。
そんな悠太のことを見て、めろんは心から嬉しくって、自然ににっこりと笑った。
それからめろんは「じゃあね、悠太! また学校でね!! ちゃんと学校でも私が声かけたら返事してよね」と言って、悠太にさよならをして、家に帰ることにした。
「うん。わかった。また学校で」悠太は手を振りながら、めろんに向かってそう言った。
そして二人は、今度こそ、公園の中で別れた。
その帰り道で、姫川めろんは、うーんと考えながら、……なんで私、悠太にあんなこと言っちゃったんだろう? と、そんなことを疑問に思って、ずっと悩んでいた。
……すると、その結果、実家の前に到着したころになって、ようやくめろんは『自分が悠太に一目惚れの恋をしている』のだと気がついた。
そのことに気がついて、真っ赤な夕焼けの中で、動きを止めた姫川めろんは、一人、その顔を夕焼けよりも真っ赤に染めた。
恋する少女 終わり
恋する少女 雨世界 @amesekai
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