第29話

あれから三日経った。作戦決行だ。なぜ三日間動かなかったのかというと四件掛け持ちしていた仕事を片付けていたからだ。これは一種のルーティンみたいなもので大きな仕事をするときはそれだけに集中できるように他の仕事を終わらせるのだ。それと体を休めていた。過去を振り返ったりして忘れがちだが三日前僕は雨嶋のストーカーにボコボコにされたのだ。その状態で彼女を助けることは不可能だと判断し休息をもうけることにした。こうしてルーティンを完了させ体が完全に癒えたわけだがこれに意味があったかというとなかったかもしれない。ルーティンはただの気休めにしかならないし体だって動かそうと思えば動かせないことはない。もしかしたら僕は三日前のことを反省しているのかもしれない。あの日あいつからの依頼を一日で解決しようとして結果大けがを負った。それ自体は問題ではなかったが依頼人であるあの女に不安を抱かせてしまったことはプロとして反省すべき点だ。だから今回は誰も不安にさせまいと三日間入念に策略を練っていたのかもな。まあいずれにせよ今日で過去にも現在にも決着をつける。そういう予定だ。


「準備はいいか?鳴宮悠斗」


「ああ。もちろんだ」


 そう言うとそこは先ほどまで居た事務所ではなく見慣れない町だった。瞬間移動ってか?もう驚くことが馬鹿馬鹿しい。


「ここはどこだ?」


「そうか。お前はあの時目を閉じていたから分からないか。ここはな。お前と佳華真音が別れた場所だ。あれを見てみろ」


そう言って神ノ原が指さしたのは立ち入り禁止と書かれた看板だった。


「この先にはお前たちが夜空を見た場所がある。今は組織が手を回して封鎖しているがな」


確かに言われてみればあの時と同じ雰囲気を感じるような気がする。気がするだけだが。


「ここがあの場所だということは理解できた。で、なぜここに来た?」


「佳華真音を地球の中心に送ったとき俺はあの場所にゲートを作った。地球の中心とここを繋ぐゲートだ。つまりゲートを通れば彼女に会える。逆に言えば彼女に会うにはゲートを通るしかない。だからここに来た」


 つまりあの場所にゲートがありそれを通らないと佳華のいる地球の中心部まで行くことができないということか。ん?なぜだ?なぜわざわざゲートを作った?こいつなら今ここに来たみたいに瞬間移動で行けるのではないか。そのことを神ノ原に質問した。すると


「いくら神様でも瞬間移動で地球の中心部に行くのは困難なんだよ。だからゲートを作った」


と答えが返ってきた。正直なことを言うと現実離れし過ぎていてイメージが掴めず理解できなかったが要するに地球の中心部まで瞬間移動ではいけないらしい。


「成程。大体分かった」


 噓だ。大体分かってない。


「あとこの先には組織の奴らがいるぜ。奴ら俺の作ったゲートを嗅ぎ付けやがった。もちろんゲートは俺の許可なしでは入れないようにしてはいるがここを封鎖してゲートをこじ開ける研究をしているらしい。その中には小野坂圭吾もいる」


 どうやら小野坂との戦闘は避けられないということらしい。昔なら慌てふためいていただろうが成長した僕はひと味違う。落ち着いて


「安心しろ。それは想定内だ」


と答えた。


これは嘘偽りなく想定内だ。いやここに小野坂がいたことは想定外だが奴と戦うことは想定内だ。戦うというより戦わなければならない。決着を、けじめをつけなくてはならない。


「どうするつもりだ?」


「僕があいつの相手をする。一対一でだ。その戦いを他の誰にもたとえ神でさえ邪魔できないようにすることは可能か?」


神ノ原の答えは聞くまでもなく可能とのことだった。


それを聞いて内心複雑になった。なぜかというと今思案している対小野坂用の手段を使えば僕は死ぬかもしれないからだ。かもしれないどころか死ぬ可能性が非常に高い。というか生き残れる気がしない。だがそれでもこの手段を使用しなくてはならない。一言、一言だけ言わなければならないことがある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る