第26話 オラオラ高校生×二輪自動車=ちょっと関わりたくないタイプの人種2
「落ち着けって美波。こいつ、鋼理だぞ」
「………………」
小南は反応を示さず、以前として鋭い眼光を向けてくる。練馬の静めさせようとする声は虚空に散ったというわけか。
このままだと余計な面倒に発展しかねないと俺はヘルメットとマスクを外し、お披露目する。
「――えッ⁉ ほんとに……花川、じゃん」
顔をさらけだしたことで俺だと認識できたのか、小南はそう驚きを口にした。
「だから言ったろ? まあ誤解するのも無理ねーけどな、こんな出で立ちじゃ」
俺を茶化すようにも小南をフォローするようにも聞こえる練馬の言、けれど目を丸く見開いた小南には届かず、俺に釘付け状態。
「もしかしてあんた……あたしに振られた傷があまりにも深くて癒えなくて、それで……不良に」
ブフッ、と隣で吹きだす練馬。勘違いのまま更に奥深くまで突き進む小南の的外れな発言がツボに入ったのだろうが……勘違いとはいえ、展開としてありえそうだから困る。
「あの、全然違いますよ? というか根本から間違っているというか――」
「振ったあたしが言うのは
「だから違いますって――」
「あたしとの約束だからね!」
いやだから良い女かコイツ! 迷惑、駄目絶対‼ って言ってる貴様の発言が俺にとって迷惑行為なんだよ! お願いだから興味のない相手の言葉にも少しは耳を傾けて!
そう心中で苦言を呈する俺をよそに、練馬は笑い声を漏らさぬよう口元を抑えて必死に堪えている…………野郎、他人事だと思って呑気に笑いやがって。お宅の幼馴染だろ、何とかしてくれよ。
すると、俺の訴える目つきに気が付いたのか練馬は手で謝りを入れ、一呼吸置いた。
「そこまでにしといてやれよ美波。鋼理は別にグレたわけじゃないから」
「そうだったんだ……早とちりしてごめんね」
手を合わし片目を
人が変わったように聞き分け良くなったな。あれですか、恋は人を盲目にするだけでは飽き足らず難聴にまでしてしまうんですか。意中の相手のみ、目にも耳にもすぐに入るんですか。どういう構造だよそれ!
「でも、道を外れたわけじゃないならどうしてそんな格好してんの?」
誤解が解けたことで疑問が浮上する、小南はその疑問を氷解させようと俺に訊ねてきた。
本来誰かに見られてしまう事態は想定外だったが、幸か不幸かその事態を生んだのは小南。彼女には遅かれ早かれ協力を要請しようとしていた、それが今になっただけ。
「新薗を助ける為に必要だったんですよ。それと詳しい事情は話せないんですけど、その、小南さんにも手伝ってもらいたいんですが……」
「え、マジで言ってんの?」
痴女疑惑を知っている前提で小南に協力の要請をすると、隣にいる練馬が驚きの声を上げた。けれど構うことなく俺は小南を見据え続ける。
「うーん…………それってがっくんも協力してるの? だったら協力するけど」
小首をかしげ考えていた小南が出した条件は、拍子抜けするくらい単純なものだった。隣からは深い溜息が零れる。
「なら成立ですね。よろしくお願いします」
「よろしく! えへへ、がっくんと一緒だ!」
嬉々とした表情で駆け寄る小南に練馬は困り顔をしながらも、手に持つ買い物袋を何も言わずにさりげなく持ってあげるあたり、優しい温かさを感じる。
「それで花川、あたしはなにすればいいの?」
「今のところ特には……あ、でもちょっと聞きたいことがあるんですけど、新薗のあらぬ噂をツイートした人物を知ってたりします?」
「知ってるよ。うちの学校の
すんなりとでてきた首謀者であろう名前。当然俺は初めて聞く名だ。
「聞いといてなんですけど、そんな簡単に言ってもいいんですか?」
「全然平気、あたしアイツ嫌いだし」
なんとあっさりした理由、けど俺にとっては物凄く心強い。これなら首謀者の情報も球磨商の状況もリークしてもらえる。
「他にはある? ききたいこと」
「いえ、もう大丈夫です。ただ、俺がこの格好してることは他言無用でお願いします」
「おっけー。じゃ、がっくん! 今度こそ一緒に料理作ろ!」
軽い調子で答えた小南は、本来の目的の為に練馬の腕を掴み、玄関へと導くように引っ張っていく。
「わかった、わかったから引っ張るなって美波―――鋼理も一緒に作るか?」
「遠慮しとく。バイクは動かし方わからないから片付けておいてくれ。じゃ」
練馬の誘いを断り、一方的に別れを告げ、俺はその場を後にした。
俺が加わりでもしたら小南に何されるかわからない。下手したら料理中、手が滑ったといって刺されるなんて事態も……さすがにそれはないか。
俺は一人勝手に恐怖し、一人勝手に否定する。
これを首謀者にも味合わせ、最終的には否定もできない恐怖を植え付ければ…………。
と、そこですれ違う人達の視線がやけに自分に集中していることに気づき、俺はハッとする。
やべッ、着替えるの忘れてた!
突如湧きあがってきた羞恥、俺はいてもたってもいられず駆けて帰路に就く。
鞄の中に学生服が入ってるのを忘れていたと知ったのは、当然家に着いてからだった。
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