灰の降る国
この国には灰が降る。遥か遠くに見える雲を貫く巨大な塔から撒き散らされている粉状の物質が風に飛ばされてきているのだと人々は噂し、それは神の恵みであると拝む集団がいれば、いつか厄災が訪れると喧伝する輩もいる。
塔の存在意義が何であるのか答えられる者は誰もいない。誰が作ったのかを知る者もいない。知ろうとする者もいない。知ったところで、それを伝えたところで世界が一変するのだろうか。
そんなことより金がない。薄い財布の中身が現実を突きつけてくる。これではもって数日だ。切り詰めて一週間。普段どおりに飲み食いすれば半日経たずに消え失せるはした金。肉や魚は食えず、当然酒も飲めない。溜まるのは不満ばかりである。
――塔には財宝が眠っておる――
いつだったか隣のボケ爺が半分眠っているような状態の時に呟いていた気がする。世迷い言だろうが、つい先日にもどこか遠くの国で未踏の遺跡が見つかったと聞くし、信じてみる価値はあるかもしれない。一攫千金、目指さぬは賞金稼ぎの恥なりというやつだ。
塔までは三日ほど歩いた。近づくにつれて生物の気配は段々と減っていき、見上げる頃には周りには草木の一本すら確認できなかった。
それは明らかに人工物で、手のひらで触れると確かな厚みと冷たさを感じた。どこか入り口がないかと白く塗られた土台の外周を進んでいくと扉を見つけることができたが、どうやら鍵が掛かっているようだった。
扉を叩く。返事はない。蹴飛ばしてみるとちょうど中の様子を窺うことができるくらいの穴が開いた。覗いてみると、そこには――
「前置きはいい。で、財宝はあったのか?」
「あった。それだけは間違いない。この目で見た」
「でも気づいたら家にいたんだろ? 夢でも見たんじゃないのか」
「いいや。あれは現実だった」
数日後の話である。私はあの時のことを友人に話していた。
宝はあった。これは事実である。まばゆいばかりの金銀財宝が床一面に散りばめられ、壁にはこれまた必要以上に装飾された刀剣が掛けられていた。
そして、部屋の中央には××××がいた。
「あ? なんだって?」
「××××。そう、××××だ。知っているだろう」
「なんだそりゃ。やっぱりお前、夢でも見てたんじゃないのか」
友人が机を叩いて笑っているが、あれは断じて夢などではなかった。××××はこちらの存在に気がつくと――ああ、そうだ。私が塔を訪れたあの時、××××は初めてこちらの存在に気がついたのだ。気がついてしまったのだ。私のせいだ。私の愚かな行いで、この国には今日もまた灰が降る。明日も、そして明後日も。それが止まることはもう二度とないのだろう。
気のせいか、降る灰が濃くなったように感じた。
窓の外からは××××が変わらずその姿を覗かせていた。[了]
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