四大神の民

 風の神エリア、火の神ファル、大地の神グラド、水の神アクーの四大神に加え、最高神である光の神ラートが世界を作った。リアー王国には五つの神殿があり、それぞれを祀っている。エリアの「鳥の人」の他に、ファルの「獣の人」、グラドの「草原の民」、アクーの「水の民」がそれぞれの使いとされており、巫女や神官を務めていた。人々は彼らをまとめて「四大神の民」と呼んでいた。


 さて、100年の戦を経てもなお繁栄していたのは水の民のみであった。海の魚に変身する彼らは早くから2つの姿を操る術を見出だしており、戦の時代には人の姿と魚の姿、またその中間の姿を使い分け、島国エルモドとの海戦でアルウの勝利に貢献したと伝えられている。彼らはアルウのために海を守ることを誓い、力の強い者を集めて“海の守護者”アクセス・ガルデを結成した。また数年に一度の“アクーの祭典”フェルバ・アクセスーーリアーで最も有名かつ盛大な祭りーーを取り仕切る大役を担い、神殿が水中から出る7日間、大勢の参加者をもてなし、儀式を執り行った。


 好戦的な獣の人は、戦が始まるとすぐにリアーの軍に加わった。これが人間たちと四大神の民との「正式な」出会いであったと伝えられている(鳥の人のように姿を見せることはあったが、人間たちににとって四大神の民はおとぎ話の中の存在に過ぎなかったのだ)。彼らは歴代の将軍に献身的に仕え、また見事な戦いっぷりを見せた。中でもアルウと“赤牙”ブリスとの友情は、人間と彼らの間に結ばれた唯一の友情であると言われている。ブリスは巨大な狼に変身し、アルウを背に乗せて真っ先に敵陣に突っ込み、かすり傷一つ負わなかった。王位に就いたアルウは、彼の活躍を讃えて、燃えさかる焚き火と狼の紋章をあしらった軍旗を作らせた。この時より、ファルは火の神であると同時に戦の象徴となったのである。しかし、戦で命を落とした者もたくさんいた。アルウが即位した時には、獣の人の数は開戦時の半数近くにまで減ってしまっていた。


 一方の草原の民は、鳥の人同様戦火から逃げることを選んだ。だが、彼らは鳥の人のように数が大幅に減ることはなかった。というのも、彼らは人間の中に混ざることで身を守ったのである。牛や馬、羊に姿を変えて家畜に紛れ、ある者は農家で、ある者は軍で身を隠しながら戦の時代を過ごしたのである。彼らは人間の目を盗んで人の姿に戻っていたため、体の一部が動物と化したり、動物の姿から戻れなくなったりといったことはまれであった。だが、馬の姿をとった者の中には戦場に駆り出され、命を落とす者が多くいた。それでも、人間たちに世話になった感謝の念が彼らの中に強くあった。アルウの即位の式で、彼らは人間とともに草原で暮らすことを願い出た。アルウはそれを認め、彼らは人間と最も近しい「民」となったのである。

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鳥の人 故水小辰 @kotako

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