第26話
夜の街並みはいつもと変わらない。会社帰りのサラリーマンもひっそりと光る街灯も彼女が死んだというのに変わらない。それは当たり前のことなのだがとても悲しく、憎い。だがいつまでも悲壮感に浸っているわけにはいかない。そんなのは彼女が最後まで好きでいてくれた先輩らしくないから。涙は後でいくらでも流せる。今はそれよりもやらなくてはならないことがある。
「悪いな。佳華」
何があっても彼女を助けるのだ。
佳華と神ノ原の所に戻ると当然質問攻めにあった。それには得意の噓八百で対抗した、が神ノ原もう全部知っている様子だったし佳華も何かを察した様子だったので無意味だった。だがそれ以上追求されることはなく僕らは予定通り隣町に向かった。
「悠斗君。目をつぶりなさい」
隣町に着くといきなりそう言われた。
「殺す気か?」
「それもいいわね。あなたの断末魔聞いてみたい」
「怖いこと言うな」
「だったらくだらない冗談はやめて」
これは僕が悪いのかもしれない。あきらめて目を閉じよう。
「大丈夫。怖くないわ。私がいるわよ」
そう言って僕の手を握り彼女は歩みだした。どうやら僕を先導してくれるらしい。一番怖いのはお前だ、と言おうとしたがやめておいた。本当に殺されてしまうからな。
「悠斗君。ちゃんと目をつぶっているわよね?」
「残念だったな。開いているぞ」
噓だ。つまらない冗談だ。
「はー。あなたって本当に噓が好きよね。何でなの?」
佳華はあっさりと噓を見抜いた。まあ当然か彼女の方は目が開いているのだし後ろを向いたらそれぐらい分かるな。
「僕が噓を好きなんじゃない噓が僕を愛しているのさ」
「何それ?」
自分でもよく分からないことを言ってしまった。いや分からなくもないか。要するに自分で噓をつこうとしなくても勝手にこの口が噓を吐いてしまっている、ということを言いたかったんだ。多分。
そんなくだない話をペラペラ続けていると佳華の足がピタリと止まる。それに合わせて僕も止まった。
「ついたわよ。悠斗君。もう目を開けていいわ」
ようやくか。結構歩かされたな。さて目を開けるとそこは地獄だったとかそういう落ちだけは勘弁だ。
ゆっくりと目を開けた。そして感動した。素直に。なぜなら広がっていたのだ。満天の星空が。
「ここにどうしても連れてきたかったの」
成程。そういうことか。確かにあの時はちゃんと言えなかったな。
「佳華。お前が好きだ。僕と付き合ってくれ」
「いきなり?」
「こういう苦手なんだよ。で、返事は?イエス?ノー?それとも半分か?」
「半分ってどういう意味よ。……まあいいわ。特別に付き合ってあげる」
「そいつは随分と幸せな話だ」
満天の夜空をバックにしつつ僕と彼女はたわいもない会話をした。そう。とてもくだらなく、他人に聞かれると少し恥ずかしいような会話だ。
「見て。あれ」
佳華が急に夜空の方を指さす。その方向には僕が嫌いなものがあった。それが落ちる前に願い事をするとそれが叶うと言われているあれだ。
「ああ。流れ星か。あれよりドラゴンボールに願う方が確実だ」
「夢も希望もないあなたらしい回答ね」
彼女はこめかみを押さえ呆れた口調でそう言った。
「じゃああれを流星ってことにしない?」
「流星ってことにできるのか?」
「流星も流れ星も言い方が違うだけでどちらも同じなのよ」
「へー」
「そう。あれは流星。メテオ」
と特に何を願うわけでもなく。流れ星、ではなく流星は落ちていった。
そしてどうやらこのくだらなくも幸せな時間はもう終わりのようだ。なぜかって?それは――。
「そろそろ時間だ。佳華真音」
こいつが現れたからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます