第28話 魔女騒動
「……わお」
「……なんだその顔は」
元からイケメンだとは思っていた。だが、ボロボロだった身なりを整えるとさらにイケメンに変わった。というか、美しいと表現した方が的確かもしれない。
「ま、まあ手を繋がなくても何とかなって良かったな、と思いまして」
それを本人には言えないので、誤魔化した。
それに、新しい発見があった。私のこの力だが、光の方にも超能力の無効化の力はあるらしい。これで手を繋ぎっぱなしの生活から解放される。
「街中じゃ使えないから、その辺りは大変だね」
沙月さんの言う通りだ。流石に街中で使うのは危険だ。それに、私の顔もバレている可能性はある。1度、捕獲部隊の人に見られている。
あの時、私を連れて行こうとしたのは超能力者である疑いがあったからだろう。……あの時の私に自覚はなかったが。
「うーん。先にやることがあるか」
そう言うと沙月さんは立ち上がり、笑顔で私達に言った。
「お仕事、お願いするね!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さーむーいー」
「俺のところにまで来たやつの言う言葉か?」
「あれは私の力でどうにかなったし! その上、防寒は完璧だったし! それに、出身はもっと暖かいところですし!」
あの時と同じ格好でこの都会を歩いていたら、確実に不審者である。そのため、どうしても寒さは免れない。あの時でもそこそこ寒かったのに。
これ以上の厚着は動きに問題が出るということで、止められてしまった。
「……訊きたいことは山積みだ。それなのに、何故こんなところに……」
「沙月さんに訊け」
現在、私達は駅前にいる。何故かマスクを着用し、フード付きの服を着て、それを被るように指定されて。……あの時の格好よりマシとはいえ、不審者だろ、これ。
勿論、全て沙月さんに言われたことなのだが——
「超能力者は悪です! この世から抹殺すべき対象です! 防衛費を増額し、全国民の検査を行い、悪を消し去るのです!」
「何、この演説」
私達が聞かされているのは街頭演説である。この言葉を聞いた聴衆は熱狂的に盛り上がっている。
だが、私からすればアホくさ、としか思えないのだが。ああ、賛成か反対かは別として、だ。
「こいつら馬鹿か?」
「同感。展開読めたわ」
何故私達はここに連れて来られたのか。それはもう、すぐに分かった。
「奴らに慈悲など必要ありません! 超能力者と同類である亜人も、今すぐに消し去るべきです!」
「亜人!?」
この世界では初めて聞いた。亜人って……マジでいるの? この現代的な世界に? いるとしたら、もっと中世的な世界の方がしっくりくるのでは?
「あいつは過激派だな。亜人の数は少なく、狩りなどの昔ながらの伝統的な生活をする種族も多い。だが、超能力者と同類であるという科学的根拠は何もない」
「……人種差別的な?」
「分かりやすく言うとそうだな」
人種主義者か。超能力者や亜人よりも普通の人間の方が優れている、あるいは犯罪をしない、命を奪うような行為をしない綺麗な存在であるとでも言いたいのか。
……どの世界、どの時代にでもこんな奴はいるのか。そして、それに賛同する奴も。
「うわあああああ!」
「ほら見ろ! 予想通りの展開なんですけどー!?」
案の定、襲撃されている。こんな演説を目立つ駅前で行っておいて、超能力者や亜人の怒りを買わないとでも思ったのだろうか。そして、自分が命を狙われると思わなかったのだろうか。
だから私は最初にアホくさと思ったのである。
「あんな奴らを助けるのもなんか癪だなあ」
「やるしかないだろ」
逃げ惑う群衆とは反対方向に進む。抜けた先にいたものを見て、驚愕した。
「ま、魔女……!?」
「どう見ても見た目がそれだろ。本当に魔女なら、俺でも相手ができるかどうか……」
景でも知っているということは、3年以上前の話か。こんなところに魔女が現れるなんて……!
……ん? いや待てよ? 本当に魔女か?
「例の魔女騒動か、これ!?」
「何だ、それは」
魔女騒動は思わず口から出た言葉だ。実際にこのような呼び方で呼ばれているかは知らない。
つまり、私が勝手にそう呼んだだけである。
「えーと……魔女を名乗る奴があちこちで犯行声明を出して、実際に実行してるやつ!」
S級を調べていた時に渚さんから聞いた話だ。
過去に魔女の姿で実行していたかどうかは知らない。だが、今思い付いたのはそれくらいしかない。
「現状とその話から推測したが、あの魔女にしてはやり方が変だ。偽者か?」
「その可能性が高いと思う」
魔女の見た目をした奴が演説者を押し倒す。そして、ナイフを振り上げる。殺すためか。
だが、そうはさせない。景の氷が振り上げたそいつの手を捕まえる。演説者はさっきから情けない悲鳴を上げている。
「……!」
「光れ!」
私の力で発現させた光を、そいつに向ける。すると、一瞬で魔女の姿はなくなった。そこに残ったのは先程まで魔女の皮を被っていた男だった。
「ちっ!」
そいつは逃げようと思ったのか、拘束されていない左手でナイフを持ち、氷を削ろうとする。だが、間に合うわけがない。先に折れたのはナイフの方だった。
「観念しろ」
そして、景の力で体中を氷の紐でくくりつけられ、動けなくなった。それでも抵抗をしているが、相手はS級。この氷の紐がそう簡単に解けるわけがない。
「へえ。なかなか面白いのがいるじゃん」
「!?」
声がした。中性的で、性別がどちらかは分からなかった。だが、一体どこから……? 先程まで、この辺に人はいなかったはずだ。
「上だ」
そう言われて上を見る。すると、その人は信号機の上に立っていた。いつの間に? というか、どうやってそこに登った? ってか、その格好——
「怪盗!?」
「ご名答! そう、私は怪盗! よくぞ気付いた! バレてしまっては仕方がない!」
いやいやいや。その格好で怪盗だと思わない方が不思議だわ! シルクハットにスーツにマントに仮面! どこからどう見ても怪盗以外は思いつかねえわ! 何が「よくぞ気付いた」だ! 誰でも分かるわ!
「落ち着け」
「まだ何も言ってないんですけど!?」
景には心の声がバレバレだったのか……? 落ち着けと言われてしまった。あるいは態度に現れていたのか。その自覚は全くないのだけれど。
「ってか、怪盗ってこんな白昼堂々と盗む?」
まだ太陽は私達の上にいる。怪盗といえば、夜だ。しかもこんな騒動まで起こして。
いや、そもそもこの騒動とあの怪盗は関係があるのか?
「私は多くは語らない主義だ。これで失礼させてもらうよ!」
「あっ!」
気付いた時には既に遅かった。いつの間にか逃げてしまった。どうやって逃げたのかも分からないほどに。……運動神経が良すぎるのか?
「バレたか? 捕らえようと思ったが……」
よく見ると、氷の蔦のようなものが信号機に伸びていた。どうやら、何もしていなかったというわけではないようだ。
「とりあえず、この場は何とかなったからいいだろ」
「まあ、そうだけどさ」
1つ、問題が残っている。正直、私にはどうすべきか分からないのだが。
「この人、どうする?」
白目を剥いて失神している演説者。口は偉そうなのに。こんなにも小心者だったとは。
物語の展開的にはよくある話だが。
「放っておけ」
「あー、ちょっとー!?」
少し後に「大丈夫ですか!?」という声が聞こえたので、あの人は多分無事だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます