鳥の人
故水小辰
鳥の人
太古の昔、国々がまだ存在しなかった頃、この地で最も栄えていたのは「鳥の人」と呼ばれる種族だったという。彼らは鳥の姿をとることができ、また鳥と言葉を交わすことができた。うっそうとした森の中、木々の間に暮らし、森に迷い込んだ人間たちに道を教えることも少なくなかった。
やがてあちこちに王国が建ち、100年の戦の時代がきた。森は焼かれ、多くの者は鳥の姿で逃げた。だが、あまりに長く鳥の姿でいたために、完全な人間の姿に戻れたのはほんの一握り、あとは背中に一対の羽が生えているか元に戻れないものがほとんどだった。やがて“勇しの王”アルウが緒戦を勝ち抜いて国々の頂点に立ち、リアー王国が建国された。アルウの即位の式にやってきた鳥の人の長オーラスは鳥の人を代表してリアーの民としての忠誠を誓い、またかつての森に住まわせてほしいと願い出た。アルウはオーラスの願いを聞き入れたが、彼の娘シニュを風の神エリアの神殿の第一巫女に据え、また幾人かの娘を巫女として宮廷に連れて来させた。シニュの背中には純白の羽が生えていて、他の巫女たちも美しい羽を持っていた。白い麻布を纏い、捧げの儀式を終えた娘たちにアルウは言った。
「鳥の人こそは風の神エリアの遣わされた使いの民。そなた達はその中から選ばれた、いわばエリアの付き人だ。如何なる時に於いても、そのことを決して忘れてはならぬ。」
はたして、彼の言葉は彼女たちを神殿に留めるのには十分だった。事実、今日でも言われているように、鳥の人はエリアの御使として広く知られていたし、エリアは戦の時代よりも前から人々が信じ、祈りを寄せる存在であったからだ。とは言え、アルウは彼女たちに結婚し、子どもをもうける自由を与えた。結婚相手は神官に選ばれた男児のみで、生まれてくる子どものうち長女だけは必ず神殿の巫女として一生をエリアに捧げなければならなかった。二女・三女は神殿で成人の儀を迎えた後で神殿を出、ある者は宮廷で神官見習いの教育にあたり、ある者は森に帰った。また男児は一歳になると親と別れ、長の元で育てられた。彼らは成人の儀を終えると、ある者は宮廷の神官たちの長になり、ある者は次の長になるべく学びを得、他にも旅に出る者や森で昔からの暮らしをする者、また、神官に選ばれて神殿に帰る者もいた。彼らは巫女の夫となり、子をもうけ、神聖なる者として神殿に葬られた。葬式の際には、彼らの羽が一本抜かれて、彼らをかたどった像の中に埋められた。羽を持つ者の子は、生まれてきたその時から、その背に羽を持っていた。
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