第10話 S級超能力者の恐ろしさ

「これってやっぱり……」


 そこにあったのは人の顔写真や名前。察してはいたが、全て超能力者だ。

 超能力者には肖像権とかプライバシーは一切無関係なのがよく理解できる。これでは犯罪者どころか凶悪犯罪者、つまり指名手配犯と変わらない。もちろん、凶悪犯も含まれているだろう。


「殺人、誘拐、強盗、傷害……ん?」


 おかしい。何故か違和感を感じて一通りざっと見る。やはり変だ。

 よく見ると、罪を犯していない人間が1人もいない。流石に1人もいないのはおかしいだろう。全員に何かしらの犯罪名が付けられている。普通に考えれば指名手配されるほどの罪ではない者も多くいた。


「男性、25歳、会社員。2018年に女性への殺人と死体遺棄。魅了の能力か……」


 事件について調べてみる。実際に記事があり、それを開く。

 女性は犯人と出会い、交際を開始。男は女性の金目当てで殺害し、遺体は山に埋められたとのこと。山の所有者がタケノコを取ろうとした時に、遺体の足が見えて発見された、と書いてあった。


「遺体を山に……ね。ってできるか、バカ!」


 田舎出身の私からすればよく分かる。不可能だ。


 実際に掘ったことがあるが、木の根や石があって掘るのが難しい。人が1人入るだけの穴を掘れるとは到底思えない。

 しかも単独犯だ。業者に頼めばすぐに怪しまれるため、その時点で発覚するはず。穴が勝手にできる能力ならまだしも、持っている超能力は魅了。圧倒的矛盾。これは確実に嘘だ。


「あっちもこっちも山に死体を埋めてる……おいおい。山のこと知らなさすぎるだろ……」


 でっち上げなのは間違いないだろう。1件くらいなら何とかして埋めたというのもギリギリ納得してやろう。だが、何件もあるのはおかしすぎる。


 このでっち上げの内容を作ったのが都会の人間だから知らないのだろう。これで騙せると思ったのだろうか。残念だったな。私の目は誤魔化せないぞ。


「もっとまともなのはないのか……ん?」


 よく見ると、それぞれの超能力者にB級やC級と書かれていた。予想はできるが、何のことかは分からないので、「超能力者 b級」で検索をかける。

 すると、同じく超能力者対策部隊のホームページにB級超能力者一覧と書かれたページがあったので開く。


「B級超能力者はC級よりも危険度が高い。ああ、ならA級とかもあるってことか。……B級は一般の方が相手をするには危険か」


 言われてみればC級よりも超能力の名前からして超能力が強いように見える。犯罪も重いものになっている。


「懸賞金は300万円以上……は!? 懸賞金!?」


 いよいよ指名手配犯と変わらないではないか。C級は……100万円以上か。一応、同じランクでも人によって懸賞金の差はあるらしい。


「A級……1000万円以上!?」


 かなり危険だから捕まえるのは難しいだろう。1000万円以上とあるが、大抵は3000万円や5000万円などとかなり高めに設定してある。


「S級……これが一番上か」


 S級の人数は僅か6人だった。懸賞は1億円以上だが、10億とか100億とか、桁違いな金額まで跳ね上がっている人も多い。

 その上、全員の名前も顔も全く分かっていない。


「能力名は絶対零度。マイヤの約3分の2以上の領土が3年以上経った今現在も氷漬け……氷漬け!?」


 マイヤが何か分からないので調べてみると、どうやら国の名前らしい。世界地図を見てみると、割合だけで言えばオーストラリアくらいだろうか。


 世界地図を見て、やはりここは私が元いた世界ではないのだなとよく実感してしまう。


「写真は……うわ、何これ!?」


 一面中が氷だった。写真だけでもまるで映画のような迫力だ。雪が降り、建物も何もかもが凍っている。


「この写真は氷漬けにされた場所の端の方で撮られており、進むほど吹雪が酷く、撮影どころではなかった……これでまだマシな方なの!?」


 S級なのも納得できる。こんなもの、誰も近づけない。命の危険すらある。中心部には恐らくこの超能力者がいると思われるが、誰も捕まえることなんてできないだろう。というか、この中心部にいる超能力者が心配だ。まだ続いているということは生きているはずだ。食べ物とかどうしているのだろう。


「最低気温は機械を投入した結果、約-273℃を記録……は!? だから絶対零度か」


 絶対零度は確か-273.15℃だ。本で見たから記憶している。

 こんな温度で超能力者生きていけるのだろうか。死んでも超能力の効果は続くのだろうか。普通なら確実に生きていない。S級というのはこんな化け物なのか。こんなやつには誰も勝てないのでは?


「S級にまで辿り着いたね」


「……未来視で見てましたね」


「えへ、バレた?」


 あの疲れ切った顔はどこへ行ったのやら。沙月さんがノックもなしに私の部屋に入ってきた。ノックくらいしてほしいものだ。


「絶対零度の子に関しては私も現地に行ったんだよね」


「行ったんですか!?」


「うん。最初は2年前だったかな。装備も完璧にしてね。それでも全く歯が立たなかったよ」


 あの沙月さんの力を持っても全く歯が立たなかったのか。流石はS級だ。強すぎる。


「1年前と半年くらい前にも、技術を上げて宇宙服みたいな格好で行ったけど失敗。充電切れの上に破損しかけた。宇宙服より強度も性能も上なんだけどね……」


 宇宙服って10億円くらいしなかったっけ。開発費も考えると、それまでに何百億円と使っているのでは……? たとえ物価が安くても、かなり痛手なのでは?


「失敗って分からないんですか?」


「分かるよ。それでも行く。絶対零度の超能力者の身が危ないからね。未来は変わることもあるし」


 沙月さんは凄い。私なら絶対にできないだろう。だから沙月さんは信頼されるのかな。


「後、魔女についても話しておこうか」


「魔女ですか?」


「そう。S級の中のS級。絶対零度の子よりもヤバいよ」


 これ以上だと!? 全く想像がつかない。国のほとんどを氷漬けにするよりヤバいって一体なんなんだ……?


「マイヤより大きい国が一瞬で消えた」


「一瞬で消えた!?」


「そう、一瞬。本当に数秒だよ。その周辺国も一部やられてる。宇宙から映像を確認したけど、本当に一瞬だよ。ネットを探せばすぐに見つかるよ」


 オーストラリア以上の面積の国が一瞬だと……? 確かにそれは絶対零度の超能力者より威力は上だろう。継続して被害があるのは絶対零度の方だから五分五分のような気もするけど……


「国民は全員行方不明。物一つなかったよ。被害額はもうとんでもないよ。そこそこ大きい国だったから貿易とかで全世界に影響を与えたね。それも含めるともうとんでもないことになったね」


 そう考えると確かにとんでもないことになっている。何兆だろうか。全国民がいなくなったというのも不思議だ。


「国民は骨や血も残らず死んだ可能性が高いとされてる。建物も何もかも一瞬でなくなったからね」


「その魔女は……どうなったんですか?」


 S級で残っているということは死んでいないのだろう。分かってはいるが、それでも一応聞いてみる。


「全国民が消えたことが確認されてから爆弾を落とされたよ。その時に見た目が女だと確認されたけど、長い髪は逆立って髪や服とかの色が変わってて、辺りは火の海で、水や物、魔女自身も浮いてた」


「はい?」


 一体何種類の能力を持っているの? 重量操作? 火? 水? 空中浮遊? 超能力って複数持てるの? どういうこと?


「超能力は1つしか持てないはずなんだけどね……だから魔女は超能力の域を超えて、魔法って言われてる。魔法は悪が使うものというイメージが余計に強くなったね」


 余計に強くなった、ということはそれ以前からそのイメージが強いのだろう。超能力の影響だろう。魔法と超能力はどちらも普通ではできないことが理由だと推測できる。


 ということは、私が元いた世界で人気の異世界ものや超能力系、それに類するものは一切ないだろう。なんと勿体無い。面白いのに。


「爆弾では無傷。そこで核爆弾が落とされたけど、無傷だった。その後も何発か落とされたけど、ダメだった。放射線もあるはずなのにまるで平気だった。しかも、戦闘機は異常が無かったのに全て墜落。乗っていた人は全員行方不明。遺体すら見つからなかった」


 核爆弾を落として無傷!? 放射線も平気!?  人間なの? 何の能力か皆目見当がつかない。複数超能力者だとしか思えない。


「普通の核爆弾より威力が高い特殊な兵器を使ったという話もあったみたいだけど、無傷だった。何の兵器かは不明だけどね。そして魔女は突然消えた。あそこにはしばらく誰も住めないだろうね」


「突然ということは野放しですか?」


「うん。だからまた同じことが起こるんじゃないかって言われてる」


 S級は飛び抜けて危険すぎた。想像以上だ。しかもそれが他にも4人? 地球大丈夫か? まあ、他の4人がこれよりましなら大丈夫かもしれないが、恐ろしい。


「じゃ、引き続き調べてね。S級のことも調べておくといいよ」


 すっかり自分の仕事を忘れていた。でも、S級にも興味がある。もう少し調べてみよう。

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