2021年

晴れ時

 晴れている。空は。私はそうでもない。曇っているわけでもない。普通。そう、普通だ。平常。やや曇りがかって時々太陽が覗く程度に普通で凡。今のところ傘も合羽も必要はない。

 いやに肌寒い日が続いている。日差しは心地よく感じるような気がするのにそんなことはなく、ただただこうしてベンチに座っているだけでも全身が震える。ああ、気がつくべきだった。見ろよ、息だってこんなに白いじゃないか。どうしてあの時の私は上着をもう一枚追加しなかったのか。晴れていたからだ。証明終了。


 ああ、ああ。いやいや待ってくれ。悪かった。別に晴れていることを悪く言ったわけじゃないんだ。だからせめて、もう少しだけ雲に隠れることはやめてくれ。あと一時間かそこら、私の暇が潰れた頃になら雨が降ってくれたってなんなら雪でも嵐でも構わないんだ。今じゃない。

 だからさぁ。今じゃないんだって。どうしてうまくいかないのか。なぜ雨が降り出すのか。誰だ。傘はいらないと言ったのは。そう、私です。私が全て悪いのです。そうだよ、この野郎が。謝りなさい。ごめんなさい。許してください。どうかこの通り。これ以上は下がらないぞ。寝るぞ。いいのか。寝そべるぞ。


 天気というやつは意外と器が広いらしい。深く深く頭を下げればいとも簡単に空を青く染め上げてくれた。ちょろい。失礼。寛大だ。最高。空最高。空になりたい。鳥にはなりたくない。空。私は空だ。そう、私は空になるのだ。空になって――――来ない君を見つけ出すのだ。逃げられるものか。私は空だぞ。どこへ逃げようと探し出すとも。埃とともに降り注ぎ、霧となり潜り込もうじゃないか。我ながら気色が悪い。天候も悪い。ほら、また雨だ。やけに今日は荒れているじゃないか。どうした。私とシンクロしているのか。構わないぞ。共に踊ろうじゃないか。フォークダンスは得意なんだ。任せろ。思えばあれは小学校、いや中学? 高校? 大学? おや? 私はフォークダンスの経験などなかったか? はははすまない空よ。嘘だった。踊ったこともない。そこから虚構だ。私は嘘つきなのだ。騙されたな。


「……何やってんの?」

「空と話してた」

「は?」


 私を覗き込む見慣れた顔は呆れ果てていた。是非もない。そりゃあ、そうだろう。全身ズブ濡れになって天を仰ぐ者がまさか自分を待つものだとは思いたくはないだろう。しかし残念、私だ。私が君の待ち人だ。いや、人待ち人だ。待っていたのは私だ。ようこそ、歓迎しよう。

 ほら、今だぞ太陽。今こそ私を照らすのだ。なあ、おい。話が違うぞ。私とお前は親友じゃないか。今だぞ。晴れをくれ。ください。曇りではない。暖かさを、温もりを私に。違う。雪ではない。雪はよろしくない。それは想定していない。さ、寒い。これはまずい。絶交だ。今日限りで天気のやつとは縁を切る。付き合ってられるか。


「ほら、行くよ」

「はい」


 今日のところは休戦としよう。いやむしろ私の勝ちだ。私が勝てぬものなど存在しない。勝ち続けて今に至り、私こそが勝ちである。勝利と字を引け、それが私だ。

 ……だからお願いします太陽さん。寒いのです。空に光を。晴れを。私には暖を。よろしくどうぞ。頼みましたよ。[了]

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