第13話 トワノ国編 内乱2

『アルベルト王子視点』


私の誕生日の式典の日。まだ全員では無いが、大分避難は完了した。後はいなくなるとあからさまにバレる可能性のあるもの達の避難だけ。援軍の要請さえ通ればいつでも行けるのだが…。

私は父上に会いに王室の前に立ち許可を待った。


「いいぞ。入れ。」


「はい。失礼いたします。父上、報告と相談がありまして伺いました。」


「ああ。私も用があったからちょうどいい。先に聞こう。」


父上はあからさまに不機嫌な顔つきだ。イライラしている。


「はい。離れの塔に人を配置する為に執事長、騎士団団長、メイド長の元に行ったのですが、執事長とメイド長に関してはここ数日出かけると言って休んでいる模様です。そして未だに帰ってきてません。騎士団団長は昨日はいた様なのですが、私が行く前に慌てて出かけたと報告を聞きました。なので配置を決めきれませんでした。今日の式典のために代理を立てて出かけたらしいので、そちらは問題ないようです。何かご存知でしょうか?」


「ふむ。騎士団団長は恐らく実家のことだろう。報告は受けてないが、やばいらしいからな。帰ってきたら罰しよう。メイド長はたまにある。あいつも好きものだからな。問題は執事長だ。私の所にもいないと報告を受けている。一緒に亜人の使用人どもの数があからさまに減ったこともな!!」


父上はいすに自分の拳を思いっきし叩きつけ、怒りを露わにした。


「はい。私も昨日気づきました。」


「お前には言ってなかったが、アイツに亜人共の売買を任せていたんだ。つい最近、シャルグ国の奴隷省と何やら密会していたと報告をうけている!!すでに捜索隊を結成し探させる段取りをしたとこだ。まさかとは思うが…。」 


「父上。私が離れに連れていくつもりでした執事を執事長にして頂くのはどうでしょうか?とても優秀です。今から長として治れば、私が王位を継いだ後も大変心強いのですが。」


「んー。しかしな、シャルグ国次第だが、奴隷の売買も出来んと新たに役職を作るなど手間が増えるのだ。そのものは商人としても優秀なのか?」


「はい。ナルダ商会の次男ですので問題ないかと。」


「ん?ナダル商会とは確か、奴隷の売買を拒否したとこだったな。大丈夫なのか?」


「はい。その事で父親と喧嘩し、勘当されて王城に来たのです。問題はありません。」


「そうか!良かろう。この後すぐにでも人事を出そう。その者に人事がおり次第、奴隷の確保を命じよ!」


「わかりました。すぐに来させます。騎士団は副団長に任せるかたちで、メイド長は代理の方にそのままお願いするように致します。私の方の人事もこの3人に打ち合わせはします。よろしいですか?」


「ああ。良い。そうしろ!今日のメイドは平民で頼むと伝えておいてくれ。」


この人は毎度毎度一体何処まで欲が尽きないんだろうか?自分の父親だとわかっいても呆れて物申すもバカらしく思える。


「申し訳ありませんが、今日はメイドの休みが多いのと加えて亜人が消えてしまって手が余っていない状態です。補充されるまでお待ちいただけますか?」


「んーーー!!わかった!!!だが明日は平気だろう?明日はそう言っておいてくれ。昨日の残りの亜人でもいい。」


ブチ切れながら了承してくれた。


「わかりました。伝えておきます。」


俺は一礼してから王室を後にした。すぐにマルクスを呼び段取り通りにと伝えた。後は援軍の到着に合わせて王城内に増員させられれば完璧だが、未だに返事は返って来ていない。使いもまだだ。断られたのなら仕方ないがそろそろハッキリさせたい。いつまで父上を待たせて平気か…。待たせすぎるとマリン王妃に手が伸びた時にどうするか?後は野蛮な遊びに残りの獣人が当てがられるかもしれない。

俺は焦る気持ちを抑えつつ、マルクスと共に王室に向かった。


「アルベルト様。計画の開始を早めてしまい、も…申し訳ありませんでした。」


マルクスが小声で話しかけてきた。


「気にするな。どちらにせよ、排除する対象ではあったんだ。誰にもバレずに処理出来たことをよしと考えろ。援軍の有無の結果だけが悔やまれるが、動き始めてしまった以上は全力で行くぞ!」


「はい!!」


その後、スムーズにマルクスが執事長に就任し、マルクスだけが王室を出た。


「父上。相談とはどのようなものでしょうか?」


「あ?ああ。そうだな。私も今回のことで腹をくくった。シャルグ国を討とうと思う。もしくは離別する。」


「な!何をおっしゃっているのかわかっているのですか?軍事的にも兵士の数でも大きな差がございます。何か策があるのでしょうか?」


「我々の先祖は元々、別の世界の住人だった。この世界の人間との血によって薄くなり潜在能力は弱くなってしまった。だからずっと前から召喚魔法の用意をしてきたのだ。我々の血を濃くするために。しかし、勝手にやったとシャルグ国にバレれば関係は悪くなるだけでなく、召喚した者を奪われかねない。しかし、敵対すると覚悟を決めれば、召喚者に協力を頼めば対抗はできる……はずだ。まだわからんが、召喚者の血を我々に入れれば瞬間的にも強化はできるはず。昔の資料の研究日誌によれば、この世界の者には毒だったようだが我々なら可能性がある。」


「全て可能性の話でしかないのですね。それで本当に大丈夫なのですか?」


父上は頭を抱えながら俯いてしまった。


「しっしかし、このままでは我が国は衰退するのみ。万が一亜人どもとの戦争に負けでもしたら我々は終わりだ。それなら亜人どもと協力してシャルグ国に勝てば、後は召喚者とお前の間に子供ができれば問題は解決する。シャルグ国との関係が切れれば、何十年か一度召喚していけば薄れることもない。」


この人は自分で何を言っているかわかっているのだろうか?召喚とは簡単に言えば誘拐だ。それも絶対に帰えることのできない状況に陥らせる。取り返しは出来ない。人として狂ってる。


「私は同意できません。召喚とは誘拐ではないですか!?」


「なっ!何を今更。我が国はそれで成り立っているのだ。今に始まった話ではないだろ!?この世界の者も他の世界の者もかわらんだろ?」


自分の父親に何を期待してたんだがバカバカしくなった。そうなんだ。この人がこんなんだから、この国はおかしくなったんだ。奴隷売買を主とした国なんて間違ってる。


「それにだ。もう準備は出来ているんだ。後は人柱を誰にするか決めればいいだけだ。」


「人柱?ですか。犠牲になるわけではないですよね?」


「ん?資料によれば平気だったそうだ。魔力の高い者達を使えば命まではつきないらしい。ただ魔力が尽きかけて、しばらく使い物にならなかったらしいがな。」


「かしこまりました。実行が決まり次第、私が人選いたします。人が足らない以上、戦争となれば犠牲で戦力を減らせませんので。」 


「そうか。なら任せた。私は執事長の捜索の件もあるからな。召喚は四日後の満月の日にしようかと思っている。」


私は内心、ほっとしながらも顔に出さずに父上を見つめた。


「かしこまりました。それまでには用意いたします。それでは失礼いたします。」


私は直ぐに状況確認に周りをしながら、決行を3日後にする旨を皆に伝えて、新たにジャヴェル村に使いを出す様に指示した。


『キャスベル視点』


兄上が来年には学園を卒業し、正式に後継者として皇城に身をおくから今年の誕生日はその後継者としての儀式も兼ねているそうだ。その為の式典だ。今までは別々にやっていたそうだが…、以前兄上がそれだけ財政がやばいってことなんだろうと言っていた。 


スタートは王都を決められた順路で周る。兄上は馬車の上から皆に手をあげで挨拶をしている。俺とクリスティーナは最初は立って挨拶をしていたが今は座って雑談していた。


「キャス兄様。アル兄様は何を考えてられるかご存知ですか?急に離れに追いやられていろいろ困っております。学園にも入る準備がありますのに。」


「ああ一応聞いたが、クリスティーナは兄様を信じて我慢してくれ。今は大事な時なんだ。」


「はあー、全く。お兄さま達は私のこと少しは気になさって下さってもよろしいかと思います。蚊帳の外にするのは酷いとおもいませんか?お気に入りの奴隷までいなくなってしまいましたし。不満だらけです。」


クリスティーナは怒った顔で腕を組んでしまった。困った妹だ。根は優しい子なんだがな。


「それは耳が痛いな。奴隷の子達は我慢してくれ。今は人手が足りない状態なんだ。それにクリスティーナのことは気にしてるんだぞ。これでも。アル兄様だって。今は忙しいからそう思われてもしかたないんだけどな。」


「そうだぞ。クリスティーナ、本当なら毎日ハグしたいくらいには思ってるんだぞー。」


アル兄様が周りに手を振りながら口を挟んできた。


「そういうことを望んでるのではありません。盗み聞きなんてはしたないです、お兄様。」


「いや、この距離で普通に話したら聞こえちゃうよ。それとクリスティーナ、学園の準備は問題ないから大丈夫だよ。キャスの方はバルクが用意してくれてるから問題ないよね?」


「はい。兄様。問題ないです。順調に進んでいます。兄様!!周りに見えるようにしないと!!」


兄様は椅子に座り込んでしまった。


「いいんだよ。ここの間は奴隷で金儲けした奴らがいる貴族のエリアだ。挨拶するのも吐き気がする。」


「アルお兄様!!言葉遣いが悪いですよ。それにお父様の後継としては大事ではないのですか?」


クリスティーナが不安そうな顔で兄様を見つめていた。


「ああ。大丈夫。問題にならないように準備してきたからね。王位を継いだときには問題は解決しているさ。」


少し疲れているのか、どんな状況でも完璧にこなす兄様が見せた目の前の笑顔はどこか悲しげに映った。

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