第28話

四章


回想終了。


「で、僕は記憶を奪われたってことか?」


「いや。奪ってはいない。書き換えたんだ」


 というわけらしい。これが僕の奇想天外な物語の結末だ。フィクションかもしれない物語の結末だ。まあ結末にする気はさらさらないがな。物語はこれからが本番だ。


「あの夢はお前が見せたのか?」


「違う。あれはお前が勝手に見たものだ。それで思い出しそうだったからこうして手を貸してやったというわけだ」


 夢を見たのは偶然、か。納得できなところではあるが仮に神ノ原が見せたのだとしてもこいつはそれを肯定しないだろうしここはロマンチックに運命の力とでも呼ぼうか。嘘っぽいけど。


「それでお前何しに来たんだ?」


「おいおい。お前の大切な記憶を蘇らせてやったんだぜ。その言い方はないだろ?」


「忘れさせたのはお前だろう。まあ佳華の差し金だろけど」


 そう。佳華だ。あいつがいらない気をまわしたのだ。まあこれはただの推理というか推測だがあいつは世界と自分を救うことが不可能だと思っていた。それが例え不可能なことでも僕は一生をかけて可能にしようとするだろう。あいつは不可能なことをやらせまいとした。自分のことを忘れさせて他のことに目を向けさせようとした。最後にあんな台詞を言っておいて。本当に面倒くさい女だ。それにあいつと世界を救うぐらいのことが不可能だと思われているのだとしたら不愉快だ。


「よく分かったな。さすがは探偵」


「お前に褒められても嬉しくない」


 こいつには噓は通じない。だから素直な感想を言った。


「それで佳華真音のことを助けるか?」


「さあどうするかな」


 とぼけた。意味もないのに。


「でもまああの時のことを依頼と考えるならプロとして動かないわけにはいかない。地球と恋人を助ける、か。やってやろうじゃないか」


 ただの依頼だ。そういう理屈がないと僕は動けない。動くべきなのだろうがそれができない。そういう面倒くさい奴なのだ。


「そうか。だったら少し協力してやってもいい」


「なぜだ?」


 前はあくまで佳華が地球の存亡の鍵になる人物だから協力してくれただけであって今の状況で僕に加担しても意味なんてないはずだ。それに神様とは公平であるべき存在だ。それが一個人に手を貸していいわけがない。


「ただの気まぐれだ。嘘つきが気まぐれで真実を語るように神だって気まぐれで一個人に加担するときだってあるさ」


 今気づいた。こいつも面倒くさい奴だ。けどまあ大の神様の気分を害させてもいけないので気まぐれということにしてやった。


「なら協力者としていくつか質問に答えてくれ」


 闇雲に動いても仕方がないのでとにかく情報を集めようと思った。探偵らしくな。


「佳華にはまだ会えるか?」


 これは重要な質問だ。もっとも今からする質問に重要ではない質問なんて存在しないのだがその中でも特に重要だ。なぜなら彼女がとっくに地球と融合してしまっていてそれが神ノ原にもどうすることができないのだとしたら助けるものも助けられないからだ。


「ああ。会えるぜ。意識もはっきりしている。いやあの時彼女の意識は消えたはずだったが数年前に回復した。まあ一時的なものでいつ消えるか分からないがな。ただそのときからずっと待ってるぜ」


 ……。まだ助けることができそうだ。


「なら組織はどうだ?何かの間違いで潰れていたりしないか?」


 ありもしないであろう確立にかけてこの質問をしたが


「残念なことに潰れていないな」


と返された。


「小野坂も健全か?」


「ああ。しかもあの時とは比べものにならないほど強くなっている。正直もう手が負えない」


 最悪の情報だ。あの時佳華が地球と融合したのは小野坂が強くなり過ぎて神ノ原では彼女を守り切れなくなったことが原因だ。だがあいつさえどうにかできれば彼女を助けることができるかもしれない。


「なあ組織の中でお前が勝てないのは今でも小野坂だけか?」


「そうだが」


「だったら小野坂さえどうにかすればいいんじゃないか?」


 神ノ原の初期プランで佳華は死ぬ直前に地球と融合する予定だった。彼女が元気な間は神ノ原が彼女を守る手筈だった。だが小野坂相手では彼女を守り切れなくなった。だから地球と融合する予定が早くなってしまった。いや融合することを選んだのは佳華自身の選択だったな。まあそれはそれとしてつまりは小野坂をどうにかできれば神ノ原には敵がいなくなり彼女を守る初期プランに戻れるということだ。そうすれば佳華は地球から解放される。


「残念な話だがそれは不可能だ。いや小野坂をどうにかすることが不可能だと言っているわけではない。それも不可能に近い話だが今のお前にはそれができてしまうだろうな。だが小野坂をどうにかしても地球温暖化が思ったよりも早く進行している。極端な話、彼女が今地球から解放されると地球は終わる」


 真実は残酷というのは今も昔も変わらないということか。


「お前は成長した。規格外なレベルまで。武力的な面ではないがな。今だってお前の思考が読めない。心の中は覗けるが色々な思考がありすぎてどれが本当なのか判断できない。警察だった頃も探偵である今も人より深く多くの修羅場をくぐり抜けている。というか修羅場に遭い過ぎだ。いやそれはヒーローとやらの活動の一環か?」


 どうやら今までやってきたことはすべて把握されているらしい。


「だがそんなお前も今回の件を解決するのは難しいだろう。それでもやるか?」


「当然だ。僕はどんな依頼でも断らない主義だからな」


 とカッコつけて言った。それにもう手は考えている。

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