第12話 トワノ国編 内乱1

『第一後継者アルベルト王子視点』


トワノ国。元勇者が作った国。遠い昔、魔龍帝が世界を破滅に追いやろうとしていた時代に隣国にあるシャルグ国が勇者を召喚。勇者を筆頭にヒト族、エルフ族、ドワーフ族の連合軍で討伐に成功。勇者は褒美として国を建国。それがラルカ国だ。俺はその忌まわしい血の子孫。最初は平和が続いたらしいが…イヤ、今でもヒト族とエルフ族だけにとっては平和は続いているのかな。他の種族は奴隷として、あるいはそれ以下の扱いとなっている。

現国王の父も例外ではない。日々、王城で働く亜人の使用人は人が変わる。幼い頃は気づかなかったが今でも大勢が遊ばれ殺され続けている。俺が幼い頃から面倒を見てくれていたルルも…。16になり、初めて知った。ルルから16歳になった俺宛の手紙をもらって初めて知った。母様も優しい方だったそうだが、亜人の差別に異論をとなえ処刑されたことも書かれてあった。病死ではなかった……。俺は腹違いの弟と妹、その母親を守る為、そしてこれ以上命が無駄に無くならないようにする為行動を開始することを誓った。


……………



「おい!アルベルト。明日はお前の19の誕生日だ。何が欲しい?また奴隷でいいか?」


「父上。それも魅力的ですが、私も成長しました。今使われていない離れの塔をすべて頂けませんか?自分で人を動かしたく存じます。」


「あそこは物置と牢屋しかないぞ。どうするんだ?」


「改装いたします。既にいくつかの部屋は済んでおりますので、そんなには時間はかからないかと。」


「すでに手は打ってあると。なるほど。次の王になるための練習か。許そう。なら使用人も何人か連れて行け。こッチの補充。調整も勉強だ!お前がしろ。」


「ありがとうございます。全身全霊を持ちまして父上の期待に答えてみせます。」


「よい。期待しているぞ。要は済んだ。ほれいけ!ワシは今から忙しくなるんでな。」


「はい。失礼します。」


あれから3年。今年で学園を卒業し王になるための勉強の本詰をしていく段階になった。この2年で出来る限りの用意、根回しはした。

俺が部屋を出ると、連れられていく亜人の女性達が王の間に連れて行かれた。見送りながら手に力を込めた。口から血の味がする。


「ウルベルト様。ここは辛抱です。気を確かにお持ちください。これからでございます。」


「あ…ああ。わかっている。サジ、すぐ離れにキャスベル、クリスティーナの部屋を用意させ移動してくれ。今なら父上にバレずに済む。他も私の誕生日の式典の用意で忙しい筈だ。ミリル、お前は協力者に通達と、できる者には誘導を頼み、協力者の家族及び亜人の使用人を出来る限りの人数を離れの塔に連れ込んでくれ。使用人達は掃除と部屋の片付けをさせろ。一度入ったものは絶対出るなと念押しを忘れるな。クルスは騎士に模様させた使用人の入れ替え、くれぐれもバレずに行えよ。ミリルはクルスの動きに合わせて遅れをとるなよ。」


「「「かしこまりました。」」」


「私は式典の出来具合を見に周る。その後は今後の為と称して幹部達を集める。サジ。マルクスに伝言し集めさせておいてくれ。手配が遅れないように念押ししとけよ。何かあればすぐに合図を出せ。」


「かしこまりました。」


後は、マリン王妃をどう連れ出すかだ。父上は俺達には興味がないからバレないが王妃はどうしても気づかれる。まだ兵の数も揃っていないというのに。焦る気持ちを抑えつつ段取りと確認事項を頭で整理し確認する。この機会を逃せばまたいつ、つくれるかわからない。ずっといい息子として過ごした。もう限界だ。


俺は皆に声をかけながら城中を周った。着実に式典と裏工作の準備を確認しつつ、幹部達に会えば俺から仕掛けて、この後の話し合いを持ちかけていった。  


『第二後継者キャスベル王子視点』


今、城中が明日の兄上の誕生日の式典にやっけになっていた。そんな中、なぜか部屋を変えると、俺の使用人のバルクが来たのはついさっき。俺の奴隷としてもらい受けた鬼人の女の子のミリと狼の獣人のグルに手伝ってもらいながら部屋の荷物を少しずつ出していく。まるで秘密裏にやっている様だ。…正直、悪いことをしてるみたいで楽しい。


「ミリ。なんか聞いてる?」


「いえ、私も何も聞いておりません。」


今、簡単に持てるものをミリと付き添いで兄上の護衛騎士に連れられて離れに向かっている。あそこは何もなかった様な気がするが?  


途中、騎士隊長にバッタリ出くわした。俺はコイツが嫌いである。


「これはキャスベル様。こんな忙しい時にどちらまで行かれるのですかな?」


「キャスベル様は明日のウルベルト様の式典にて秘密裏にお祝いをなさるつもりなのです。詮索しないで頂きたい。」


何故か俺でなく兄上の護衛騎士が答えた。


「それは、それは。ウルベルト様も喜ぶでしょうな。ところで、ミリ。またずいぶんと可愛らしくなってきたな。後少しですな。キャスベル様、いらなくなったらいつでも私めに言ってくだされ。」


俺は騎士団長を睨みつけて


「お前、無礼ではないか?継承権2番目と言えど、私は王子だぞ。」


「し…失礼いたしました。失言撤回いたします。申し訳ありませんでした。お許しください。」


「まあ、いい。私の物を変な目で見るな!!下がれ。」


「はい。失礼いたします。」


騎士団長は尽かさず逃げていった。あーやっぱりあいつは嫌いだ。


「キャスベル様。立派になられましたな。ウルベルト様もよろこばれるでしょう!」


護衛騎士が満明の笑顔で褒めてきた。なんかよくわからない。


「ごめんよ。ミリ。物扱いして。」


俺は尽かさずミリにだけ聞こえるように言った。ミリは言葉を発さずに首を振り、笑顔で返してくれた。


「ところで、離れに行ったら先程の件説明してくれるんだよな?」


「はい。もちろんでございます。しばし離れまでお付き合いください。」


府に落ちないが、兄上の護衛騎士だ。問題はないと判断した。

離れに着くとまず、入り口に隠れるように何人かの騎士がいる事に驚いた。いったい何をしようというのか?中に入って更に疑問が増えた。亜人の人達が大勢で掃除をし、荷物を運び入れている。何人いるんだろうか?とにかく沢山の亜人達が行き交っている。これにはミリも驚嘆した顔で見回していた。俺達は案内されるまま部屋へと入っていった。いくつか先に出した私の部屋にあったものが運ばれ終えていた。護衛騎士は扉を閉めて座るよう促された。


「ではこれからウルベルト様が何をしようとしているのかご説明させて頂きます。……ウルベルト様は現国王並びに官僚幹部を討つつもりでございます。」


「え!?……な…何を言ってるんだ?…討つ?殺すってことか?」


「さようでございます。この3年あまり、ウルベルト様は味方を集めてまいりました。今は実行前の段階として守る者達をこの塔に集めているのでございます。そのための部屋の移動です。」


俺は意味がわからず…イヤ、理由も目的もわかるが…この戦争時にすることなのか?

深呼吸をして一旦自分を落ち着かせる。

…そうか。今だからこそなのだろう。これを成せば自動的に戦争は無くなる。だが、シャルグ国が黙ってはいないだろう。父上には情はない。それよりも憎悪と嫌悪感の方が強い。しかし母上が…。


「母上はどうするつもりだ?そう簡単に連れ出せないぞ!!」


「承知しています。今の段階では実行日に助ける段取りとなっております。しかし、その前にできないか模索中でございます。時間があまりございません。ミリ、お前はここの片付けを。もうこの塔をでちゃ駄目だよ。キャスベル様ご一緒に戻りましょう。そろそろキャスベル様がいない事に気付かれてしまうかもしれません。」


「納得はできてないがわかった。ミリ、言われた通りしてくれ。行ってくる。」


「はい。かしこまりました。」


「ミリ。作業が終わればミリの寝る部屋に案内させるから安心して。では、キャスベル様。」


「ああ。」


俺は護衛騎士と一緒に王城の主塔に戻った。


俺は護衛騎士とすぐには部屋に行かずに何かの確認の手伝いをしながら部屋へと戻った。まあ、事前に兄さんの指示だと説明されていたから平気だが、護衛騎士自身が寄るたびに申し訳なさそうにしてきたのが嫌だった。…気持ちはわかるが。


「バルク、グル状況が変わった。グルはそのまま引越しの用意を。バルク、お前は母親と妹がいたな?ちょっとこっちで話がある。」


「かしこまりました。」


「はい。いますが、どうかなさったのですか?」


「一先ず、この場は気にしないで座ってくれ。大事なことだ。」


「し、しかし…。」


「私に頭を下げさせるつもりか?」


「い、いえそのようなことは…わかりました。」


バルクは観念して座ってくれた。


「この引越しの理由がわかった。その説明の前に確認事項がある。お前は平民だったよな。確か妹も王城のメイドで母親は兵士用の食堂勤務で間違い無いな?」


「はい。間違いありません。」


「お前のとこも母親がキツイな。…その前に、バルクはミイとグルについてどう思う?」


「はあ、そうですね。良く動いてくれますし、機転も効かせてくれますので良き仕事仲間といったとこでしょうか。…ただ。」


何やら言いにくそうな顔をして鬱めいてしまった。

その様子に少しだけ不安になった。


「頼む。お前の本心が知りたいんだ。」


「わかりました。申しにくいのですが王城での亜人の扱いは私も知っています。ミイは正直、2人目の妹の様に思っています。グルは仲間と。いつ標的になりいなくなるかと怖いのです。もし、もしそうなってしまった時にどうしようかと…私は耐えれる自信がありません。」


「ふー。そうかー。良かった。正直お前の2人に対する接し方から大丈夫だとは思ってはいたが、少し不安になったぞ!まぎらわしい。」


「は、はあ。申し訳ありません。」


顔に出さない様にしてるがふに落ちてないのは丸わかりだ。


「すまん。すまん。説明されなければ仕方ないことだな。誰にも口外しない様に頼むが、兄上が亜人の解放を目論んでいる。」


 「!?…………。」


驚きすぎで口をパクパクさせながら言葉が出ない様だ。まったく。


「それで癌である父上や首領幹部を全て排除し新しい国家を創るつもりだ。」


「ま!誠ですか?そんな事が……。排除とはもしや…。」

 

「あんな奴だ。父親とは思えていない。気にするな。時期はまだらしいが、第一段階として協力者の家族と救済対象者を離れの塔に避難させる様だ。だから妹は大丈夫だが、母親は兵士の食堂勤務だと数日だけでも休むのは勘繰られる可能性が出てくる。まだわからないところだが、すでに亜人達の避難は始まっている。すぐに怪しまれるだろう。その状況で勘ぐられるのは危ないと思っている。」


「確かにそうですね。作戦そのものがバレるかはわかりませんが、危険は避けるべきですね。私個人だけが疑われるだけなら母さんを優先したいのですが…。」


「それは当然だな。私もできるなら真っ先に母上を離れに連れて行きたいところだ。」


2人して俯いてしまった。


「今悩んでも仕方ない。一先ずはそういうわけだ。悪いが時期がきたら共に兄さんの力になってくれ。頼むぞ。」


「かしこまりました。2人のためです。私で良ければいくらでも使って下さいませ。」


「ああ。頼りにしている。」


密談を終え、グルの手伝いを済ませてから3人で離れの塔に向かった。


「グル。悪いが残りの片付けをミリと一緒に頼む。間違ってもこの塔からは出るな。これは最優先の命令だからな。」


「…はい。かしこまりました。何かしようとされているのですか?私ごときが質問など誠に恐れ多いのですが…キャスベル様もバルクさんも、私にとって恩人ですので無理はなさらないでください。」


「まあ、この塔の状況をみれば勘ぐるよな。大丈夫だ。心配するな。改めて命令だ。この塔からは出るなよ。」


「…かしこまりました。」


グルは頭を下げたまま俺たちを見送っていた。

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