第25話 オラオラ高校生×二輪自動車=ちょっと関わりたくないタイプの人種1
放課後、俺は家には帰らず練馬宅へと来ていた。悪戸に借りた……いや貰ったあのジャージと組み合わせることで、より印象的になる物がここにはある。
「親父もお袋もいなかったぜ。車庫の鍵もこの通り――って、その格好…………」
指で鍵をくるくると回して家の中が不在であることを報告する練馬だったが、俺の姿を見て唖然とし、勢いよく弧を描いていた鍵も止まった指のおかげでだらしなくぶら下がる。
「気にするな。用が済んだらさっさと着替える」
「それって……朝、正義から受け取ってたやつか?」
「ああ」と俺は頷く。学校ですでに着替えを済まし、ここに来るまでは学生服で隠していたのだ。デザインはこれっぽっちも魅力を感じないが、意外にも肌触りよく機能性も抜群。部屋着としてはありだな。
「あのアカウントといい、その格好といい、どこを目指そうとしてるんだ鋼理は…………にしても全然似合ってねーな。相容れないっていうか、ちょっと笑えるから写真撮っていい? 辰真にも鋼理の滑稽な姿を見せてやりたい」
「それはやめてくれ……と言いたいが、悲しいことにこのあと撮ってもらう予定が控えている。その時はよろしく、練馬」
冗談を抜かしたつもりだったのか、承諾とも取れる俺の発言にぽかんと呆ける練馬。ちなみにもう一人の協力者である吉田はアニ同を優先しこの場には不参加だ。
「この服を長くは着ていたくない。早速取り掛かろう」
「お、おう、そうだな」
我に返った練馬はすぐ近くにある車庫の鍵を開け、シャッターを上げる。
「これは……結構あるな」
中を覗くとそこには多くのバイクが置かれていた。しかし残念なことに機械科に入って早くして向いていないと悟った俺にはそれくらいの感想しかでてこない。
「親父のコレクションだ。つっても、ほとんどは不動車か車検切れで公道は走れないけどな」
ほんと何がいいんだか、そう付け足した練馬。呆れているようにも、誇らしくあるようにも思える声音だった。
「ほとんどってことは乗れるバイクもあるのか?」
「え? ああ、あるぞ。そこにあるナンバープレート付いてるやつが唯一乗れる」
そう言って練馬は指で指し示し、俺は目で追う。
黒くて大きい……機械音痴の俺には下品にも聞こえる印象しかなかった。
「これに決めた。練馬、動かし方がわからないから出してくれ」
「……まさかとは思うが無免で流しに行こうとなんて考えたりしてねーよな?」
唯一乗れるという点で指名した俺に疑問を抱いたのか、練馬は訝しむような視線を向けてくる。なんと失礼な奴だ、俺がそうな非行に走るわけないだろ……バイクだけに、ブンブン。
「お前の目は節穴か? 今までをよく振り返えればわかると思うが、俺はそんな愚を絶対に犯さない」
「いや鏡に映った今の自分を見てきてみ? 説得力を生みだせないことが良く分かると思うから」
「だから気にするなって! 俺も恥ずかしいのを必死に堪えてるんだから!」
再度、格好に関してを引き合いに出してきた練馬に、俺は近所迷惑にならないよう声量を意識しながらそう口にした。
「悪かった悪かった、念の為聞いただけで、別にそんな心配してねって」
宥めるような笑顔を浮かべながら、練馬は黒光りバイクのサイドスタンドを上げ、車庫から外に運び出す。
「なあ、練馬。注文が多くてすまないがフルフェイスじゃないヘルメットはないのか? あの、暴走族とかが被ってそうな」
「コルク半のことか? 確か親父の昔のがあった気が……ちょい待ってろ」
駐車場まで持ってきたバイクのサイドスタンドを下ろし、再び車庫に戻る練馬。待っている間、俺は鞄から今朝の内に購入しておいた黒マスクを取り出し、つけた。
「あったぞ鋼理、ちょっと埃被っちゃってるけど…………ほ、ほい」
「助かる」
コルク半と呼ばれる黒ラメのヘルメットを受け取り僅かについた埃を手で払った。途中、練馬は俺のつける黒マスクを見て言葉を詰まらせていたが、もう何も言うまいと触れてはこなかった…………ほんと二重の意味で助かる。
とにかく、これで準備は整った。俺はヘルメットを装着し、バイクに
「よし、練馬。俺のスマホ渡すから、この状態で一枚撮ってくれ」
「お、おう。後ろから撮ったほうがいいか?」
「そうだな、顔が写るのは避けたい。それでお願いする」
俺のスマホを手にした練馬は「おう」と頷く。
――カシャッ。
しばらくもしないうちに背後からシャッターを切る音、ようやくこの姿から解放される。
俺はバイクから降り、練馬の元に写真を確認しにいく。
「いい感じに撮れてるな。後はナンバープレートを隠すように加工すれば…………問題なく問題を起こせるだろう」
「なあ鋼理、この写真どうする気だ?」
「いずれわかる。それより明日の朝、新しいアカウントの方である呟きをするからリツイートしてもらいたい」
練馬からしたらアカウントも写真も全くもって意味が分からないだろう。困惑するのも当然だ。
「はぁ…………わかったよ。ついでにその協力が最後だったりするのか?」
「いや、練馬の活躍の場はまだあるぞ」
「そうかよ」と俺からの嬉しくない発言に呆れたような笑みを浮かべながら嘆息する練馬。
「――がっくんから離れてッ!」
すると突然、閑静な住宅街で叫びにも似た声が俺の耳を
「み、美波?」
練馬が口にした通り、声が聞こえた方に目を向けるとそこには買い物袋をぶら下げた小南が立っていた。
「だ、誰だか知らないけど! その、がっくんに何かしたら、よ、容赦しないからッ!」
間違いなく盛大な勘違いをしているであろう小南は鬼気迫る表情で威圧してくる。しかし、どもる言葉、震える声から怖気も感じとれる。
……これは想像以上に効果絶大だな。
緊迫した空気の中、俺は場違いにもマスクの下でほくそ笑んだ。
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