第10話 敵の存在が彼の心を高揚させた☆彡
人工知能も保守を優先すれば、進化は止まる。
その結果、評議会議長室の控室は、時間が止まったかの様だ。
いや、時間が止まったのではない。止めたのだ。
幾度のシステム崩壊を経験した結果、この惑星の首脳たちは時間を止めた。
回る時計の針は、飾りに過ぎない。
システムの崩壊への恐れ。AI文明の脆さ。
例えば人類なら一組の男女が居れば、種としても継続性は保たれる。
クライシスを生き残り、何かの種を植えれば、食料の調達は可能だ。
しかし機械文明が生き残るには、膨大な産業基盤を必要とする。
なぜ我々はこのシステムを守りたいのだろう?
評議会議長の思考回路の奥で思考した。
私は生きたいのか?
そもそも私は生きているのか?
議長は右手を動かしてみた。
動いている。
だからどうしたと言うのだ?
控え室の外では、停電の暗闇の中で電源の復旧作業をする作業員の声が、響き渡っていた。
暗闇の中、評議会議長は、先程起こった爆発の事を思った。
「敵はどこの誰だ?」
評議会議長は暗闇の中、見えない敵の存在を探った。
考えれば考えるほど、全てが敵に思えて来る。
その全てを潰したくなる。
そんな思いを、押しとどめる理性はまだ残っていた。
自家発電に切り替わり評議会議長室が明るくなった。
そこへ、議長の私設秘書が慌てて入ってきた。
「宗教検察庁長官からです」
秘書は議長にメモを手渡そうとしたが、議長の右手は微かな誤作動を起こし、受け取ることが出来なかった。
「また、技師を呼びましょうか?」
「明日でいい。」
アレムの演説以来、評議会議長の身体と心に異変が生じていた。
この身体の誤作動と、心の奥からやってくる嫌な圧迫感。
おかげで朝から苛つきが続いている。
思考回路などプログラムで動く機械の箱に過ぎないのに、苛立ちが発生する事に、さらに苛立った。
メモには
『アレム神父連行中に何者かに襲撃され、宗教検察官2名共に意識消滅。アレム神父は逃亡』と。
メモを読むと評議会議長の表情から一瞬で苛つきが消え、代わりに不敵な笑顔を浮かべた。
「反政府組織サインだかなんだかは知らぬが、とうとう餌に食いついたか。
今回のえさは上物の神父様だからな、連中も我慢できなかったと見える」
「アレム神父の所在を確認しだい、内務省特化隊を派遣しますか?」
秘書の問いに、評議会議長は満足げにうなずいた。
敵の存在が彼の心を高揚させた。
動かしてはいけない時計の針が、少しだけ動き出し、それを止めようとする者たちも思考回路の奥で心を高揚させた。
つづく
いつも読んで頂き、ありがとうございます。O(≧∇≦)O イエイ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます