第21話


【強制サバイバル生活:110日目】


 この湖に再び来るにあたって、目的のひとつは洞窟の作成だった。

 以前は土を収納できる量が少なすぎて、時間がかかりすぎるということで諦めてしまった。

 けどあれから地道に鍛えることでペルカに自力がついたのか、あの頃の二倍近い土を一度に取ることができるようになっていた。

 それに今は拠点の周りで採れる素材は採りきってしまっている。要するに放置していても問題ない状況だ。

 なら、こちらに腰を落ち着けない理由はない。

 そういうわけでペルカには精力的に働いてもらった。

 ここでの生活はまず、明け方から魚釣りもとい魚突きをして、昼過ぎの一番暑い時間を洞窟作成に費やす。そして日が沈むまで素材収集。夜が明けるまではまたひたすらに洞窟作成。その繰り返しだった。

 それなりの時間を洞窟用に回せただけあって、簡単な落とし穴や隠し部屋の小部屋を含め、向こう側の拠点にも劣らない洞窟がたったの8日で出来上がった。

 これはなにも一度にアイテムボックス内に入れられる量の違いだけでなく、休憩の少なさも関係しているのだろう。

 前回来た時から三ヶ月程度しか経っていないのに、しっかりと体力もついているのだ。

≪すごいよね、ペルカって≫

≪……?≫

 心からの賞賛だったが、いきなりすぎたらしい。なんのことだと言いたげな沈黙が返る。

≪ああ、ごめんごめん。昼間にあれだけ動き回りながら、夜まで手を抜かないのは偉いなって話≫

 ちなみに今は夜だ。昼間やるべきことは終わっている。

 私は隠し部屋で完全なはいはいのための練習をしてて、今は疲れて休憩中。ペルカは洞窟作りを終えて、久しぶりに内面世界でじっくり鍛錬をしていた。今日は『飛行』を重点的に練習するつもりらしい。

 地面である白い床に降り立った彼女は、話の続きを待つようにこちらに意識を向けてくる。

 うーん。

 そんなじっくりと話す体勢をとってもらうようなものじゃなかったんだけどなあ。単なる雑談のつもりだったし。

 まあでも、たまにはいいか。

 話をして交流を深めるっていうのも悪くはないだろう。

≪えっとだからほら、鍛錬の話だよ。毎日毎日何かしら鍛えているでしょう?≫

≪……鍛錬はただの日課だ。褒められるようなものではない≫

 うん。ペルカならそう言うと思ってたよ。

 とは言え、休憩を最低限にしてひたすら運動運動運動というのは、見ている側からすると圧倒されるものだ。

 しかもそれがほぼ毎日続いてるわけだし。その成果が早くも出てきてもいる。

 鍛錬をしない日なんて安全が確保できていなくて私が表に出られないって時だけだ。

 ほんの少しでも暇があれば、表に出ている時でも内面世界でも鍛えたがる。その鍛錬マニアっぷりには感服するしかない。

≪強くなるため、最低限のことをしているだけだ≫

≪いやそれでもすごいって≫

 私だって命がかかってるからこれだけ頑張ってるけど、そうでもなきゃ途中で怠けたり投げ出したりしてただろうし。

≪…………? …………ポッカが?≫

 なんだか信じられてない。

 えええ。ペルカの中の私はどれだけ努力家なのさ。

 私は無駄な努力なんて大嫌いだよ?

 戦闘とか鍛錬だとか、一番キツいところはペルカに丸投げする気だったし。

 もっと自分の好きなことだけ頑張りたかったよ。本当はね。

 邪神のせいでおしゃかだけどねー。はーあーあー。

 邪神はクソ。これ決定。

≪ポッカは≫

 うん?

≪頑張っている≫

 ………………。

 …………。

 ええと…………。

≪よくわからないけど……。ありがとう?≫

≪ああ≫

 それで言いたいことは終えたらしい。満足そうな気配を残してペルカが再び『飛行』を使い始める。鍛錬に戻るのだろう。

 ………………。

 …………。

 …………結局なんだったの? 何が言いたかったの?

 えええ。ペルカー。ねえ、ちょっとー。ねえー。

 あっ駄目だこれ。集中して聞いてないや。






【強制サバイバル生活:122日目】


 交流が深まったのか、そうでないのか。よくわからないながらも日々は進む。

 あれから何度もペルカに湖の上を飛び回ってもらったところ、6種類の魚が合計で数十匹釣れた。もちろん私はペルカの視界はあれから見ていない。

 これだけ時間をかけて6種類以降増える様子はないから、おそらく湖にいるのはこれで全部なのだろう。

 あ、巨大魚がいたか。7種類だな。……今はアレは放置するしかないけど。

 ちなみに全種が『淡水呼吸』だった。

 おかげで使用可能時間は他のと比べてもダントツのトップになったが、使用する機会がないのですごさを実感できない。

 興味本位でペルカに頼んで、桶に張った水に顔を突っ込んでもらうと呼吸ができたが、特に暮らしに役立つでもないし、傍から見た絵面を想像してみると酷いものがあったのですぐにやめてもらった。

 やだよ……桶に顔を突っ込んでじっとしている小学生女子なんて……。自殺したいのかと思っちゃうじゃん…………。

 そのうち海底にある宝を引き上げろ的なミッションでも起こってくれないかな。頑張るから。

 あ。これ淡水だから海水は駄目なんだっけ。呼吸できない。

 うーん。やっぱりかゆいところに手が届かない。

 海の魚を食べまくれば海水呼吸が手に入ると思えば気は楽だけどねー。

 こっちの魚料理もペルカが気に入ってくれたし、海の魚も多分喜んで食べるでしょ。

 ちなみに魚が手に入ったことで作れる料理が色々と増えた。

 肉と魚の盛り合わせとかは、どちらを先に食べるかで伸びる特性が違ったりする。

 なるべく色々と伸ばしたいのであれもこれも食べておく。

 ペルカも喜んでいるので一石二鳥だ。




 洞窟掘りは継続している。

 暮らすための広さは充分だけど、今は鉄成分の回収を目的にしている。

 どうやらこの山、中央に行けば行くほど鉄分が高いようなのだ。

『スキルコピーの札(鉄)』はいくらあっても困らないので、時間のある限り素材を集めておきたい。

 なんとなく洞窟の奥行を元の拠点があった方向へと伸ばしていく。

 そのうち拠点の洞窟と繋がったらいいな、なんて単純な発想だけど……。

 まあ、これは無理でしょ。

 自分でやっておきながらわかる。掘るペースに対して山が巨大すぎる。

 時間がいくらあっても足りない。こんなものひとりでやるものじゃなさすぎる。何十年かかるか予測もつかない。

 それでもわざわざ方向を指定しているのは、別にどこでも掘れればよかったからだ。

 それなら無意味に掘るよりは、わかりやすい方向に向けたほうがいいよね、と。それくらいの軽い気持ちだ。

 これに意味ができる日は果たして来るのかねえ。




 色々考えたけど、夏が終わるまではこの湖にいることにした。

 これまでの植物とか気温を逆算すると、私たちがこの山に来たのは4月頃だと思っている。

 つまりそれから120日余りだから、今は8月……前半かな?

 緑がたくさんあるとはいえ、この季節はやっぱり暑い。もっと山の上に行けばそうでもないんだけどね。でもここなら湖があるから吹き抜ける風が気持ちよさそうだ。

 残り30日弱。

 避暑と思って魚釣りと洞窟拡張に情熱を傾けようか。

 ただし遊びではなく超真剣だけどね。生活かかってるし。

 それが終わればいよいよ秋だ。

 この季節には期待している。

 なにせ秋と言えば、実りの秋だ。

 果たしてこの山にも来るのだろうか。

 是非とも来てほしいから、いないだろう神に祈ってもいい。邪神は死ね。

 木の実……果物……肥えた動物…………。

 なんでもいい、なんでも。

 できればいくらでも。たくさん。種類が多ければ多いほどいい。

 ふふ……ふふふふふ…………。

 楽しみだなあ、秋。

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