第25話
【強制サバイバル生活:150日目】
新しい特性『俊足』を使って森を駆け回る。
ぐんぐんと流れていく景色が見ていて気持ちいい。
ペルカの体の負担もそんなに重くないようだ。走るだけだからね。
疲れたら歩きに戻して、そのうちまた走る。それを繰り返す。
内面世界でなくても常に鍛えられるということで、ペルカも率先して使っていくつもりらしい。
おかげで見回りはいつもの三分の一程度の時間で終わってしまった。
これならもっと遠くまで足を延ばすこともできそう。嬉しい。
もっと嬉しいのは、秋の季節の実が実りかけてるということだ。
例えば、柿。栗。クルミ。そして山ぶどう。
私でも知っている地球の味覚がわんさと生っている。
ただしまだ日が早いらしく、鑑定しても食用という表示は出てこない。色も薄く、全体的に固そうに見える。
もう少し時間が経てば食べごろになるのだろう。
そういうわけで、今はひたすら森の中を駆け回り、食べられそうなものがないかを探し回っている。
何かないか何かないか。
もう少しだけ待てば大量に手に入るのだとしても、一刻でも早く手に入れたい。その思いはペルカも同じらしく、指示なんかしていなくてもせっせとあちこちを走り回っている。
結果、大きな木の頂上付近で大粒のクルミが見つかった。
明日からのメニューにクルミソースが加わるのが決定した瞬間だった。
ふふふ…………砕いてクルミ和えもできるし、デザートにも…………。ふふふふふ…………うふふふふふふふふふふふふふ…………。
【強制サバイバル生活:155日目】
キターーーーーーーーーーーー!!!
大・豊・作!!!!!
ぽつぽつと食べられる実は増えていたが、一夜にしてあっちでもこっちでも食用になった。要するに食べごろだ。非常に美味しそう。
ペルカも大量に生ったそれを収穫しながらもじっと見ていたので、味見しちゃっていいよと伝えてみる。
するとつまみ食いといった概念がなかったのか、そんなことしてもいいのかと非常に驚かれたが、誘惑には勝てなかったらしく、おそるおそる山ぶどうを一粒もぎって口に運んでいく。
≪………………≫
あ。目を細めてる。
美味しい? そう、良かったね。もっとお食べ。
いいんだよ。いつも頑張りすぎるぐらい頑張ってるから、たまには。ご褒美代わりだ。
ほーれ。他の採れたてもお食べ。
アイテムボックス内だと時間が経たないけど、それはそれだ。
目の前で採って食べる美味しさってあるでしょう。
栗って皮をよく取り除くと生でも食べられるらしいよ。
柿だって、もいだその場でかぶりつけ!
あ、あっちにも赤い実が生ってる!
行ってみようよ! でもって食用なら食べよう!
いいんだって! 楽しめ!! お祭りだ!!!
ヒャッハーーーーーーーーーーー!!!
あっちにもこっちにも! 見渡す限り美味しそうなものがあるぞ!
採れ採れ! 採りまくれ!!
えへへへへへへ。
たーーーーーのしーーーーーーー!!!
秋の味覚の収容量がざくざく増えていくし、採っても採っても次がある。
栗も柿もクルミもこれでもかってぐらいたくさんの料理が作れるし、それを目当ての鳥があちこちにいるし、夢中になっているものがあるから獲りやすいし、よく見れば食用にもなる虫がそこらにいるし、これまでに見たことのないキノコもわんさと生えてるし…………。
なんだこれ。天国か。
足を運ぶたびに新しい発見があって、楽しくってしかたない。
赤色表示の、作れるけどまだ食べたことのない料理のストックが加速度的に溜まっていく。二十、三十、四十と。
これ、【限定欄】に関係のない料理も含めたらどこまでいくんだろう。
そんなことを念話で伝えると、さらにペルカのテンションが上がる。明らかに動きのキレがよくなっていく。
うん。わかる。
自分がやっていることが成果に結びつくと気持ちいいよね。
この場合、新しい料理、新しい素材、新しい特性だ。
初めて見る動物も何匹か狩れたし、まだ食べてないからこそこいつらがどんな特性を持っているのか、確かめるのが楽しみで楽しみで。
これまでと同じやつかな? 違うかな? ふふふ。
想像だけでも心が浮き立つ。
ああ、ほらほら、息が荒くなってるよ。
無茶したくなるのもわかるけど、休憩はしっかりしよう。
明日からまた今日と同じぐらい働いてもらうつもりなんだし。
そう。
だって、秋は始まったばかりなんだから。
【強制サバイバル生活:167日目】
色変わりした落ち葉を集めてみる。
ついでに土も。草も小枝も。
銀杏拾いのついでに全部アイテムボックスに入れてしまう。
葉っぱのほうは色違いということで区分けされているみたいだけど、土とかその他は全部それまでのと一緒くただ。
明らかな違いがなければ区別されないってことか。ふむふむ。
四つん這いになって銀杏を集めまくるペルカをよそに、アイテムボックス内の法則のチェックを始める。
こういった細かいこともしっかりと確かめていかないとね。
ペルカに体を張って頑張ってもらってる分、こっちだって気になったものはなんでもやっていかないと。
這いつくばって素材を集めるって、実際かなり骨だよね…………。
はいはいだってすごく疲れるし…………。
そこまで思って、ふっと笑う。
――――そう。
昨日、ようやくお腹を上げて歩く、はいはいができるようになった。それも一歩や二歩ではなく、それなりの距離を。
嬉しくって小部屋の中を歩き回った。すぐ疲れた。
これからもっと動いて鍛える必要があるだろう。
今はまだ仕方ないとはいえ、そのうち自分の足で歩いて世界を巡るつもりだからね。
内側から見ているだけならペルカに任せておけば連れて行ってくれると思うけど、旅をするってそういうことじゃないから。
≪………………≫
ん。あ、腰が痛くなってきた?
なら銀杏拾いは中止。立ち上がって。無理することないから。
全部拾うのは無茶だよ。この量だしね。
食べにくる動物たちもいるみたいだから気にしないで。
ほら、腰を伸ばして。空でも飛んでいこうか。
ここ以外にも集めたい秋の味覚はいーーっぱいあるからね!
よい、しょっと。
なんとなく、ペルカが飛び立つのに合わせて頭の中で呟いてしまう。
鳥のように翼があるわけではないから、飛ぶ時は非常に静かだ。上に飛び立つのではなく、下へと滑空していく時は特に。
ここ最近、遠くへ飛ぶ時は一度山の中腹まで昇って、それから降りるようにしている。そのほうが遠くまで見渡せるし、飛距離も伸ばせるからだ。
さらに滑空している途中で何度か羽ばたいて、滞空したりその場で少し上昇してみたり、鳥っぽい行動をする余裕も出てきた。『飛行』という特性の名前に相応しい効果になってきたと思う。
真下にはミニチュアのような光景が広がっている。
緑一色だったはずの地上は、鮮やかな赤や黄色で埋まっていた。言うまでもなく紅葉の色だ。
とても綺麗だけど、鮮やかすぎて意識がそちらに奪われてしまい、目当ての食料は見つけにくい。
そういう時にはこの特性を使うようになった。
『鳥の目』
数日前に、初めて食べた鳥で手に入れた特性だ。
てっきり鳥は『飛行』しかないものだと思い込んでいたから驚いた。ひょっとすると他にも色々な特性を持った鳥がいるのかもしれない。
これから一種類につき一羽は必ず狩ろう。そう誓った瞬間だった。
で、この『鳥の目』の効果だが。
赤ん坊の私の手の中に『鳥の目の札』を出現させる。
ペルカの能力である特性は使えないが、こうやってスキルコピーをした札は私でも使うことができる。もちろん使用時間の制限はあるけれど。
こうした簡易使用できる能力のことを、私はスキルと呼んでいる。
ペルカだけの能力である特性と違い、ひとつずつしか使えないし、使用時間も短いし、ランクダウンしているのは間違いないけど、それでも誰にでも使える手軽さは魅力だ。おそらくこの札さえ渡せば誰でも使えるようになるのだろう。体力さえついていけば、だけど。
まあでもこの『鳥の目の札』に限っては体力とは関係ない。
ついつい余計なことを考えてしまったが、サクッと札を使用する。
――すると、視界が紫に染まった。
普段見ている人間用の視界とはまるで違ったものに変化する。
紫なのはおそらく紫外線だろう。鳥はそういったものが見えていると聞いたことがある。
そして紫一色の中にちかちかと、眩しく感じるほどに輝くものがある。
地上が近くなってくるとさらにわかる。黄色い点だ。
食べごろの果物や木の実、鳥の餌である虫。そういったものがわかりやすく表示されているのだ。
実際に鳥がこんな風に見えているのかは知らない。
ただ、使用している私たちからはとてもわかりやすく、ありがたい仕様だ。
黄色い点がたくさん集まっている場所へと方向を微調整して降りていく。
こうすることによって空から素材が大量にある場所に行けるので、採取効率が飛躍的に高まった。
その場の素材をあらかた採りつくしたら、また山に昇って飛び降りればいい。
あっちにもこっちにも食材があるこの季節、なるべく多く集まっている場所を目指すに越したことはない。
そこまで確認して『鳥の目』を打ち切る。
まだまだ使用時間に余裕はあるけれど、目の奥がずうんと重かった。前世で言えば、パソコンを見すぎたような感覚だ。
体力は使わない代わりに、このスキルは目に負担があるのだろう。
目の周りをぐりぐり揉みほぐすという、赤ん坊には似合わない仕種をしながら息を吐く。
疲れた。
でも、心地よい疲れだ。
まるで強制サバイバルに巻き込まれてすぐのように、毎日毎日新しい素材や特性が見つかって飽きるということがない。
どの素材を多めに集めるか。この特性は何に使えるか。この組み合わせは。
あれこれ頭を回しているが、それだって私がやりたくてやっていることだ。
私が考えて指示することをペルカが実行してくれて、それが少しずつ時間をかけて形になっていく。どうやら私はそういったコツコツ成長させるのが苦にならないどころか、むしろ楽しめる性質らしい。
ペルカも強くなることには貪欲だし、新しい食材で作れる料理が増えることを歓迎してくれているので問題ない。逆に限界ギリギリまで動きたがるので、私が制止しているぐらいだ。
もうちょっと自分の体を大事にしよう……?
そのやりすぎるぐらい自分の体を痛めつけることによって、反動で強くなることは知ってるけどさ。実際にめっちゃ強くもなってるけど、同じ私としてはあんまりボロボロになるのは褒められたことではない。
そりゃあこの状況だし、強くなるのは歓迎なんだけど、それはそれ、これはこれ。
たまに鍛錬のしすぎで内面世界で死んだように転がってるけど、あれ心臓に悪いからやめて。お願い。
何回言っても聞いてくれないけどさー。
今回もわざと無言でスルーしてるんだろうけどさー。
…………はあ。
溜め息ひとつで諦めて、改めてスキルを使用したものではなく、ごく普通にペルカの視界を覗く。
ところどころに赤色が混じる秋の山の景色は美しかった。
こんな景色をこの高さから見下ろすなんて、チート能力がなければできない贅沢だ。それを特等席で見られるなんて、これだけでも転生してよかったって思える。
…………この場所に叩き込まれたことはまだ許していないけど。
でも、できればいずれ自分の目で世界を見たい。
スキルを使って自分で飛んで、自分の体で風を切って、自分の目で世界を見てみたい。
そのためにも今から鍛えないと。
内面世界で取り出した丸太にしがみつき、つかまり立ち…………をしようとして転ぶ。何度も。ころんころんと。
ううう。でも負けない。
どうせこの内面世界ではどんな格好してたって外が見れるんだ。こうやって転がりまくりながら指示だって出してやる。
目が回ったら、またはいはいに戻るぞ。おー!
≪…………あまり頑張りすぎるな≫
あれ?
なんかいつもと違って、私がペルカに言われてしまった……。
ペルカに比べたら全然無理してる気がしないんだけどなあ。うーん?
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