第13話 二度目の感謝
……あいつ、なにキョロキョロしてんだ?
翌朝、校門前に立ち登校してくる生徒の顔を一人一人確認する新薗の姿を目にする。誰かを探しているのだろうか。
あ…………。
俺自身も登校している内の一人、確認の目が向くのは時間の問題……そしてまさに今、目と目が合った瞬間だった。
「朝から何してるんだ?」
さすがに無視するわけにもいかず俺は声をかける。
「あら、おはよう花川君。奇遇ね、私も今来たところよ」
「あれ? 人の話聞いてた?」
「あら、おはよう花川君。奇遇ね、私も今来たところよ」
「寝ぼけてんの? ていうか全然今来たところじゃないよね、無理あるよね」
「あら……おはよう、花川君。奇遇ね……私も、今、来たところなの」
同じセリフを繰り返す度に語気を強めていく新薗。あれか、人探しの邪魔をされて苛立っているのを、日常の何気ない会話で相手に汲み取らせるという斬新な拒絶方法か。
ならば邪魔者は去るとしよう。俺は止めていた足を再び動かし先に進む…………が、何故か新薗も隣に並びついてくる。
「……もしかして、探してたの俺?」
「ごめんなさい言ってる意味がわからないわ。寝ぼけているのかしら? だとしたら覚ましてあげてもいいのよ?」
徹底して偶然を貫く新薗から、これ以上深く追及してくるようなら暴力も止むを得ないみたいな気配をひしひしと感じ、俺は言及するのをやめた。
「昨日は聞きそびれてしまったけれど、あなた一体どんな手を使って桜美さんを退場させたの?」
「いや俺は何も……」
「嘘ね。あなたは桜美さんが退場することを確信していたようだった…………どうせ、人に言えないような卑劣な手を使ったのでしょ?」
「……黙秘で」
昇降口へと続く階段を上る。
「まあいいわ。それと紡希ちゃんに伝えておく件だけど、何としてでも成功させるから安心してなさい」
「え、あ、そう…………どうしちゃったのお前?」
「別に……なに、嫌なの?」
「嫌ってわけじゃ……ただ、やけにやる気満々だから調子狂うというか、不気味というか……」
「勘違いしないで、嫌々に決まってるでしょ」
と、下駄箱で上履きに履き替えたところで不意に新薗は動きを止める。
「それから……昨日は、その……助けてくれて、ありがとう……」
「いやあれはお前を利用しただけであって、善意でとかじゃないからな?」
「それだとしても…………嬉しかった、から」
「え――」
「――それじゃ」
そう別れを告げそそくさと行ってしまった新薗。俺は上履きを手にしたまま呆然と立ち尽くす。
それじゃって、この後すぐに教室で顔合わせるんですけど…………ていうか待って、あいつ嬉しいって言ってなかった? 俺に利用されたのを承知の上で嬉しいって、つまり…………。
上履きを床に落として足を入れる。
まさか変な性癖に目覚めたんじゃ……そんな本人の前では口にできない失礼を考えながら、俺は教室へと向かった。
ちなみに果てしなくどうでもいいことだが、球技大会でバスケと並行して行われていたサッカーはどうやら初戦敗退だったらしい。というのも期待されていた本間が想像以上に下手くそだったらしく、普通に実力差で負け……運動神経がいくら良くても全てのスポーツにおいて輝けるわけじゃないってことだ。
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