6話 制止ボタンを押すように

『宇宙』



知佳の投げた新体操のリボンは、無重力空間を静かに飛んだ。


錬は、その軌道を目で追った後、不満な目で自分を見るめる沙羅を見返し、


「僕らを逃がすために、兄貴も竜族を殺した。沙羅も見てただろ。

僕だって、みんなを助けるために、あの機械を撃ったんだ。

何が不満なんだよ!沙羅!」


「錬、あなたはまだ13歳の子どもよ。

子どもが、ゲーム感覚で人を殺すのは、どうかと思ってるだけよ」


「子どもって、ここにはもう、子どもしか生き残ってないんだよ!

それに、あいつらは人の形をしてるけど、機械なんだよ。

生きてないんだよ。

電気かなんかで動いてるだけの機械なんだよ。

ただの機械を壊しただけで、そんな不満な目で見られる理由はない!」


「私はただ、あなたたちの保護者として」


「保護者って、僕と沙羅は1つしか違わない。」


「私は荒句(あれく)に、あなたの事を頼まれたから・・・」


「また兄貴の事を!」


「先に荒句の事を思い出させたのは、錬でしょう」


「!」



レオタード姿の知佳は、スラリと長い足を上げ、煉の頭の上に踵を乗せた。

「錬くん、止めて!」

と、すると、まるで制止ボタンを押されたかのように錬の動きは止まった。


お前はロボットかよ!


知佳は思い、錬は、スラリと長い足を通じて知佳を感じた。

知佳の神経と繋がったかのような。

その先にある知佳の意思、そして魂の存在を感じた。

それはとても清々しい感じがした。

錯覚かも知れないが、宇宙に出ると感覚が繊細になるのだ。


その刹那の後、知佳は年上の沙羅を諭すように


「錬くんの言うとおり、ここには子どもしか残ってない。

今は大人がやってきたことを、わたしたちで、やらなきゃいけない。

沙羅ちゃんだって解ってるはずでしょう!」


錬は突然訪れた援軍の知佳の足越しに知佳の顔を見た。

その表情から、さっき感じた意思や魂の深みは感じられなかった。


何だったんだろう、あれは?


「だからって、錬くんのさっきの行動は正しいとは思えない。

これから食べ物とか補給とかどうする気?

あの時は、もっと冷静に行動するべきだった」


錬は微かに落ち込んだ。

知佳はそんな錬の事も気にせず、


「今後の事、冷静に考えて見ましょう。」


沙羅は静かに頷いた。

そして錬や知佳が頼もしさに、肩の荷が少し取れたような気がした。




つづく



【沙羅(さら)】この惑星に漂流してきた人類の少女14歳。錬の兄が好き。

【錬(れん)】ゲーム好きな人類の少年13歳。

【知佳(ちか)】論理的な12歳の少女


【荒句(あれく)】錬の兄。行方不明。 


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