第29話 分隊結成
「……なるほど。元凶はその怪盗だと思う」
群青隊の基地に戻り、沙月さんに先程までのことを報告した。
関係ないかもしれないとも気にしてはが、やはりあの怪盗と騒動は関係があるようだ。
「お前の予知能力で元凶くらいは分からなかったのか?」
「無理があるよ。確定したものじゃない限り、未来っていうのは無限にあるからね。判断することも探すことも難しいよ。その話を聞いて確信したくらいだし」
沙月さんの力は性能が良すぎるせいで良くないのかもしれない。
無限の未来が見えるということは同じ時、同じ場所であったとしても、大量の情報量が流れてくるだろう。それを処理する力も必要とするわけだ。それを容易く使えるわけがない。
むしろ、そう考えれば脳がパンクしてしまわないか不思議だ。
「早急に手を打たないと……申し訳ないんだけど、光ちゃんにも協力してもらいたい」
「分かりました」
沙月さんが手に持っていた世界地図を広げた。そして、赤と青のペンで地図に丸を書き込んでいく。
見たところ、青の方が数が少ない。
「赤は魔女騒動が起きた場所で、青は予告された場所の大体の位置」
こうして見ると、世界中で起こっているようだ。ただ、不思議なのは丸が集中しているところと全くないところがある点だ。
……いや、その前に。今、何と言った?
「あの、魔女騒動って……」
「ん? あれ、渚から聞いたと思うけど、忘れた? 魔女を名乗る人が——」
「そうじゃなくて! 正式名称ですか?」
「そうだよ?」
まさか、適当に思い付いた名称が正式名称だったとは。たまたまではあると思うが、一致するとは思ってもいなかった。
「話を戻していいかな? で、怪盗と魔女騒動の繋がりを見たんだけど……大体は同時期に起こりそう」
大体? 同時に起こっていると思っていたが——
いや、それなら沙月さんがすぐに気付くか。大体だからこそ、確証が持てなくて気付きにくかったのかもしれない。
「っ! これ……まさか、そういうこと……?」
突然、沙月さんが真剣な顔になった。何かを考え込んで、沈黙が流れる。
しばらくした後、何かを決めたような顔で沙月さんは息を吐いた。
「組むのはしばらく後と思っていたけど、仕方ない。分隊、組んでもらおうか」
分隊。その言葉に身が引き締まった気がした。誰と組むのか。多分、知らない人とも組むことになるだろう。
「5人以上で組むんだよ。光と景は一緒として、残り3人……そうだ」
すると、沙月さんは部屋から出て行ってしまった。声が聞こえるので、誰かを呼びに行ったらしい。
「とりあえず、2人呼んできた!」
「2人……? あっ」
1人しかいないような気がしたが、後ろにちゃんといた。影が薄いのだろうか。だけど、どこかで……?
「おっ、嬢ちゃんと組むのか」
「鬼塚さん?」
「心配しなくても、合ってるぜ」
名前や顔を覚えるのが苦手なので、合っているか心配だった。無事、合っていた。一安心だ。
で、そっちの女の子は……?
「
「あれ、私と下の名前、漢字が同じだったりする? 私は神谷
「一緒ですね」
別に不思議なことではない。名前に「光」という字を使うことは珍しいものでもなく、一般的だ。元の世界ではトップ10に入るほどではないが、そこそこ人気だったと思う。
「あっ、下の名前似てたの!? 皆と同じようにいつも
「そちらの方が慣れているので。これからも苗字でお願いします」
沙月さんは下の名前で呼ぶイメージがあったから、苗字で呼んでいたのは意外だった。
後、少々問題が。
「沙月さん、その言い方じゃ甘い
「うっ、ごめん」
思わず、つっこんでしまった。あれでは「佐藤」ではなく、「砂糖」である。
一応、「砂糖」という苗字もあるとは聞いたことはある。だは、彼女の言い方からすれば「佐藤」の方で間違いないだろう。
「ほら、景も自己紹介」
「水瀬 景だ」
相変わらず、ぶっきらぼうな言い方だ。直したいところだが、今は難しいだろう。そもそも私に直せるかどうかも怪しいが。
「まあ、外では基本的に名前は二つ名的なやつで呼ぶから、その辺の心配はないよ。ああ、それも考えないと」
沙月さんが言う二つ名はコードネームと同義だろう。確かに、戦場で本名なんて言うものではない。身元がバレる。
「俺にそういう才能はねえや。嬢ちゃん、何か思い付かないか?」
「まあ……ありますけど」
本名からもじったものではあるが、思い付く。非常に安直な名前も多いけど。
「おっ、俺は何だ?」
「……オーガ、とか? 鬼っていう意味なんですけど」
どう考えても「鬼塚」という名前から取ったものである。鬼塚さん自身は鬼に見えるというわけでではないが、体格からすればやはり「鬼」が似合う気がした。
「いいな! 嬢ちゃん、頭良いんだな」
「いえ、それほどでも……」
この単語を授業で習うわけがない。いや、習うかもしれないが、先の話だろう。
普通、オーガはラノベでよく出る言葉だ。そこで知っただけだ。
「私も、考えてもらっていいですか?」
佐藤ちゃんはやはり、これかな。
「シュガー。砂糖っていう意味。あ、甘いやつね? どうかな?」
「良いと思います」
……佐藤ちゃんの表情が全く変わらない。本当に気に入っているのか、それとも嫌なのか、さっぱり分からない。
見た目からして小学生か中学生くらいだとは思うけど、かなり大人びているよなあ。
「俺なら、なんだ」
「うーん……アクア?」
「意味は」
「水だけど……」
景が「アクア」の意味を知らないのは意外だった。結構有名な言葉だが……まあ、3年ものブランクがあると考えると、そんなものか?
「嬢ちゃんはどうするんだ?」
あ、そうか。自分の分も考えないといけないのか。
神谷だから、神をもじって……いや、それは流石に傲慢すぎるか。
光……思い付いたのは
……いや、他にもある。
「レイにしようかと。光……厳密には光線っていう意味です」
「もう1人はどうする気だ」
「その1人がまだ準備中で、今はまだ難しいんだよね。だから代わりにもう1人がもうすぐ……ほら」
すると、空間が歪んだ。空間操作の超能力……! ということは、ここからもう1人が現れるのか。
「ちょっ、はっ、ここどこ!?」
「……は」
見覚えのある女が1人。戸惑った様子で辺りを見回す。まさか、また会うことになるとは。本音を言うと、2度と会いたくなかったのだが。
「あ……以前は本当にすみませんでした……」
「!?」
私の顔を見るや否や、目の前で土下座をした。以前、というのは私のグッズを盗んだ件に違いない。この女はその犯人だ。
「いや、あの……はい。もういいです……」
日が経ったせいか、怒りもあまり湧いてこない。
そして、どうやら本当に反省しているらしい。それはもう、表情や態度からも簡単に読み取れるほどに。ここまでだと、流石にこちらも怒る気にはなれない。
……いや、本当、何かあったのか?
「ただ、一言だけ言わせてください」
「……はい」
「損害賠償は請求しますからね! それか盗んだ物、全て回収!」
「はい!」
あのグッズ代とその他、部屋を荒らされたこと。後、慰謝料。本音を言えば何百万も請求したいところではあるが、そもそもこの人には払えないだろう。
もっとも、全てのグッズが返ってくればどちらも必要ないのだが。
「光ちゃんが嫌なら次からは変えられるからね。この騒動が解決するまでは一緒でお願い」
「……分かりました」
5人が揃い、分隊が結成したのだった。
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