第14話 トワノ国編 それぞれの思惑と日常
『ウルベルト視点』
父上が召喚魔法を実施するまで後2日。父上は今その準備に追われているのか表に出てくる事がないと思われる。今日、直接ジャヴェル村に交渉しに行くには絶好のチャンス。早朝から王都を出て数時間。やっと近くの森まで差し掛かった。
「ウルベルト様。間も無くつきます。使いのもの達は門前払いをくらい、中に入れず書状も受け取ってもらえなかったとのことです。」
「…そうか?ならこの馬車できたのは正解だな。王家の刻印なんか入ってる馬車できたら警戒されて終わるところだった。」
「いえ。残念ながら、それでも厳しいかと思います。何やらヒト族の出入りを禁止をしている可能性があるのです。行商人すらも入れない状況。さらに中に暮らすヒト族を一度も見かけなかったとの報告も受けております。」
「ん!?………。」
まさかここにきて共存を諦めたのか?いや、まさか長年かけてこの街を作り上げたはずだ。そう簡単に諦めるはずがない。それ以上の何かがおきているのか!?
『キャスベル視点』
式典翌日。何故か父上に呼ばれた。兄様は早くから出かけていなかった為相談も報告もできないまま王室にきた。入るや否や青ざめ今にでも倒れそうなほど衰弱しきっていた父上の顔に驚愕した。
「よく来た。キャス。おりいってお前に頼みたい事がある。」
弱々しい声に虚な表情で私を見ていた。
「…私にですか?」
「ああ、ああ。お前にしか頼めない重要な頼みだ。我が国はもうこれしか道がないのだ。」
「いっ………!!?これ…は…っ!!?」
目眩がしたと思ったら世界が回り歪み始める。何かされた?体が熱くなってきた。頭が割れるような痛みの中薄れいく意識を保とうと必死に堪える。
「すまぬ。すまぬ……。」
父上が何度も謝る声を聞きながらどんどん上がっていく熱を感じながら意識が消えた。
『レイ視点』
この村に来て早3年。すっかり顔なじみになったユリカやバルフ、キリリにポルク。だいたい5人でいるのが当たり前に過ごしてきた。だいぶ背は伸びたが自分の事はよくわからない。大人っぽくなったとは言われるが。バルフは可愛さが抜け、筋肉質の体つきになった事も相まって男らしくなった。それと犬歯が口を開くと目立つほど伸びていた。マリカはやはり綺麗になって可愛さが…。もともと美少女だったから余計だろう。背が伸びたのもそうだが前はショートだったのが肩に被るほど伸ばしたからなのか大人っぽくなった。…体つきも。ポルクは……ポルクだ。バギもだな。…そして、薄々感じてはいたが、メグ。メグは何故か一切変わっていない。あの頃から幼なかった気がするが、今も出会った頃のままだ。???気にしたらダメな気がする。
そして家も建ててもらい、今は一人暮らし。元々自分の事は出来る方だから大丈夫だと思ってたが、魔法がまともに使えるようになるまでマジでキツかった。学校を出ていく前にある程度使えたが体がまだ慣れずにすぐに疲れてしまう。そんな状態で暖炉に火をやるのも、料理に火を使うのも、風呂の魔石に魔力を貯めるのも、他にもあるが、全部魔力が必要だった。だからマジできつかった。因みに出ていく際にはポルクは涙目で見送ってくれた。なんだかんだ仲良くしてるから寂しかったんだろ。それと、最初の血抜き作業。やはり意味がわからんが、ポルクは今にも吐きそうな顔で俺の作業を見ていた。作業といっても剣で触るだけなんだが…。まあ、今では当たり前のように血の抜き具合を判断してくれているから助かっている。そして今年、俺とユリカ、バルフは成人の儀をする歳となった。
「今日も頼むよ。ポルク。」
俺は狩りをした獲物を持ってユリカ、バルフと共にポルクのいる食堂の裏にある解体場に来ていた。
「はい、はい。ちょっと待ってて。」
ポルクは中に入っていきリストを持ってきた。このリストに狩したものの価値を決める早見表になっている。ここから今回の給料が決まる。
「イボ猪と、マッシュベアね。レイ、血抜き作業やっちゃて。頭はマッシュベアは使えるな。イボ猪は骨だけ使うから、バルフ頼んだ。」
「了解。」
「はいよ。」
俺は頭を切り落としてから血抜きを開始した。
ユリカは見ているだけだ。まあ、血抜きが終われば解体作業してもらうから今は待ちなだけだけど。
「それにしても、レイはいつまで眼帯したままなの?もう自分で制御出来るんでしょ?」
「ああ。ラゴルドさんに教わったから大丈夫だよ。魔剣に飲まれるのも心配ないみたいだし。だけど、なんか無い方が落ち着かなくて…。それに興奮するとたまに出ちゃうからな。着けてても今は透視の魔法陣に書き変えたから両眼見えるから問題ないよ。」
「まあ、似合ってはいるけど。ない方がいいと思うよ。」
遠回しに似合ってないって言われた気がしたが、愛想笑いでごまかしておいた。
「もういいよ。」
「了解。マリカ、解体よろしく。細かくすんのは俺がやるからさ。」
「うん。わかった!」
マリカは薙刀を取り出して手足を切り離し、背骨に反って大まかに切り分けていく。俺はそれを保存しやすい大きさに切り分けてからポルクに渡していく。
ひと段落終えた頃、マリカがまたあの話題を言ってきた。
「そういえば、また大人達は会議してるみたいだね。さっさと加勢してヒト族なんか蹴散らしちゃえばいいのに。」
ここ数年で戦場の方に動きがあった。劣勢だった筈なのだが、少しずつ追い上げ今では状況次第では勝てる見込みまででてきた。そのせいか、この街の中でも加勢すれば勝てるのではと言い出した勢力が出来てしまった。そいつらをなだめるために会議が2、3回行われたが見送る形で終わり、今回の会議に繋がったわけだ。マリカは会議の度に今のセリフを言っていた。
「相変わらず戦争に賛成なんだね。前にも言ったし、ラゴルドさんも同じ考えだと思うけど、トワノ国に勝っても解決しないし、シャルグ国はそう簡単に落とせないよ。だから余計に戦争が長引いて被害者が増えるだけだ。だったらこの村を町に町を都市にしていった方が間違いないんだよ。未だに魔壁は壊されてないんだから。」
「レイはそのためなら今奴隷で苦しんでる同朋は見捨てろっていうの!!」
また、それを言うのか…。以前も同じような話になった。そん時ははぐらかしたが、情勢を考えるとちゃんと話さないとやばい気がした。
「そうじゃないよ。戦争が長引けばこっちの死ぬ人も増える。奴隷も殺されていくだろうから、死なせるのを早めるだけだ。助けられる人もいるだろうけどそれ以上に死ぬ人は増えるんだよ。マリカは助けられた人たち以上に死んでいった人の家族に何ていうつもりだい?」
マリカは顔を伏せて黙ってしまった。マリカの妹のことは聞いていたから気持ちは察せる。理解はできないだろうが。俺は実際には奪われたことがないから。それでも毎度戦争賛成の意見を言っていたマリカが心配だった。マリカは優しい。他人を思いやる気持ちをちゃんと持ってる子だ。だから、事実を突きつけてあげないと、もしもの時マリカが壊れてしまう気がして言うしかないと思った。
「マリカ。マリカさえ良ければ、妹さんを探すのも助けるのも協力するよ。戦争でなければね。個人的に計画を立てればいい。奪われたんだ。奪い返せばいい。ただまだ俺たちはまだ子供だ。成人の儀を終えたら話さないか?」
マリカは驚いた顔で俺を見つめた。しばらくして目に涙いっぱい溜めながら首を横に振る。唇を噛んで我慢して言葉が出せないようだ。
「いや勝手に協力するよ。口だけじゃない。マジでやるから。バルフもポルクも協力してくれるから大丈夫だ。」
マリカは両手で顔を覆いながら涙を抑えた。
「当たり前だ。ふられたがまだ俺はお前が好きだ。お前のためなら命くらいはってやる。」
バルフは男らしく腕を組み堂々とマリカに言った。
マリカは堪えられず涙をたくさんこぼしながら頷いてくれた。
「ちょっと、レイ!僕まで入れたが、戦闘向きじゃないんだよ、僕は!そりゃあ助けにはなりたいけど…。」
ポルクが言いづらそうに俺を睨みながら言ってきた。
「わかってるよ。ポルクはサポート役にと思ってるから安心して。まだ計画立ててからだけどね。それならやってくれるだろう?」
「仕方ないな。マリカの為ならやるよ。…僕は惚れちゃいないからな!!僕には決めた人がいる!!!マリカは可愛いが妹みたいなもんだ。だからだぞ!!」
マリカもポルクの慌てる様子を見ながら泣きながら笑っていた。
「だからさ、成人の儀の後は俺たちと一緒にいろよ。勝手に出てったら、俺たちだけで妹さん助けに行くからな。マリカが連合軍に入ったのを意味なくすから。」
「………うん。……あ…り…がどう。」
両手で目を押さえながらなんとか返事をしてくれた。
「何言ってんだか。俺にとって、マリカは恩人なんだから当たり前だろ。バルフは未だに好きだっていわれたろう?ポルクは妹だってさ!お姉ちゃんの間違いじゃないか?」
2人は笑い、本人はキリッと睨みつけながら近づいてきた。
「おい。レイ!それは身長をいってるのか?僕の身長をいってるのか?そもそもお前らみたいにデカくなんないんだよ!!ドワーフだからな!!差別だぞ!!」
俺の目の前まで来て下から睨みつけられる。
「冗談だって!そんなムキになんないでよ。出会った頃は同じくらいだったのにな。」
「だ・か・ら、それは種族差別だぞ!!!」
ムキになってきたからマジで謝った。
「じゃあ2回目いくか!!!」
「おう。マリカは顔洗ってこい。門で待ってるから。」
「ありがとう。バルフ、レイ。…ポルクも。」
「おい!ついでみたいな間をいれないでくれよ。」
ため息まじりで言いながら優しい目でポルクがマリカを見ていた。
「ごめん。お兄ちゃん。レイのおふざけが移っちゃったみたい!」
「ふざけてないで行ってこい!!!…ったく。」
顔を赤くしているポルクを眺めながら3人は2回目の狩に向かった。
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