第27話 どうも、私はS級超能力者です

「ゲホッ、ゲホッ」


「……大丈夫か?」


「大丈夫じゃねえよ……」


 熱は39度を超え、いつもの咳喘息のせいで咳が止まらない。

 この原因は、明らかに昨日体を冷やしすぎたこととろくに体力もないのに歩き回り、体力を消費したことである。


「冷たい……」


「俺を熱冷ましの代わりにするな」


「そんなこと言われたって、冷たいんだし……手だけでも貸してください……ゲホッ」


 本当は隔離した方がいいんだろうけど、力が暴走されても困るので、付きっきりということになった。私のこの熱も風邪ではないので、明日には治っているだろう。まあ、体力の消費による疲れは数日間残るだろうけど。


「やあやあ、お医者様が参りましたよ。沙月ちゃんからは話は聞いているかな? 君の主治医だよ」


「……あ、どうも」


 すっかり忘れていたが、私に主治医がつくとかそんな話をされたような……しかしあれだな。今の口調で分かった。キャラが濃い。リアルにこんな人がいるのか……変人タイプのキャラが。


「ちょっと失礼するね。……ふむ。アレルギー持ちって聞いたけど、もしかして咳喘息の方を持ってる?」


「はい」


 聴診器で肺と心臓の音を確認し、そう言った。


 咳喘息と俗に言う喘息、つまり気管支喘息は違う。喘息は呼吸困難になるが、咳喘息は乾いた咳がずっと出るだけだ。喘息では特徴的な、ヒューヒューというような音も咳喘息にはない。

 咳喘息の方は喘息になる前の症状という感じだろうか。私の場合、気管支喘息が改善されてきた結果、咳喘息になったのだろう。


「薬、出しとこうか。吸入器の経験あるよね?」


「はい」


「じゃあ説明不要か。とりあえず、他には解熱剤とかの薬は出しておくから。すぐに治るよ」


 そう言うと、颯爽と立ち去っていった。診察、たったの数分で終了。早っ。ここまで早い診察はまるで、病気の経過を確認するだけの診察と同じである。


「はい、薬」


「早っ」


「アンナに繋いでもらってるからねー」


 なるほど、空間操作の超能力のおかげか。薬を受け取ると、今度こそ本当に帰っていったようだ。

 渡された薬は、特に何の変哲もない吸入器と薬。異世界だからといっても、ここは現代。文明は元の世界より少し発展しているか? くらいのものなので、変わるわけがないか。



「病気を治してくれる超能力者はいないんですか、本当……」


「いないから医者が来るんだろ」


「それもそうですねえ……」


 もう1度熱を測る。39.8度。流石にキツいので、解熱剤を飲んだ。30分くらいすれば多少は楽になるだろう。それまで耐えるのみだ。


「調子はどう?」


「沙月さん……まあまあです」


 今度は沙月さんがやってきた。その後ろには渚さんもいた。はっきりとは見えないけど、その手にあるのは私達のご飯だろうか。そういえば、そろそろそんな時間だろうか。


「うん。明日には治るよ。体力はどうしても消費するから、明日まで安静にはなるけどね」


「……あの、沙月さん。昨日訊けなかった質問、いいですか?」


 忘れる前にどうしても1つ訊きたいことがあるのだ。まあ、こんな大事な質問は忘れないだろうけど、結構忘れやすい人間なので、今のうちに訊いておきたいのだ。


「いいよ。何?」


「沙月さん、景のお父さんに会ったことあるんですか? ……あ、景って呼んでいい?」


「何でもいい」


 確認を取る前に名前で呼んでしまった。だが、何でもいいといいことは別に構わないようだ。ということで、そのまま名前で呼ぶことにした。


「苗字、水瀬だったよね?」


「ああ」


「うーん……ないなあ」


 じゃあ、あの景のお父さんも未来視かそれに近いものを? ……そうなると、景のご両親は何かヤバいところに首を突っ込んだのか? でないと、あんな風になる理由が分からない。単純に私怨か? でも、あの意味深な言葉の意味が分からない。


「他の人が同じ超能力を持つことはありますか?」


「今のところ完全に同じものは聞いたことがない。例えば同じ水を操る超能力だったとしても、威力とか能力の代償とかに差があるんだよね」


 やはり、似たような力か。沙月さんはいつでも見られるようだけど、この話からすれば条件付きなら十分に有り得そうだ。


「気を付けて……か。私、これから死ぬ未来でも見えてます?」


 未来視に似たものを持って私に「気を付けて」となると、私がこれから死ぬかヤバい目に遭うかのどちらかだろう。


「今のところはないかな。ちょっと大変な目には遭うと思うけど」


 後者か。死なないなら良かった。でも、今のところはってことはこれからその可能性が出てくる可能性も否定できない。日頃から気を付けておいた方がいいかな。


「あ、そうだ。報告があるんだ」


「何ですか?」


「これだ」


 そう言って、渚さんが紙を手渡してくる。これは、新聞? なになに……「マイヤの氷、消滅。犯人は光を放つ超能力者か?」というタイトルとともに、一筋の光が空に伸びる写真が載っていた。


「……これ、私の力では!? 見られてたの!?」


「どこから見てたのか分からないんだけど……」


「ここをよく見ろ」


 渚さんに指差された場所の文を見る。「絶対零度の超能力者は行方不明。現時点で遺体や殺害の痕跡は確認されておらず、逃げた可能性もあると見られる。犯人はこの光を放つ超能力者によるものと推測し、S級に指定するとの発表」か。

 ほう。S級ですか。まあ、そうですよね。S級は化け物クラスですし、対抗できるのは同じS級くらいですよね。


「って嘘ぉぉぉぉ!?」


 私が!? S級!? 嘘!? 私がやったのは「条件付きの超能力無効化」の力だけですよ? それで、S級!? 7人目のS級!?


 ……ああ、頭が痛くなってきた。


「めでたいのか?」


「めでたくないよ! 私の強さが貴方と同じってことだからね!?」


「それはないな」


 嘘のような気がして、フラフラの体で部屋を飛び出し、テレビを付ける。今の自分の格好が髪の毛がボサボサで服もぐちゃぐちゃに乱れているのもお構いなしである。


「本日、新たにS級超能力者が——」


「この一筋の光が——」


「新たなS級超能力者の超能力は何なんでしょう——」


 番組を変えても変えても同じ内容。本当、マスコミはビックニュースがあったら同じことしかやらないなあ……

 どうやら本当にS級になったらしい。……私の力はせめてA級だろ。S級相当ではないと思う……力の正体がバレたら下がるかな。


「姿はバレてないから出歩けるよ。勿論、景もね。同じ氷系の超能力はいるし、バレないよ」


 それはいいんだけど……私の懸賞金、1億円超えってことですよね……? 特に犯罪も何もしてないのに一気に指名手配犯……これが現実か。


「お前、そんなに動いたり声出したりして大丈夫か?」


「アドレナリン出てたみたい……もう切れた……」


 大人しく部屋に戻り、ベッドに入る。余計に具合が悪くなった気がした。一眠りしよう。目が覚めたら夢だったとかいう展開もあるかもしれない。今、私の頭はボーッとしてるし。そうだ。夢に違いない。


「せめてご飯を食べてから寝ろ」


「……はい」


 渚さんにそう言われ、ご飯を食べた後はすぐに眠りについた。


 目が覚めたらこれが夢であることを期待して。

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