1-3

 裏庭には私と同様に甲冑姿の男たちが集まっていた。

 それを見て私は気分の高まりを覚えた。

 あの陰険なダゴスの町からも、酒臭いハリントンの裏町からも抜け出して、華々しい軍隊にやってきたのだという実感が湧いてきたからだ。

 裏庭の奥に控えている古株と思しき男たちを見て、どいつもこいつも喧嘩が強そうだと私は思った。

 特に印象的だったのは、上半身裸でゴツゴツの筋肉とふさふさの胸毛を見せつけるかのように佇む大男だった。


 リジーは少しの間キョロキョロしてから、「ん?」と裏庭の片隅に目を留めた。

 彼女の視線を追うと、人目につかない隅の方に、新品の鎧に身を包んだ妙に小柄な兵士が、腕組みをして立っていた。

 ヘルメットをかぶっていて顔も髪もよく見えないが、どうやら女らしい。

 筋肉質で背が高く、鎧やヘルメットの重みを苦にしている様子はない。

 とはいえ、ここに集まった屈強な男たちと比べれば貧弱な体つきに見えた。

 当時、女性の入隊は一般的ではなかったが、我がウベルギラス王国では先代の国王が女性ながらに軍隊を率いた都合で、実力があれば女性でも入隊することができた。


 女戦士は私たちの視線に気づくと、話しかけられたくない様子で、ギロリと睨んできた。

 だが、リジーがまるで昔ながらの親友にするように、にっこり笑って手を振ると、女戦士はリジーが女だと気づいたためか、ぎこちなく微笑み返した。

「あれが友達か?」

「いや、知らない人!」


 それからまたしばらく探すと、やっと友達が見つかったらしく、リジーは「おーい!」と大声を出して、誰かに向かって大きく手を振った。

 その様子はかなり目立ち、何人もの男たちが振り向いた。

 リジーは全く違う方向に手を振ったのに、胸毛の大男まで振り向いた。

 リジーは自分に向けられる視線を意に介さず、人混みをかき分けて友達の所に向かっていった。

 彼女の友達がどんな身分の人間なのか、彼女自身の身分がよく分からないだけに不明だが、私にとってもこれから同じ小隊で付き合っていく相手だ。

 彼女を通して仲良くなっておいて損はないだろう。


 リジーの言う友達は、彼女を見てもあまり驚いていないように見えたが、ほどなくして、元々表情の変化に乏しい男だということが判明した。

 彼はリジーとはずいぶん印象が違った。

 いかにもリジーの友達らしい男をこの場で期待することにはそもそも無理があるとはいえ、私はさすがにもうちょっと違った人物を想像していた。

 私の第一印象では、彼は全体的に顔や体の造りが尋常でなく尖っていた。

 ぼさぼさの黒髪、四角い顎にまばらに生えた無精髭、狼のように吊り上がった黒眼。

 顔の彫りが深く、眉間には深いしわが刻まれ、大きな鉤鼻が少し歪んでいた。

 肩周りが特に頑強で胸板が厚く、手足を見ても贅肉が一切ない。

 背丈は普通より少し高いくらいで、このときは私とそんなに変わらなかった。

 老けた顔をしていたが、実際には当時まだ17歳かそこらだった。


「この人が、さっき言ったニコラス・ハーディング。あたしと同じ師匠の下で勉強したんだ」

 ニコラス・ハーディングは後に英雄として名を轟かせるが、実際のところ「英雄」という言葉から想像されるような紳士ではなかった。

 それに、何かを「勉強」したという感じでもなかった。

 たしかに愚鈍ではなさそうだったが、教養があるようにも見えなかったし、後に知ったところでは実際に教養がなかった。

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