第17話


【強制サバイバル生活:58日目】


 新たな特性を手に入れた。

 足元でバッタみたいな虫が飛び跳ねていたので、捕まえて素焼きにして食べてみたのだ。

 すると『跳躍』を習得した。

 これも使用時間は30分だった。まあ強くないスキルだし。

 ペルカは必死に『突進』を使用した直後に『跳躍』を使って飛距離を伸ばそうと練習していたが、身体能力がまだまだ低いせいで無事に着地できず、派手に滑って転んで太ももをひどく擦りむいていた。血も出ていた。

 けどそれはまだいい。

 問題なのは、足の裏がそれよりもボロボロになっていたことだ!

 皮が何度も剥がれては治った跡があったけど、もう見るだけで痛いのなんの……。

 なんで?

 ニワトコの葉の靴を1日に何度も履き替えさせたよね?

 少しは役に立ってたんじゃないの?? 【鑑定】の説明でも裸足よりずっとましってあったよ??

 消毒液代わりの草とかも無意味だったの???

≪いや。どれも足を守るのに役立ってくれた≫

 どこか焦ったようにペルカが説明してくる。

≪だがそれ以上に足を酷使したので、傷が治る暇がなかった≫

 うああぁぁぁ…………。

 そりゃあ…………毎日毎日歩き回らせたのは私だけどさあ…………。

 言ってよそういうことは! ちゃんとさあ!

≪どんな環境の変化が起こるかわからない大自然の中で休んでいるわけにはいかなかった≫

 そうだけど!

 そうだけどさあああぁぁ。

 ………………。

 …………。

 ……いや。

 ううん、わかってる。私が悪い。

 よく考えればこれくらい思いついたはずなのに。

 7日でほとんど生活環境を整えた時も、よくやってくれたって喜ぶばかりでペルカがどれくらい無理してるかに思い当たらなかった。

 まだ9歳の体の子供なのに。精神に至っては生まれたてなのに。

≪ごめん…………≫

≪ポッカが謝ることはない≫

 慰めてくれるけど、いやでも、これは私の責任だ。

 もっとちゃんと見ておくべきだった。

 ペルカが頑張り屋で不満を口にしたりしない性格だというのはわかっていたはずなのに。

 もっとしつこいぐらい怪我や不調はすぐ報告するよう言うべきだった。

 はああぁぁ…………。

 後悔と自己嫌悪でへこんでいると、ペルカがなんだか慰めるようなことを言ってくる。

≪確かに多少の無理はしていたが、最近は皮膚が強くなり、血がにじむ割合も減ってきた。今後『突進』や『跳躍』を使って戦っていくなら鍛えておいて損はない≫

 ……それ、後づけの理由でしょ。

 だって能力を手に入れたのってつい最近の話だし。

≪………………≫

 ほらー!

 ほら黙ってるー! 図星だからだ!

 そもそもさあ! 脱いだ靴とか足の裏とか、わざと私に見せないようにしていたよね?!

 内面世界からは表の世界は、表の人格が見た景色しか知ることができない。

 彼女もそれはわかっていて、これまで自分の足元から視線を逸らしていたに違いない。

 さもないとここまで気づかないのはおかしいもの。

 血まみれボロボロになった靴の残骸とかもさっさと片づけちゃっていたんでしょう。

≪………………≫

 ほら!

 悪い子!

 ――もう! こんなこと二度としちゃ駄目だからね!

 私とペルカは一心同体なんだから。

 体を共有してるかっていうと違うと言えるし、細かいところはちょっと違うけど、気持ちの上ではそうなのだ。

 人生を二人三脚で生きていく相棒という点ではなんら変わりない。

 そんな相棒が私の気づかないうちに勝手に弱っていたりしたら困るのだ。

 いい?

 報告! 連絡! 相談!

 ほう! れん! そう!

 これ大事!!!

 ペルカの人生は私の人生でもあるんだから、体だってないがしろにされたら怒るよ。

 もっとちゃんと大事にしよう?

≪…………了解した。すまない≫

 うん。

 ペルカは約束したことは守れるいい子だって知ってるから。今後気をつけていこう。

 私も悪いとこがあった。ペルカも悪い子だった。

 両方で反省して、それでこの話は終わりにしよう。

 頭を撫でられないことをじれったく思いながら、よしよしと言葉で慰めていく。

≪焦ったってしょうがないって言ったでしょ? まだまだ人生で言えば序盤もいいところなんだから。少しずつ、無理はしないで強くなっていこう≫

≪…………ああ≫




 そんな風に、たまに間違えたり失敗したりしながら日々は進んでいく。

 その日からペルカは投石を練習するようになった。どうにかして狩りたいものがあるのだそうだ。

 私も仰向けで腕や脚をばたつかせる運動モドキをしながら、筋肉がつかないものかと頑張っていた。

 そして――――






【強制サバイバル生活:79日目】


 ぐんっと視点が上がっていく。

 足はもうとっくに地面から離れていた。

『跳躍』で届く木の上より、もっとずっと上へ上へと視界が移り変わる。

 息を呑んで見守る中、ペルカの視界が下を映す。

 そこには緑の森が広がっていた。

 前後左右、どこまでも続く緑の絨毯のような景色に目を奪われる。

 ミニチュア模型を見下ろしたような感覚。

 ついさっきまでいたはずの地面が今は遠い。

 興奮で知らず頬が熱くなる。

 ――ペルカは今、入手した『飛行』を使い、高く飛び上がっていた。

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