第8話 お酒はほどほどに

「ど、どうしてこうなった……」


「大丈夫か?」


「大丈夫じゃないです……どこの時代の貴族様ですか……今が何年だと思ってるんですか……」


「昔の文化を大事にしろ、ってやつだな。昔よりは頻度も少ないし服装なども緩いが、金持ちはああいうのがある」


 勘弁してほしいものだ。確かに食事は美味しかった。だけど、社交ダンスは地獄だった。人に見られながら踊って緊張しないわけがない。

 自分に暗示をかけて平常心を保ってなんとかしたが、それでも難しかった。暗示は適当なので、効果はそこまでないだろうけど。


 しかも、いきなり高身長の人を相手にするのは大変だ。私の身長は158cm。一方、渚さんは170cm以上はあるだろう。

 おまけにイケメンの相手だから他よりも注目された。その上何度か転びかけた。今なら恥ずかしさで死ねる。


「渚さん、沙月さんと踊ればいいじゃないですか。どうして踊らなかったんですか?」


「あいつは科学以外のことにおいては全くダメだ。ただ、あいつなら踊れるかもな」


 科学に能力値を全振りしちゃったんですね……でも、そうには見えないんだけどな。未来視の影響なのだろうか?


「……えっと、あいつとは?」


「そのうち紹介する」


 あまりよく理解できないままだった。物凄く気になるが、そのうち知ることができるようなので我慢して楽しみにしておこう。


「沙月さん、遅いですね」


「あいつは顧客の相手もしてるからすぐには戻れないだろうな。先に戻ろう」


「はい」


 これから群青隊のパーティもある。……ああ、こんなことならパーティーに参加しない方が良かったかもしれない。申し訳ないけど、大人しくして休もう。



 ◇  ◇  ◇  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「あのー……大丈夫ですか?」


「大丈夫じゃないです……」


 中学生……いや、小学生くらいだろうか。そのくらいの子が心配して話しかけてくれる。無理もない。群青隊の方のパーティはお祭り騒ぎで疲れた。意外と人がいて大変だ。


「光ちゃーん、一緒にどうだい?」


「無理ですよ……」


 この国のお酒が飲める年齢がいくつかは知らないが、私が元いた日本は20歳からなのでそれに従って、たとえ飲める年齢であったとしても飲まないことにしている。


 だが、酔ったアルフさんは私を抱き寄せ、くっついてくるのである。よって逃げられない。その上、酒を勧めてくるのである。これがまた厄介なのである。


「お酒弱いの? もう、仕方ないなあ〜……はい、どうぞ」


「ありがとうござ……ってこれお酒ですよね!?」


「あれ、バレた?」


 アルコールの匂いがするのですぐに分かった。嗅覚がいいのか、こういうのはすぐに分かる。

 警察犬か、と言われたことはあるが犬のように嗅覚が良いわけではない。あくまでも人間の域を出ない。


「無理矢理お酒を飲ませたら犯罪ですよ?」


「えーそうだっけ? 気にしない、気にしない!」


 これだから酔っ払いは困るのだ。全く離してくれない。アルフさんもイケメンだから普通の女子なら喜ぶだろう。だが生憎、私は普通ではない。オタクになると、イケメンのキャラが多いせいか人を内面で見るようになった。だから好きなキャラの性格が大体同じなのである。


 私が好きなのはクールキャラ。断じてチャラ男ではない。チャラ男の推しは1人もいない。

 そう考えると、私の好みに近いのは渚さんだろう。まあ、渚さんには沙月さんがいるので相手にされないだろうけど。そもそも、私は二次元LOVEなので三次元、つまり現実で恋をすることはしばらくないだろう。


「よう、新入りの嬢ちゃん。アルフに絡まれてるじゃねえか」


 見た目は50代くらいの男性だろうか。隣に座って話しかけてくる。はっとなって思い出したが、私に話しかけてきた中学生くらいの女子はいつの間にかどこかに消えていた。


「助けてください」


「それは無理な願いだなあ。こいつの酒癖は悪いからな」


「ついでに女癖も悪いです」


「ははっ、言うじゃねえか」


 そう言って上機嫌に笑う。この人もかなりお酒を飲んでいるが、アルフさんと違ってお酒に強いらしい。顔は赤いものの、飲んだ缶ビールの本数はぱっと見では数えきれないくらいに積まれている。こんなに飲んでいては、いくらお酒が強い人でも顔も赤くなるだろう。


「語弊があるが、こいつは酒癖が悪いくせに酒には強いから厄介なんだよなあ」


「確かに語弊がありますね」


「要するに酒は大量に飲めるってことだ。なかなか酔い潰れない。そういう意味では強いんだよなあ。すぐに酔うから一般的な酒に強いっていう意味じゃないんだけどよ」


「それはまた……面倒ですね」


 このタイプが一番厄介だろう。すぐに酔い潰れてくれれば誰にも迷惑はかけないが、酔って上機嫌になる時間が長いタイプの人だから何をやらかすか分からない。


「酔った勢いで女を何人も連れてたこともあったな。一晩中飲んでただけで何もなかったみたいだけどよ、かなりイチャイチャしてたぜ」


「ダメだこいつ」


「お前やっぱ面白いな!」


 そう言って豪快にはーっはっはと笑う。やっぱり女たらしだったか。酔ったら未成年にまで手を出していそうで怖い。


「ついでに言うと、こいつは飲み過ぎるとその間の記憶が無くなる。多少酔っただけじゃならねえがな」


「もうこの人にお酒を飲ませないで……」


「無理だな。こいつは酒好きだ。飲み過ぎないようにするのも難しいな」


「早死にしますよ……?」


 そうアルフさんに言っても何も聞いていないのかワインを飲んでいる。そのうち肝臓やられてお釈迦になってももう知らない。というか、多分そうなるだろう。


「おい、お前良いワイン開けてるじゃねえか! 何やってんだ、俺にもよこせ!」


 予想通りだが、この人も間違いなく酒好きだな。ワインを見ると、すぐに飛びついてきた。


「戻ったよー!」


 よし、救世主が……と思ったけど、沙月さんは救世主なのだろうか。いや、逆だろうか。そもそも魔法の呪文でもなんでもないのだが。


「毎年恒例! 皆が用意したクリスマスの贈り物の交換だよー!」


「「「いえーい!」」」


 沙月さんの言葉でさらに盛り上がってしまった。もう……ダメだ、これ。私の寿命は縮まってしまうんだろうな……疲れた。


「私が余分に用意してるからない人も安心してね! じゃあ、くじを引いてね!」


 くじによって貰える物が決まるらしい。それぞれに番号が振られており、よく見るとプレゼントの袋にも番号の紙が貼られていた。袋に入っているので中身が何かは全く分からないけど。


「4か……」


 配られたのは4と書かれた紙だった。何となくだけど、一桁だと良い物が入っている気がしてしまう。まあ、私が欲しい物が入っていることはないだろうけど。良くてアクセサリーとか服とかかな?


「じゃ、配っていくからね!」


 1人ずつにプレゼントが配られていく。私の番がきて沙月さんから手渡されると異様に重かった。何が入っているんだ?


「おっ、それ俺のじゃん。運命だね!」


 最悪なことに中身はどう見ても赤ワインと瓶に入った透明な液体が2つ入っていた。恐らく、こっちもお酒だろう。1つが赤ワインのようだからだから残りは白ワインだろうか。


「それは両方ともワインだよ」


 予想通りだった。待てよ、両方? じゃあ、もう1つは一体……?


「スピリタス……スピリタス!?」


「おっ、知ってるのー?」


「これ何も知らずに飲んだらヤバいやつじゃないですか!」


 スピリタスとはウォッカの一種でアルコール度数が96度前後の火器厳禁のお酒。つまりアルコールが96%ということ。世界一アルコール度数が高いお酒だ。これはもうただのアルコールでいい気もする。


「喉が焼けるよ。俺も飲んだけど痛かったー」


「何やってるんですか……当たり前ですよ」


 アルコール度数が高い故にストレートで飲んではいけない。カクテルなどにして薄める必要がある。そうしないとアルフさんがやったように喉が焼けるように痛くなる、らしい。実際に飲んだことはないが、学校の先生がそう言っていた。


「お酒に詳しいね〜」


「アニメでやってたのを見て調べたんです。一般的な高校生よりは知識はありますね。お酒が好きというわけではないですけど。むしろ匂いは苦手です」


「よし。じゃあ俺のお酒を当てたことだし、一緒にお酒飲もう!」


「だからダメですって!」


 お酒はほどほどにしよう、と学んだ。こうなりたくはない。

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