第33話

 体中に走る痛みに耐えなんとかゲートにたどり着いた。時間帯が違うから雰囲気は違うがここは間違えなくあの場所だ。


 そこには既に神ノ原がいて周りには数人の人間が倒れていた。ゲートのをこじ開けようとしていた組織の人間だろう。


「よう。鳴宮悠斗。ずいぶんとボロボロにされたな」


 神様に隠し事は通じないらしい。そういうところが気に食わない。


「まあな。だが小野坂の件は片がつけたぜ」


 もう既に知っているはずの情報をあえて開示する。


「そうか。まあお前にしては上出来だ」


 ずいぶんと不愉快な言い方だ。


「俺はお前の教師だからな」


 はいはい。そうですかと適当なことを言いつつゲートをくぐろうとする。で、そのゲートを一言で説明すると闇だった。真っ暗でこの先の不安を仰ぐような深淵。深淵を覗く時深淵もまたこちらを覗いているというニーチェが残した言葉があるがいざ深淵を覗くと覗かれるというより吸い込まれそうだった。まあ今からここに入るのだけどな。


「待て。俺の教えは守っているか?」


 教え?ああ。


「ハンカチのことか。安心しろ。ちゃんと覚えている」


「噓つけ。忘れていただろう?」


「噓じゃない。人間はな。重要なことは忘れるが大切なことはなんとなく覚えているものだ」


 僕は何を言っているのだろう?この言葉の意味を追求されるのは面倒だったので最後に一言だけ言ってとっととゲートをくぐることにした。


「一応感謝はしている。もし仮に今度神社へ行く機会があれば賽銭を奮発してやる。じゃあな」


「ああ。もし仮に神社に行く機会があれば百万ぐらい賽銭箱に入れろ。そしたら彼女をデートに誘うときの助力もしてやる」


「いいぜ」


 あからさまな嘘をつき僕はゲートをくぐって行った。

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