第27話 それでも花火は関係なしに輝き続ける

「え、ちょっと、紡希?」

「空気を悪くしてごめんね。でも、これだけは譲歩じょうほできないんだ」

「だからって……その、本人がいる前で言わなくても……」

「言わずにいたら耐えるしかなかったから……言ったんだよ。本当に嫌だから」



 俺は小南と小野町さんが言葉を交わすのをただ呆然と見つめながら、生起せいきされた相反する感情の持っていき場を探していた。


 この人呼ばわりで嫌と明言されてショックを受けたのも確か、同時に清々しくあるのも確かなのだ。


 ならばどちらの気持ちを優先するべきか。体裁を保つ為に気にしてない振りを全力で演じ、醜く踊らされるか、それとも素直に受け入れきっぱり諦めるか…………。



「でも、そんな…………」

「そこまでして渋るのは……自分の為? ここまで積み上げてきたものが全て台無しになるから?」

「えッ――」



 馬鹿か俺は。この期に及んでまだ選択の余地があるなんて甘えてるんじゃねえよ。取るべき行動なんて…………一つしかねえだろ。



「――吉田、俺とペアを代わってくれないか?」



 俺はこの場にいる全員に聞こえるよう意識した声量で吉田に持ちかけた。


 視線が集まるのを感じながらも俺は吉田の顔を見続け訴える。



「……いいのか?」



 気遣ってくれたのだろうか、吉田は俺にしか聞こえない程度の小声で確認してきたが、俺が頷くのを見て「わかった」と今度はハッキリと口にした。



「――そういうことだ。行こう、新薗」

「え、ええ」



 俺は立ち上がり新薗に声をかけ、すっかり居心地の悪くなった場から離れた。


 小野町さんは空気悪化を覚悟で明言したのだ。その勇気を軽んじてはならない。俺は敬意を持って応えなければならないのだ。同時に俺は協力者の立場で今日の主役は小南だ。主役を困らせたままになどできない。ならどうするか? 簡単だ。俺が折れればいい……ただそれだけのこと。


 漆黒の空に花火の輝きは増していく中、俺はより暗く、より静かを求めて歩みを進めた。

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