第22話


【強制サバイバル生活:134日目】


 あーーーーーーー。

 錬金錬金錬金錬金錬金錬金、また錬金!!!

 わかっちゃいるけどひたすら単純作業はキツい。オート機能ない?

 ないかー。ないよねそうだよねー。書かなかったものなー。

 あの邪神がそんな気の利いたものわざわざつけてくれるはずもないし。

 これは本当に後悔だ。

 いやね…………。でもね…………。

 ここまで数千枚以上、ちまちまちまちま作っていくことになるとはさすがに思わなかったんだよ…………。

 だってほら、ペルカの生き物の特性を模倣する能力なんて私、頭の中になかったし。彼女が望んだから作ったんだよ?

 スキルコピー系の道具が錬金で作れるのだって、能力を申請した後で初めて知ったし。

 暇さえあればコツコツ作っていたから、そろそろ作り始めてから合計で一万枚の大台に突入しそうだ。

 え。多すぎだって?

 はっはっは。――足りないから!!!

 いやホント。誇張とかではまったくなく、純粋に。

 なんでそんなに使うかって?

 よっしゃ。聞いて驚け。

『スキルコピーの札(鉄)』の成功率なんてものはとっくの昔に100%になっているのだが、それをペルカの能力に合わせて使用すると、成功した場合、『×××の札(3分18秒)』みたいに表示された札が出来上がる。

 …………そう。成功した場合、だ。

 例えば『飛行』だったら『飛行の札(15分)』。『突進』だったら『突進の札(6分36秒)』に…………いや、面倒くさいから時間表示は今後省くとしても、それぞれ別の特性の札であるために成功率もそれぞれ別であることはわかってもらえたと思う。

 そして札の初期錬金成功率はなんと、どれもこれも驚愕の1%だ。

 100%にするには99回錬金する必要があるのだが、まずこれでかなりの枚数が溶ける。

 習得している特性は現在4種。

『突進』『跳躍』『飛行』『淡水呼吸』

 これだけならまだいいのだが、問題は【ランダム欄】の特性もコピーできるってことだ。

 以前挙げた『強酸』と『超回復』を除いた、わりとどうでもいい特性10種だけでなく、さらにその後で増えた4種。

『いい匂い』『毒耐性』『瞬発力』『睡眠短縮』

 これだけで約二千枚の札が消えた。

 たとえ何に使うかわからなくても、とりあえず成功率100%にするついでに作っておきたいという私のコレクター気質が、放置しておくことを許してくれなかった。

 まあそこまでは特に後悔してないからいいんだ。

 問題は、夜な夜なペルカが私の作った札をガンガン消費していること。

 と言っても無駄遣いじゃない。

 ペルカ曰く、鍛錬に必要な消費。

 要するに、特性を組み合わせることで出来る動きを増やしているのだ。

 突進してすぐ跳躍とか。跳躍を繰り返して突如飛行に移るとか。私でも思い浮かぶ行動の他にもっと何かないかと、日々研究を重ねている。

【自由欄】にセットした特性なら札を使わず練習できるけど、ペルカの能力を最大限に生かすにはやはり、特性の重ねがけが最適解だ。

 そして札の使用可能時間は短いので、真面目にやればやるほど何十枚何百枚と使うことになり、札の消費が跳ね上がる。

 今でもその日に作成した半分近くの札が鍛錬に使われているのだ。

 ついつい消えた札の枚数を数えてしまいたくなるけど、必要な支出だと自分に言い聞かせている。実際そうだし。強くなるためのペルカの努力にストップをかけて、野生動物に襲われて死んだりしたら馬鹿みたいだしね。

 札はまた作ればいい。

 今は強くなるのが最優先だ。

 第二の人生、こんなところで死んだりしないよう全力を尽くさないと。

 …………さて。

 ここまでの説明でも札が必要な理由はだいぶわかったと思うけど、札が大量に溶けるのはさらにもうひとつだけ理由がある。

 そして、これが最大の理由だ。

 なんと。

 これまで全ての特性の札を99回錬金したと言ったが。

 成功率が100%にはならなかった特性が存在する。

『強酸』と『超回復』のふたつだ。

 99回の錬金で、『強酸』の成功率は10%。そして、『超回復』は成功率1%だった。

 …………もう一回言おう。

 10%と1%だ。

 ……嘘だろと思ったでしょ?

 私は思った。と言うか私が一番思った。

 特に後者。

 成功率がまったく増えてないって、ナニ?

 これまでの経験に習って連続で錬金したのは間違っていた?

 ――そう思ったけど、念のためにもう一回だけ錬金してみたら2%へと増えてくれた。

 これには本当にホッとしたが、同時に恐ろしいことも確定してしまった。

『超回復』は100回の錬金で1%成功率が増えるのだ。

 そして『強酸』はもう1回錬金することで11%に増えてくれた。念のためにさらに10回やると12%になった。

 つまりこちらは10回の錬金で1%増えるらしい。

 この違いは何かと考えたら、特性自体の強さと使用可能時間の差としか思えなかった。

 他の特性が弱っちい…………は言い過ぎか。えっと、あまり強くないのに対して、こちらは明確に戦闘で役に立つ特性だ。そのせいで使用時間は3分と短い。

 そしてそして。どんな時でも腐らない、瞬時に自身の傷を回復する能力である『超回復』は、はっきり言って強力すぎる。そのせいで使用可能時間が3秒という制限を受けているのだろう。

 暫定で『超回復』を強特性、『強酸』を中特性、その他を弱特性としよう。

 弱特性は99回の錬金で成功率が100%になり、中特性は990回、強特性は9900回が必要。

 こう思ってほぼ間違いはないだろう。

 新たに別の中特性と強特性が出てくるまでは推測止まりだけど、大きく外れてはいないと思う。

 そう。

 つまり。

 強特性をひとつ、成功率を100%にするのに、『スキルコピーの札(鉄)』が9900枚必要なわけだ。

 これまで毎日作り続けてきて、まだ一万枚に届いていないってのに。

 ……酷すぎない!!!??

 足りないんだけど!!! 本当に!!!

 作っても作っても札が消えるぅぅぅ。

『超回復』だって、あっっったりまえだけど100%になんか届いていないんだけど?!

 当時はそこまで気合を入れて札を作っていなかったので、五百枚ちょっとあるから余裕と思っていた。

 100回で1%上昇と知って仰天したよ。

 めっちゃお役立ちスキルで、これがあるかないかで生存率にものすごい差が出そうな特性だから特に。

 だが【ランダム欄】の特性は24時間限定なのだ。次の日の午前6時を過ぎると別の特性に入れ替わってしまう。いつかはまたランダムで選ばれるかもしれないけど、それまでに安全な日々が続くとは限らない。

 この日、何枚札を作れたかで生存率が変わる。

 そう思ったら稲妻みたいな衝撃が体を走り抜けたね。

 その瞬間から突発的デスマーチに突入だよ。

 毎日の日課はペルカに任せて、私はひたすらに錬金錬金錬金錬金以下略。

 夜が更けても錬金錬金以下略。

 寝る時間になっても錬金錬金以下略。

 …………午前6時になってどうでもいい特性に代わった瞬間、気絶するように眠ったっけ。

 最終的に『超回復』の札の成功率は9%。無事に出来た札は28枚。それが限界だった。あれ以降ランダムに『超回復』は出てくれていない。

 少ないって? いや無茶言うな。

 私は頑張った。ものすごく頑張った。

 ペルカも札を胸に当ててコピーと祈ってもらったよね。

 失敗したら札はぐずぐずに崩れて使い物にならなくなったのに、それを1枚ずつ。何百枚も繰り返してもらったっけ。お疲れ様。

 だからもうあれ以上は無理だったよね…………。

 その後、鍛錬中にいくつか使って残りは12枚。

 これが私とペルカの残りの命と言ってもいいだろう。

 あの日はめちゃめちゃに大変だったが、同時に得難い教訓を得た。

 すなわち。

 ランダムでいい特性が出た時のために、地道に札を量産しておくしかない、と。

 だってまた強能力が出たらきっと9900枚必要だもの…………。

 瞬間移動だとか予知みたいな夢あふれる能力が来た時のために、出来る限りたくさんの札を作っておかないと。

 ――と言いつつ、毎日毎日作って三千枚にすら届いてないんですけどね! あーもー!

 一万枚まで遠すぎる…………。

 多分だけど、これが鉄の札でなければもっとマシだったと思う。

 鉄より上…………。金とか銀とか?

 そういったもので札を作れば、勘だけど効率が上がる気がする。だってあからさまに素材のレアリティが違うし。

 使用時間が十分の一だったのが五分の一ぐらいになったり。成功率の上昇率も上がったりしそう。

 まあ、銀も金も今は1グラムもないんだけど。

 なので結局は鉄の札を作り続けるしかないかー。

 強力な特性は欲しい。戦闘や暮らしが楽になるから。

 でもその札を作るために必要な枚数が多すぎて、そこは苦労するしかないという。なんというジレンマ。

 あーあー。

 一気に楽になる方法なんてないなー。もー。

 はーーーー。

 …………ごめんね、愚痴ばっか聞かせて。

≪構わない。ポッカのことを知るいい機会になった≫

 そう言ってもらえると助かるよ。

 なんかこう…………錬金まみれで頭がおかしくなりそうになっていてね…………。

 駄目だね、私。同じことを延々と繰り返すのは向いてないや。

 ペルカには洞窟掘りまくってもらってるのにね。ごめんね。

≪謝ることはない≫

 えー。でも愚痴ってるんだよー。

 こんなのわざわざ聞かせられたくないでしょ。

≪少なくとも、洞窟の土が大量に必要な理由を詳しく聞けたという点では良かった≫

 あー…………。

 そういやここまで細かくは説明してなかったっけ?

 最近は特に、ひたすら札だ、札を作るんだと言いまくってただけだったような…………。

 うーん。やっぱり脳ミソが溶けてる。

 もう今日は寝ようかな。

 起きたらまた錬金の時間が始まるんだけどね。はあ…………。

≪…………そんなに嫌なら別のことをすればいいのでは?≫

 んー?

 そりゃあね。私もできるならそうしたいよ。

 でもさあ。そうしたらいざ素晴らしい特性が来た時に後悔するじゃない。

 私そういうの絶対気に病むんだよね。

 しばらくの間、ずーーっとああすればよかったこうすればよかったって頭から離れなくなりそう。

 それに、生きるのに手を抜くわけにはいかないし。

 前世みたいに、いきなり何も出来ずに死ぬのは勘弁だよ。

 そうならないよう、強くなるためにあらゆる努力をしないと。

≪…………そのために札の量産を?≫

 そう。

 まず最低限として一万枚。

 それから別の強特性が来た時のために、さらに一万枚。

 あはははは。それまでデスマーチは終わりそうにないなあ。

 はは……はははは…………。………………はあ。

≪…………だが≫

 ん?

 なんかいつもより会話を続けてくるね。

 何か言いたいことでもあるの?

 促してみると、どこか腑に落ちない気配を出しながら、ペルカが続きを口にする。

≪札を量産する理由はわかった。強特性がいつ来ても対応できるようにだな≫

 うん。そうだね。

≪だが9900回分のスキルコピーを1日でしようとするのは無理がある≫

 …………うん?

≪以前、『超回復』だけでなく『強酸』が【ランダム欄】に来た時も、成功率を100%に出来なかったと嘆いていただろう。その時は千枚以上の札があったにも関わらず、だ≫

 え…………。

 そういえば……そう……だったような……?

≪その時のポッカは、特性を札でコピーするための時間がかかりすぎと叫んでいた≫

 …………そうだった。

 思い出した。

 結局『強酸』も30%で止まってしまったんだっけ。

 札はたくさんあったけど、コピーする時は1枚ずつ胸に当てて目を閉じて集中して…………みたいな過程を踏まないといけないみたいだったから、時間が足りなかったんだ。

 これは私じゃなくてペルカにしか出来ないし。

 だって私の能力ではなく、ペルカに宿った特性だから。

 あの時は私が頼んだのが遅かったからだと自分を責めていたけど、よく考えれば普段の弱特性の99回分を頼んだ時も、それなりに時間がかかっていた気がする。よろしくって言って丸投げだったから気づかなかった。

 ――――え。

 じゃあ、9900枚なんてもっと無理じゃない。1日千枚ですら無理なんだから。

 あれ。

 つまりこれだけ頑張ったのは無駄…………。

 いやいやいや! 札がいくらでも必要なのは事実だし、ひょっとしたら大量にスキルコピーする方法が見つかって、その直後に強特性が来る可能性がないとは言えなかったし!

 だから無駄ではない。ないんだけど…………。

 私の精神を削りながら作りまくるほどの価値があるかというと、疑問が残る…………?

≪………………≫

 ………………。

 …………。

 ……ちょ、ちょっと今日は考えるのをやめておこう。

 ほら脳ミソが茹で上がってるし。今はまともに考えられるか怪しいから。

 寝よう。すぐ寝よう。今すぐ寝よう。

 そして起きたら考えよう。

 なんかこう、今はあまり気づきたくないから。

 あー…………。私の気持ちに合わせたように雨まで降ってきた。朝までにはやんでくれると嬉しいんだけど。

 あっペルカは何も言わないでね。おやすみー…………。

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