第9話 最初の任務

「あー……」


 疲れ切ってそのまま眠ってしまい、気付けば朝になっていた。

 眠い体を根性で叩き起こし、動こうとする。しかし、全く動けない。どうやら、朝になってもアルフさんの腕の中だったようだ。寝ているにも関わらず、かなり強い力だ。


 他の皆もほとんどがそのまま眠ってしまったようで、床には主に缶や瓶などが散らかっていた。


「アルフさん、起きてください」


「んー……?」


「寝ぼけてないで起きてください」


 眠そうにしながら目を覚ますアルフさん。やっと離してもらい、自由になった。時計を見ると、時刻は午前9時。部屋は酒臭く、早く何とかしないといけない。


「光、起きたー?」


「沙月さん、掃除したいので皆を——」


「掃除ならセバスに……むにゃ……」


 おい、寝ないでくれ……

 皆が起きてくれないとこの状況はどうしようもない。しかし、ぱっと見ただけでもかなりの人数がいるし、部屋は広い。1人1人起こすのは大変だ。私は声が大きいけど流石に全員一度には不可能だろう。


「……! 良いところに!」


 誰かがプレゼントとして入れたのだろう。こんな変わったものを入れてくれる人がいてよかった。人数が多いおかげなのもあるのだろう。ちょうど良いものが2つもあった。


「……起きろー!」


 メガホンを最大音量にし、自分が持てる限りの大声で叫ぶ。

 それでも起きない人にはもう1つの道具、シンバルを耳元でしつこく鳴らすと起きた。


「掃除しますよ! 誰ですか、ビールを溢しているのは! ああもう、ここに瓶を置いていたら踏んでしまいますよ!?」


「群青隊のおかん……」


 誰かが私に対して、そう言ったのが聞こえた。



 ◇  ◇  ◇  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 掃除も無事終わり、やっと一息つくことができた。


 二日酔いで死にそうな顔をしていた人には水を飲ませた上に、トマトを食べさせて退場してもらった。アルフさんも同様だ。トマトは二日酔い対策に効果的だ。二日酔いになった後だが、まあ大丈夫だろう。


「そういえば沙月さん」


「ん、どした?」


 私と同じように疲れ切っていた沙月さんは慌ててしゃんとする。見栄っ張りだったりするのだろうか。


「昨日の検査結果はどうでしたか?」


「あ、忘れてた」


 てへぺろ、という表情を見せる。しっかりしてるのかしていないのか本当に分からない。今のところ、していないの方に軍配が上がっている。


「もしもし、光の結果出た? ……え、どういうこと?」


 どこかに電話をかけて結果を聞いたようだ。聞いた途端、何故か真剣な顔つきになった。問題でもあるのだろうか。


「分かった。今から全結果を送って」


 そう言って電話を切った。すぐにスマホからピロンと音が鳴った。メールかそれに値するものが届いたらしい。


「これは……」


 唖然とした表情だった。私には何が何だか分からないが、問題があるのは間違いないようだ。


「あの……結果は?」


「……超能力者ではない、って返ってきた」


 ほっとしたような、しないような。超能力がないのであれば生活はしやすくなる。嫌な話だけど、この世界ではこれが現状なのが苦しい。しかし、元の世界にいた私からすれば超能力を持ってみたかったという気持ちもある。


「……どういうこと?」


 沙月さんは納得がいかない様子だった。その理由が私ではいまいち分からない。


「あ、そうだ。一応、病気の検査もしておいたから。数値は正常。ただし、アレルギーを除けば」


「あー、ですよね」


「主治医はちゃんと付けるからね」


 沙月さんが言うと、超有名な一流の医者を付けてきそうなのですが。まあ、実際そうなるんだろう。アレルギー専門のお医者様も……田舎者からすれば恐ろしい話だが、治るか改善すると思えば有難い。


「光にちょっと調べてもらいたいことがあるんだけど、いい?」


「何ですか?」


「昨日のテロについて、ネットで調べられるだけ調べて」


「分かりました」


 自分の部屋に戻る。そういえば、盗まれたフィギュアを確認できていなかった。確認しようにも、盗まれたフィギュアは……と思ったら、部屋の入り口の近くに置かれていた。恐らく、セバスさんだろう。


「……ない。どこにもない」


 推しのフィギュアがない。手に入れるのが一番大変だった最推しの1/8スケールフィギュアがない。1万円超えで私が持つグッズの中で一番高かった。それがない。


「沙月さん!」


「んー、何?」


「あの女に私のフィギュアをどこにやったか半殺しにして聞いてください!」


「りょ、了解……できるだけ希望に沿うように尋問します……」


 何故か敬語で答える沙月さん。まあ、本当に半殺しにしなくていいのだけれど、そうでも言わないとあの女が腹立たしく思えてしまう。あの沙月さんなら半殺しにはしないだろう。



 さて、頼まれた仕事をしないと。タブレットで……あ、繋がらない。そうか。ここは異世界だ。繋がるわけがなかった。


「沙月さーん」


「今度はなに〜……?」


 疲れた顔で沙月さんがやってくる。なんか、とてつもなく申し訳なくなってきた。沙月さんもお疲れなのに。


「ネットに繋がらないので、ネットに繋げられる機器を貸してください」


「あー、それなら私の使っていいから」


 そう言って私にスマホを渡してきた。見ただけで分かる。最新のスマホだ。しかも見た感じでは性能は元の世界の物より、こちらの方が上だろう。


「いいんですか?」


「大丈夫! 他にもあるから」


 うん。やっぱりそうでしたか。予想はしていたけど、実際に見せられたスマホの数を見てびっくりした。これはまだ他にもありそうだな。

 何台あるんだろう……羨ましい。いや、何台も持っててもいらないけどね。ロマンってやつ?


「じゃ、調べてね。勉強にもなるだろうから」


 そう言って沙月さんは部屋を出ていった。早速使おうとするが、勝手が違う。そりゃそうか。これは異世界のスマホだ。慣れるには少し時間がかかりそうだ。


「……うわ、凄い」


 早速開くと、そこには昨日のテロが大体的にニュースになっていた。開くと、凄惨な現場の写真が載っていた。


「犯行は超能力者によるもので間違いない……か」


 そこに紅の月の名前は全くなかった。これでは全ての超能力者が悪いようにしか見えない。こういった報道も全ての超能力者が犯罪者だという誤解を生むのだろう。

 しかし、推定ではあるが超能力者による犯罪が多いのが悩ましいところだ。本当に大半がこれだと反論するのが難しい。


「……待てよ、超能力者は何人いるんだ?」


 慌てて検索をかけてみる。まあ、100%当てにするつもりはないが、参考にはなるはずだ。


「推定で10万人……え?」


 沙月さんの推測は少なくとも10万人だ。推定で10万人と出すには少々少ない気がする。脅威を伝えたいのなら、多い数字を出しても良い気がするのだが……

 100万人という数で推測していることからすると、沙月さんは恐らく独自に調べているのだろう。沙月さんが私に隠す理由はない。


 ということは、捕獲部隊の方が調査がちゃんとできていないか隠しているということになる。もし後者なら、何故?


「……ダメだこりゃ。全然当てにならない」


 他にも記事を見てみたが、超能力者は悪だとかそのような感情的な意見や偏った意見しかなかった。超能力者の大半が紅の月かどうかもこれでは分からない。元から当てにはしていないので、沙月さんに聞いてみよう。


「ん、超能力者一覧……?」


 超能力者対策部隊のホームページにそのようなタイトルがあった。まさか、とは思うけど……



 私はそれを恐る恐るクリックした。

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