第15話 練馬の幼馴染み3

 それから寄り道の寄り道を経て、ようやく当初の目的地である食品売り場へと着いた。



「ねね、今日の夕飯は何がいい?」

「あー親子丼でいんじゃねーかな」

「いいねッ! がっくんのパパママも好きだし、今日も頑張っちゃう!」



 早くも献立が決まったのか小南は楽しそうに材料を買い物かごに入れていく。


 一般的な高2女子に比べて小柄な彼女。傍から見たら仲睦まじい兄妹みたいだが、そんなこと口にした日には見た目にそぐわない誹りを喰らうだろう。



「なあ美波。今日はもうしょうがないけどさ、こういうのは最後にしね?」



 察するまでもなく小南が練馬宅に訪問して手作り料理を振る舞うのだろう。練馬の口振りから過去何度も機会があったのもわかる……そして今、終わらせようとしていることも。



「ど、どうして?」



 表情に陰りが生じた小南。淡く揺らぐ弱弱しい瞳で練馬を見つめる。



「いやほら、俺と美波もいい歳だし、いつまでもご近所で仲良しってのは美波だって恥ずかしいだろ?」

「恥ずかしくない! …………けど、がっくんは恥ずかしい? あたしがいると迷惑? もしそう思われてるなら……もう……やめるよ」

「別に迷惑じゃないけど……」

「……ならあたしといるのが恥ずかしいってこと?」



 その答えは既に出ている。でなければ練馬も〝だって〟なんて接続詞を選択しない。けれど小南はか細く問う。敢えてかどうかはわからないが。



「そういうわけでもないけど……」

「そっか。じゃあ……あたしのことが、嫌い、なんだね」

「嫌いなわけあるか……悪い、さっきの発言取り消してくれ」

「え……でも……いいの?」

「いいよ。これからも……その、よろしくな」



 煮え切らない態度の練馬に力のない会心の一撃を浴びせた小南。ネガティブによる攻めの一手は見事に同情を誘い、練馬を懐柔させることに成功した。


 何故、俺が小南の言動、行動がさも作為的であると捉えているか。第三者だからこそというのも理由の一つだが、練馬が照れて顔を逸らした僅かな隙に小南が口角を上げたのを見てしまったからだ。油断が覗かせた小悪魔の笑み、それが何よりも狙ってのものと確証づけた。



 練馬が曖昧に撥ねつけたせいでもあるが、逆に言えばその程度では小南の恋心は砕かれないということ……たくましいかな恋する乙女。


 さっきまでのやり取りはなかったかのように、されどこそばゆい雰囲気を残したままの二人に何を語るでもなくただ黙って俺と吉田は付いて行く。

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