エロスは狂気やもんね。 キミはそう言った。

もりさん

エロスは狂気やもんね。 キミはそう言った。

遠い遠い、昔々の話…。


その人は、遠い場所にいて。

僕も、子供が駆け回る喧騒を聞き流しながら公園で電話をする。

その時は、きっと、歪んだ自分の考えを、否定せずに聞いてくれるキミとのやりとりに僕は依存していた…。


冷たい風が彼女の髪の毛や肌を撫でるのを想像しながら。

僕は冷たい手で携帯を握りしめていた。

その人も冷たい風で、服に包まれて入るけれど、その血管まで透けて見えそうな白い肌はきっと冷たいはず…。


「寒いよね。雪とか大丈夫?」


「今日はまだ、ましかなぁ…」


真っ青な空を支えているような木の写真が送られてくる…。

「ね?晴れてるんだよ。」

青すぎて暗く見えるほどの青空。

遠く離れると空の色も変わるんだろうか…。でも、きっと、これは携帯の技術で加工されているものかも…。


そして、樹木に触れている、その子のやわらかそうな長く細い指の写真が送られてくる。

触れられているのは、瘤を作りながら捻じ曲がって育つ幹。

空に蔓延った枝の写真について、話す。


「僕さぁ…昔、木って枝が血管みたいだよなぁと思ってたんだ。」


「そうだね…わかる。」


「ここは地球の体内なのかな?とか…。ガイア理論っての…ふと思い出したんだよね…。」


また、小難しい話を始めてしまった…と思いながら、会話が途切れた。

僕は、恥ずかしくなって、素直なキミへの気持ちを伝えたくなった…。


「寒いところで、抱き合いたいですね。」


「はい…」


「冷たいキミの、肌がだんだん暖かくなるみたいなの。きもちよさそう。」


「そして、そのまま眠りたい…。」


「いいなー」


「えっちですね。」


「だれが 笑」


その当時は、お互いに肌を確かめ合ったこともない、二人の痛みにも似た会話。


平和な公園で、電話の声を聞いている。

彼女の少しの息遣いも記憶に止めようとしていた。


いろいろ話した。

その時は、昔、眼球を舐める性的な行為を映画で見たことがあって、それについて話していたんだ。


僕は、映画のワンシーンの話をしていたけれど、昔付き合ってた人と、一度だけそんなセックスをしたことがあった。

その子は、怖がっていたけれど、痛くはないと言っていて…。


好奇心で僕の目も舐めてもらった。

肌を絡ませながら、カタチを歪ませる豊かな彼女の胸をまさぐりながら、その行為にゾクゾクとした悪寒が走ったけれど、痛みは感じなかった…。別に嫌ではなかった。


けど、なぜか、その一回だけで、お互いにその行為に耽溺することはなかった…。

あの時に感じた舌で瞼を押し広げて、這う…感じ。

そして、僕の舌が、彼女の瞼を押し分け…。

暖かい透明な作り物のような艶を持つ眼球に触れる…。

その罪悪感に満ちた感じは、今でも覚えている…。


そのことを、彼女の無邪気な声を聴きながら…。

変態的な交わりを、心の中で、劣情を掻き立てる思い出に罪悪感を抱きながら…目はだめだよねーと、常識人になりすましていた…。


それもまた、自分の中では狂気に近かった…。


エロスは狂気やもんね。彼女は、僕の心を見透かしたように唐突にそう言った…。


僕が、その時、青空を見上げながら、彼女にしようとしていた質問は、

彼女がこの手に触れられて嬉しい場所…。

彼女が一番、この手で狂い果てる場所…。


でも、言葉があまりにも美しくなくって。

キミが触られて嫌がる場所を聞いた…。

ほんの少しの優しさのシミュレーションのつもりで…。


「ねぇ、どこ触られたくない…?」


聞いてみて、性感帯を聞くよりも艶かしいその言葉に、言葉に秘められた狂気を思った…。

彼女が返してきた答えは


「ない… 笑」

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エロスは狂気やもんね。 キミはそう言った。 もりさん @shinji_mori

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