第38話 それぞれの結果 新薗冬華

 花川君が帰った後も、私は公園に一人残っていた。


 誰もいない静寂に包まれた公共空間。雨音に耳を傾ければ波立っていた心も次第に凪いでいく。



「はぁ…………私としたことが…………」



 平静を取り戻したことで、花川君の前で取り乱してしまっていた状況を遅れて思い出し、堪えきれず零してしまう。


 でも、知りたいことは知れた。伝えたかったことも伝えられた。


 面と向かってではなかったけれど、本音は言えた。きっと素直になれない普段の私のままだったら口にはできなかったと思う。飲んだことはないけど、お酒の力を借りたみたいなもの。


 それにしても、まさか小野町さんとの恋の発展? が目的だったなんて。


 彼はあれだけ関係ないと拒んでいた、だから善意による行いではないと最初から分かっていたけれど、それでも彼が行動を起こすに至った理由には驚かされた。


 自分の望みを手にする過程で強引に私の手を取った、そのことに不満がないかと言えば嘘になる。けどそれは虫がよすぎるというもの、何もできず熱が冷めるまでただ待つことを選んだ私が文句を言える筋合いはない。


 どんな理由であれ、救ってくれたのだから。



「………………」



 彼が消えていった方に目を向ける。当然ながら誰もいない。



「……変な人」



 私の中で大嫌いから少し嫌いに評価が変わった彼へと向けた呟き。本人にはまず言えない……絶対に言い返されるから。


 …………私も帰ろ。


 傘を広げ東屋あずまやから離れる。私だけがいる公園を、無人の公園にして。弱まる雨の中、前を向いて、帰路に就いた。

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