第30話
僕らは立ち入り禁止の看板を跳ね除けた。ルールを破ることには慣れているし公共事業などで閉鎖されていたわけではなく組織の利己的な問題で閉鎖されていただけのためそこを通ることに躊躇はなかった。心苦しくもなかった。看板を退けるとそこには数人の男がいた。彼らは僕らに近寄り「駄目ですよ。ここ立ち入り禁止なんで」などとぬかしていたが神ノ原を見た瞬間目の色が変わった。彼らは組織の人間なのだろう。僕らを敵とみなしたらしい。だが彼らは突然倒れていった。どうやら神様が力を使ったらしい。そして
「小野坂とゲートはこの奥だ。行くぞ」
と言い、まるで何事もなかったかのように前に進んでいった。頼もしいことこの上ないと思ったが同時に不安にもなった。この先にはこの神様すらも凌駕する化物いるのだ。しかもその化け物と一対一の対決をしなければならない。不安になるのも仕方ない。だが迷いはない。というか迷う時間がなかった。なぜなら小野坂が空から降ってきたからだ。
「神ノ原か。わざわざ俺に殺されに来たのか?」
「もう気づかれたか」
「俺の耳をなめるな」
耳?小野坂がいるのはこの奥のはずだ。そこから僕らの侵入を聞きつけたのだとしたら人間の聴覚の域を超えている。これも人体実験の影響だろうか?だとしたら体のほうは何ともないのだろうか?僕には関係のないことだがふとそんなことを考えてしまった。
「で、お前誰だ?神ノ原の仲間か?」
どうやら僕のことは覚えていないらしい。あれだけボコボコにしといて覚えられていないのは不愉快だがそれよりも不愉快かつ侮辱的なことは僕を神ノ原の仲間にカウントしたことだ。
「僕の名は鳴宮悠斗。一匹オオカミの探偵だ」
一匹オオカミのところを強調して言った。僕のことを嫌っても呪っても馬鹿にしてもいいがここだけは誤解するなよ。
「探偵がこんなところに来て一体何の用だ?」
「依頼だ。それ以外の理由があると思うか?」
そう。これはただの依頼だ。仕事だからやるだけだ。
「神ノ原。頼む」
「いいだろう。死ぬのよ」
神ノ原がそう言うと僕のいた場所は一変した。お馴染みの場所移動だ。徐々に変わっていくのではなく一瞬で変わってしまうため何度されても驚いてしまう。
そこは闘技場のような場所だった。ローマのコロッセオとかをイメージしてくれ。まさにあれだ。そこに僕と小野坂が二人ボッチという状況だ。
「ここはどこだ?神ノ原の奴の能力か?」
「そうだ。ここは神ノ原が能力で作ったステージだ」
と言った。さて舞台は整った。作戦開始だ。
「お前のことを色々と調べたぜ。分かったよ。お前が人体実験までして能力者を根絶やしにしようとしている理由がな」
「貴様何を知った?」
鋭く殺気のこもった視線が僕を睨む。
「疑問だったんだよ。お前がなぜそこまで能力者を恨んでいるのか」
「初対面だというのにまるで俺と面識があったかのようなことを言うな」
「ああ。あるんだよ。面識。覚えてないか?十四年前、佳華真音を捕えようとした時お前を邪魔したイケメンで目がキラキラ輝いている高校生がいただろう?」
噓だ。僕の目が輝いたことなんて一度もない。
「そんな奴いたか?」
あんな目に合わせておいてまだ思い出せないらしい。目のことをもったのが原因か?それとも人体実験の副作用で記憶力が低下しているのか?
「いや違ったな。目が死んでいる高校生だ。そいつがお前の邪魔をしなかったか?」
とりあえず目のことをありのままに告げることにした。すると
「あっ、いたな。そんな奴」
と小野坂。どうやら思い出したらしい。失礼な思い出し方だがそのことには目をつぶってやるとしよう。目のことだけに。
「それが僕だ」
「ほう。よめたぞ。お前は佳華とやらを助けに来たんだな」
「依頼のことは守秘義務で話せないな」
「まあどうでもいい。お前は何を知った?訊きたいのはそれだけだ」
先ほどよりも強い眼光が僕を刺すように睨む。よっぽど何を知られたか訊きたいらしい。
「お前のことを調べるのにはてまがかかったよ。組織が揉み消したんだろう?だが探偵を舐めるな。全部調べたぜ。お前は二十六年前に結婚式を挙げる予定だった。だがお前はその当日とある事情で式に遅れた」
「それ以上口を開くな」
冷たく殺意に満ちた声音で小野坂は言うがそれを無視する。
「会場に行くとお前の婚約者、友人、家族、親戚は全員殺されていた」
「……黙れ」
「しかも彼らは普通ではありえないような殺され方をしていた」
「やめろ」
「お前の婚約者や家族を殺したのは能力者だった。動機は力を使ってみたかったから、だったか。つまりお前は能力者に全てを奪われた」
「そうだ。奴らは人間の超えてはならない一線を超えてしまっている。そんな奴らを野放しにしたから大切なものを奪われた。能力者が憎い。憎くてたまらない」
小野坂はうつむきながら言った。言ったというより呟いたという方が正しいかもしれない。どちらにしてもこいつにはまだ告げなくてはならない真実がある。
「結婚式に遅れた理由、それはとある幼い少年を助けていたからだ。その少年は両親を失って心を病んでおり赤信号の道路に突っ込んだ。そこをお前は助けた。そしてそいつの話し相手にもなってやった。その結果少年を助けることはできたがお前は結婚式に遅れ全てを失った。お前が真に恨むべきなのは能力者ではない。その少年だ。そいつさえいなければ結婚式に遅れることはなかったんだからな。そしてその少年とは僕のことだ」
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