一人、教室にて

 淡々と、ただ黙々と、ノートに文字を書き連ねていく。そこには何も感情などありはしない。私は機械だ。そう、私はただただ浮かんだ物事を後世に伝えるだけの機械なのだ。何も考えず、何も……。


 ……そう思わずにはいられない。まさか補習を受けることになるのが一人だとは。いや、いやいやまさかどうしてこんなことになったのだろうか。準備は万端だったはず。あくまでも自分基準ではあるが。それでも私は確かにやり切った。その結果がこれか。

 ではやらなくても同じだったのでは、と悪魔が囁く。天使までもが同調する。私の中には怠惰が渦巻いているらしい。その通りだと思う。

 しかし。しかしである。観たい映画があった。行きたい場所があった。食べたいものがあった。それら全てを犠牲にしてまで、得られたものがこの補習だ。得られたのか、これは。手にしたと言えるのか。放しているのではないか。


 さて。この問題、全く分からん。補習というものは得てして解きやすいものが出ると聞いたがあれは都市伝説だったのか。はて、誰が言っていたのだったか。漫画の主人公であったか、それとも小説の登場人物の一人であったか。そういえばこの前読んだ小説は良かった。初めて手にしたシリーズだったが、あれは良い。良い以外にない。どこが良いかと聞かれれば、良かったと胸を張って言えるほどには良い。帰ったらまた始めから読もう。そうしよう。


 廊下から誰かの話し声が聞こえ、思わずペンを止める。元々止まっていたがそれは気にしないことにする。難題などなんてことなく解けていたなら私はここにはいない。進む必要などない。人生、立ち止まることも必要なのだ。


 ……なぜこの教室の前で談笑を続けるのか。早く行ってはくれないだろうか。立ち止まっていてばかりではよろしくないと私は思う。進め、進めよ若者よ。おそらく同級生だろうが、この際考えないものとする。


 考えない。

 ……考えない?

 ああ! そうか、そういうことか!


 唸るだけ無駄であったのだと私が結論づけて教室を飛び出すまで、そう長い時間は要しなかった。

 さらに追加で補習が行われるのはまた別の話である。[了]

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