第2話まだまだ

 昼休みになり僕は上履きを探しに行った。ペタペタと小さい子が履くような音の鳴る靴のように音を出しながら校内を徘徊する。こういったことはお決まりのパターンがある。大体隠された物はゴミ箱やトイレまたは校庭ないしは校舎裏というのが多い。これは僕がいじめられて得た悲しい知識であった。それを目星にして校内を練り歩き校内に無いと思ったら外を探すのが僕の捜索パターンだ。とはいえ昼休みに学校中を探せるはずもないため昼休みは校内を探し見つからなかったら放課後に校庭や校舎裏を探す予定だ。放課後はさっさと帰ってしまいたいのでこの時間で見つかるよう祈りながら探すが一向に見当たらない。これは放課後も捜索しなくてはいけないかもと思いながら歩いていると進行方向から歩いてくる三人組が視界に入った。真ん中にいる身体と態度がでかいお山の大将気どりなのが同じクラスの田中。両隣のモブキャラみたいな奴らは他のクラスの生徒だ。確か右隣りに居る眼鏡をかければ知的だと思ってそうなのが佐藤。左隣に居る田中の威を借りて偉くなった気でいるのが鈴木だった気がする。そいつらは僕のことを見るとクスクスと笑い田中がすれ違いざまに「だっせ」と言葉を吐いた。それを聞いて両脇の二人が頭悪そうに笑っているのが聞こえた。薄々わかっていたがあいつらが僕の上履きを隠したのだろう。ここで何か反応しては相手の思う壺だから無視する。もちろん腹は立つがここで問い質したところでしらばっくれるか逆切れするだけだろう。気を取り直して捜索を開始したが結局見つかることはなかった。できれば放課後にまで探したくはなかったが見つからなかったので仕方ない。今度は校舎の外を探すことにした。校庭では色々な学年の子たちが思い思いに遊んでいる。それを横目にしながら僕は邪魔にならないように探す。外にあるとしたら砂場の中や茂みの中などに隠されているのかもしれないと思い物が隠しやすそうな所を重点的に探していく。砂場を見たが物を隠すため掘り返したような跡が見られなかったのですぐにその場を去った。構内の隅にある茂みや花壇を見て回ったがたまにゴミが落ちているだけで上履きは無かった。そうなると次に探すのは校舎裏だ。僕は二月の冷たい風に耐えながら向かった。校舎裏は校内の廊下の窓から見ることができる。たまに覗いてみても基本的に人が居るような場所ではなかった。校庭から聞こえてくる喧騒が遠のいてきた頃に中庭にある噴水が見えた。噴水といっても水が吹き出ているところは見たことがないので僕は池のようなものだと思っている。そこを見てみると寒さの影響で薄っすらと氷が張っていた。しかし一ヶ所割れている個所がありそこを見てみると僕の上履きが沈んでいた。僕はためらいながらも思い切って水の中に手を突っ込む。右手の体温が一瞬で奪われた。僕は必死に耐えながら上履きに重し代わりとして乗っけられたであろう石をどけて取り出した。真っ赤になった右手はかじかんでいてうまく動かすことができず左手だけで上履きに付いていた汚れなどを取り除く。噴水の水はお世辞にも綺麗なものではなかったので上履きからは鼻を突くような臭いがした。これは持って帰って洗わなければ駄目だなと思い鞄からくしゃくしゃにしてしまってあったビニール袋を取り出しそこに入れた。もう身体も心も凍るように冷え切っていたので足早に下校することにした。楽しそうに校庭で遊んでいる子たちの邪魔にならないよう端っこのほうを歩き構内から出る。すると例の三人組がちんたらと前を歩いているのが見えた。見つかったら面倒だなと思いつつ別の道から帰ろうと方向転換しようとしたとき運悪く田中が僕に気付いてしまった。田中が僕の名前を呼ぶので仕方なく近寄っていくと何が楽しいのかニヤニヤしながら話しかけてきた。「上履きは見つかったのかよ」「うん」「うわ、くせぇ!うんこみたいな臭いがするぞ!」そう言うとモブキャラたちが揃って「くせぇ!」と喚いていた。確かに臭いけど別にうんこみたいな臭さではないのに。頭が馬鹿だと鼻まで馬鹿なのかと思うと可愛そうに思えてきた。こんな可愛そうな人たちと話しているのも馬鹿馬鹿しいので横を通り過ぎようとしたら鈴木が通せんぼをした。右や左に避けようとしても鏡のようについてきて進路を塞ぐ。「通して」と言ってもニヤニヤしているだけで通してはくれない。困ったなとどうするか考えていると佐藤が「もういいよ。通してやれば」と言った。鈴木は不服そうだったが「そんな臭い奴と一緒に居たら僕らまで臭いと思われるだろ」と言ってそれには鈴木も納得していた。開けた道を歩き始めると後ろからまた笑い声が聞こえてきたが無視した。自分たちでいじったはいいものの引き際がわからずすんなり通すという計画性の無さが彼らの頭の悪さを証明しているようだった。その後は何もなく平穏に帰り道を歩いていた。家に帰ってこの上履きのことをどうやって親に説明するか悩んでいると向かいから見知った姿が歩いてくるのが見えた。一回家に帰ったあとらしく登校時に背負っていたランドセルを背負っておらず代わりに可愛らしいトートバッグを手にしていた。向こうも気付いたようで少し駆け足気味に近寄って来る。「やっほー。遅いね。今帰り?」「うん。丹部ちゃんは遊びに行くの?」「そうだよ。上履き見つかったんだ」「うん。まあ汚れちゃってたけどね」上履きの入った袋を丹部のほうへと近づけると「臭い!」と笑いながら言った。同じ臭いでもあの三人のとは違って嫌悪しているわけでもからかっているわけでもなく棘の無い言い方で僕は嫌じゃなかった。「それどうするの?」「んー、洗おうと思うけどお母さんに何て言おうかなと考えてる」「あー、確かに。もういじめられてるって言っちゃえば?」「もうすぐで卒業だしそんな心配はかけたくないよ。それに僕はいじめられてるんじゃない。いじめられてあげてるんだ」「なるほど。急に上から目線だ!」「何言ってるんだ?当たり前だろ。僕はいつだって上から目線だ」「お、おう」「その証拠に僕はいつも丹部ちゃんの服の隙間から下着が見えないか上から見ている」「何さらっと変態発言してるんだ!エッチ!」「ありがとう」「本物の変態さんじゃないか!」言いながら胸元を隠す丹部。冬は厚着してて見えないから大丈夫なのに。「ったく。そんだけ憎まれ口を叩けるようなら大丈夫そうだね」「うん。いつも心配かけてごめんね」「気にしない気にしない。また何かあったら言いなね」僕が頷くのを確認してから「じゃ!」と言って走り去っていった。何かあった時に僕から話すことはないかもしれないけど言ってほしいと言われたのは素直に嬉しかった。

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