ゲームに負けて奢る話
「先輩の体力に百ポイントのダメージ。さらに気力を同数回復してリセット」
「サイコロを振ってくれ」
「ころころ、と。三マス進んで……あぁ、出発地点に戻る。一回休みですね」
「それでは、ハートのキングとクイーンを墓場に送って飛車を召喚。王手だ」
「罠を発動します。革命してチェック。さて、どうします?」
「参りました」
何度立ち向かっても勝てない。勝利のビジョンが全く見えない。毎度毎度絶妙なタイミングで角を取られ、リーチを掛けられる。リーチ。これか。相手がリーチを掛けてきた瞬間にこちらもすかさずリーチを返す。そうすればあとは自然とペアが揃い、頃合いを見計らって革命を起こして上がれる。
いや、駄目だ。こいつの得意としている手は同色。革命に墓荒らしをぶつけられたらそれこそ無様の一言だ。どうする。
「ちょっとこれ、運ゲーが過ぎないか?」
「そうでしょうか。先輩があまりにも脳筋すぎるだけでは」
「やってやろうじゃねえか」
「受けて立ちましょう」
手札には月見で一杯。上々の出だしだ。不要なカードを二枚選んで墓地へ。増えたサイコロを転がし十マス進む。分かれ道は……堅実コースへ。ここまでは問題ない。ここからだ。後輩の薄ら笑いが見えるが気にしていては負ける。ここは強気でトーテムをセット。
「あ、二歩ですよ」
「……参りました」
「運ゲー以前の問題では……?」
後輩が手札を公開する。ロイヤルストレートフラッシュ。どちらにせよ負けていたということだ。しかし初手からこんな大役、さては……。
「イカサマしているな?」
「ふむ。疑う気持ちは分かります。それではこうしましょう。私はサイコロだけしか使いません」
「言ったな。これで負けたほうが奢りだからな」
「良いのですか? 私は今お腹が空いていますよ。たらふくぺろりです」
後輩からのスタート。サイコロを一個転がし、二個、三個……。
「いやいやいやいや、さすがにそれは卑怯だ! ジャッジ! ジャッジを! 黒! 黒だ!」
ルーレットを回す。無慈悲にも玉は赤へ。それは終結を意味した。これ以上の追求をするには駒が足りない。訴えはむなしく却下。完全敗北である。
「う、ぐぐ……参りました……」
「さて。行きましょうか! 先輩にもごちそうしてあげますよ!」
人の金であることを気にしようとはせず、踊りだしそうなほどに浮かれている後輩。結局、二時間ほど対戦して一度も勝てなかった。
ふと外を見れば、舞い落ちる花びらが一枚。
季節は春。甘味の美味しい季節である。[了]
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