第14話 練馬の幼馴染み2

 練馬の隣を歩く彼女、小南美波こなみみなは球磨商に通う練馬の幼馴染だ。その関係は幼稚園かららしく実に仲が良い。高校が違えどこうして顔を合わせているのが何よりの証拠だ。



「なあ花川、やはり俺には小南が練馬に好意を寄せているようにしか見えないのだが」

「間違いないな。幼馴染以上を欲しているぞ、あれは」



 俺は吉田の意見に強く肯定した。


 傍から見てもそう感じるし、そう思わざるを得ない別の理由もある。


 以前、俺と吉田は練馬に小南との関係性を訊ねた時があったのだが、練馬は愛だの恋だのを期待しても無駄、ただの幼馴染だと主張していた。


 が、話を掘り下げていくうちに見えてきたものがあった。というのもどうやら積極的に誘ってくるのは小南の方で、練馬は極力断っているらしい。本人曰く高校生にもなって幼馴染とつるむのは恥ずかしいとのこと。


 それでも毎回断るのも良心が痛むとたまに会う機会を設けるのだがその時は必ず俺と吉田が格さん助さんとして馳せ参じる始末。今のように。


 しかし小南に俺と吉田が邪険にされているのは明らか、練馬自身も感じ取っているはず。だからこそ頭を下げてまで付き添うよう頼んできたわけだが……そこに焦点を当てるとおのずと答えが見えてくる。


 小南は練馬に好意を寄せている。そのことに気が付いている練馬は抑止力の為に俺と吉田を誘う。何故か、それは望まぬ事態から免れる為。


 要約すると小南は幼馴染以上を、練馬は幼馴染のままを望んでいるということだ。



「やはりそう思うよな。ラブコメを渇望する者としてラブコメを無下にする練馬をどう思う?」

「正直、贅沢すぎる悩みとしか……幼馴染と呼べる女子がいない俺からしたら喉から手が出るほど羨ましシチュエーションだしな」

「同意だ。招かれざる立場だからこそ尚更そう思う。逆に部外者だからこその呑気な意見なのかもしれない」

「ん? どういう意味だ?」

「練馬にも思う所がある、ということだ」



 なるほど、結局のところ関係者かそうでないかの違いか。俺の目には青く見える芝生も練馬の目には荒れ果てた荒野に見えると。



「む? 奴等の目的は食材の買い出しではないのか?」

「早速寄り道するみたいだな」



 併設するショッピングモールに足を踏み入れるなり、近くのアパレルショップに立ち寄った練馬と小南。後を行く俺と吉田は店内の前で立ち止まった。



「どうする花川。俺は特に興味がないのだが」

「俺もないな。あそこのベンチで待ってるか」



 立って待つのも苦だと俺は店から少し離れた位置にあるベンチを顎で指すと、断る理由もないと吉田は首肯する。



「おーい、二人ともこっちだこっち!」



 が、背後から練馬の呼び止める声に制止を余儀なくされ、しぶしぶ店へと引き返した。


 店内に入るとそこには甘い光景が繰り広げられていた。



「ねーねーがっくん! これ、どうかな?」

「おう、似合ってるよ」

「ほんとに? 嬉しい! じゃあじゃあ、これとかは?」

「似合ってる似合ってる、スゲー似合ってるよ」

「ふふッ、なんか照れちゃうな。そ、れ、じゃ、あ……こっちは!」

「…………めちゃくちゃ似合ってる」

「もう! 似合ってる意外に感想ないの? か、可愛い…………とかさ‼」

「え? もう一回言ってくんね?」

「べ、別にッ! 似合ってるでも充分嬉しいし!」



 うっわーナニコレ、一般的なラブコメに砂糖大さじ五十杯ぶっかけた甘々さだぞこれ。胸焼しちゃうよこれ。


 服を手にしては自分に重ねて簡易ファッションショーを行っている小南に対して練馬は同じ言葉を使いまわして評価。そのことに不服申し立てる小南だったが何だかんだ言って満更でもない様子。


 そんな緩くて甘いファッションショーをまだ続けるのか、小南は新たな服を手に取る。




「お、それもいいじゃん。似合ってる」



 どう? と言葉にせず瞳で問いかける小南に練馬も直ぐに答える。長い年月を経ての意思疎通だろうか。



「鋼理はどう思う?」

「――えッ⁉ あ、えと…………似合ってる、よ」



 予期せぬ練馬の振りに俺は動揺を隠せなかった。それでもかかった火の粉を放置するわけにもいかず、無難な答えで払いのける。



「わーうれしー」



 同じ言葉でこうも反応が違うとは……。


 感情のこもってない声で矢継ぎ早に服を戻す小南は興が冷めたのか奥のコーナーへと消えていく。


 俺は練馬に抗議の目を向けた。こうなることは予見できたろと。



「そんな睨むなって。俺と美波だけが喋ってもしょうがないだろ? 皆で楽しく、とはいかなくてもそれっぽくは、な?」



 あくまで配慮の結果だと言う練馬。しかしその気遣いは装い、はぐらかしにすぎない。



「俺達に気配りできるなら小南にもしてやれよ。可愛いねって言うだけでいいんだしな」

「……聞こえてたのか?」

「それはこっちのセリフだ」



 俺にも微かに聞き取れたんだ。隣にいた練馬が聞こえなかったはずがない。それこそ難聴系主人公だというのなら話は別だが……そう都合よくはいかない。



「とにかく俺達も行こうぜ。あまり放っておくと美奈の奴、不機嫌になりかねないからな」



 いや小南は合流した時から不機嫌で、その原因は俺と吉田がいるからだからね?


 その呟きは言葉にせず心の中で留め、俺は練馬の後を追った。

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