1-4
ニコラスは私をギロリと見た。
あまりの
「あんた、もしかして目が悪いのか?」
「あぁ?」
ニコラスの答え方はまるで私を脅しているかのように凄みが利いていたが、私も盗賊団を相手にしていた男なので、さすがにそれだけでは動じなかった。
「いや、目を凝らしてるのかと思って」
「バカ言うな」
ああ、なるほど。
この男は私を睨んだ訳ではなく、眉間のしわを消す方法を知らないだけだ。
このときまでに私が会った連中の中にも、笑顔の作り方を忘れた奴は何人かいた。
それにしても、誰からも好かれそうなリジーとは対照的な、いかにも友達が少なそうな奴だ。
「小隊での役職は、えーっと……?」
「
ニコラスの口調はリジーに対しても
私はこの男を面倒くさそうな奴だと思ったが、リジーは扱いに慣れた様子で快活に言った。
「まあ、爵位がないからね。じゃあ、ニコラスとジャコブは同僚になるんだね」
リジーがせっかくニコラスと私を仲良くさせようとしているのだから、あえてそれを台無しにすることはあるまいと私は思った。
だが、ニコラスが私を自分の同僚として扱ってくれると期待する気は、残念ながら全く起こらなかった。
実際、私たち新参とニコラスたち古参は、私たちが初陣を終えるまでは一方的な師弟関係になった。
マイクロフト小隊では戦を経験しない内は「新参」、経験すれば「古参」と呼ばれた(ただし、このときだけはダームガルスとの戦争の前から所属していた隊士を「古参」、戦争が始まってから志願してきた隊士を「新参」と呼んだので、「古参」の中にも実戦経験のない者もいた)。
古参の中には新参のことを「処女」、自分たちのことを「男」と呼ぶ者もいた。
この区分は後々まで続き、古参と新参の教練は別々に行われた。
リジーが私と出会ってここに来た経緯を説明しても、ニコラスは興味なさげだった。
別に興味をそそるような面白い話でもないのだが、材料が少ないながらに大きな身振り手振りで、私を彼女の信頼すべき友人に仕立て上げようとするリジーの様子は健気だった。
険しい顔を崩さないニコラスを見て、つくづく愛想のない野郎だと私は思った。
そんなとき、いかにも知的な顔つきの青年がニコラスを呼んだ。
こちらの彼はどうやら愛想という概念を知っているらしかった。
ニコラスは振り向いて、ただ頷いて見せた。
わずかな動作ながら、その態度はとても柔和に見えた。
「始まる」
ニコラスが呟くと、リジーが何か察した顔になって、
「ねぇ、見てていい?」
といたずらっぽく尋ねた。ニコラスは意地悪な笑みを浮かべた。
「入隊するなら構わんぜ」
「そう、じゃあまた出直すよ。マイクロフトさんにも挨拶したいし。夕方には終わってるだろ?」
私はここでリジーと別れると思うと妙にさみしくなったが、彼女は特にそんなふうには思っていない様子だった。
ただ、別れ際に、
「あんたたちに、神様のご慈悲があらんことを!」
と言ってくれた。
これは当時のごくありきたりな挨拶の1つだった。
手を振って立ち去る彼女を見送りながら、ニコラスがぼそりと呟いた。
「ご慈悲とは、ヤな言葉だ」
以上がニコラスと私の初対面だった。
読者諸賢もお察しの通り、私はニコラスに対してちっとも良い印象を抱かなかった。
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